カーボンニュートラル、気候変動対応
考え方
出光興産は、カーボンニュートラル(CN)・循環型社会の実現に向けて、自社グループの強みである「社会実装力」を発揮し、「人々の暮らしを支える責任」と「未来の地球環境を守る責任」を果たすことを目指しています。気候変動関連対応の取り組みに関しては、2020年に賛同署名したTCFD提言に沿った形での情報開示を継続しつつ、IFRS S2のフレームワークでの開示を念頭に、開示拡充を進め、ステークホルダーの皆さまのご理解と協働のもとで取り組みを加速させていきたいと考えています。
「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同署名
当社は、2020年2月14日に、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、以下TCFD)提言に賛同し、署名しました。
本ウェブサイトにおける気候変動関連開示
本ウェブサイトにおける、TCFDフレームワーク各項目の掲載ページは、下表に記載の通りです。
領域 | TCFD提言 | 当社の開示 |
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ガバナンス | ① 気候関連のリスクと機会についての、取締役会による監視体制を説明する。 | ガバナンス |
② 気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営の役割を説明する。 | ||
戦略 | ① 組織が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会を説明する。 |
役員メッセージ 戦略 |
② 気候関連のリスクと機会が組織のビジネス戦略および財務計画に及ぼす影響を説明する。 | ||
③ 2℃以下シナリオを含む、様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンスについて説明する。 | ||
リスク管理 | ① 組織が気候関連リスクを識別および評価するプロセスを説明する。 | リスクマネジメント |
② 組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明する。 | ||
③ 組織が気候関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが、組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて説明する。 | ||
指標と目標 | ① 組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標を開示する。 | 指標と目標 |
② Scope1、Scope2および組織に当てはまる場合はScope3のGHG排出量と関連リスクについて説明する。 | CO₂排出量(Scope1、2、3)実績推移 | |
③ 組織が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標、および目標に対する実績を開示する。 | 指標と目標 |
(補足項目)
領域 | TCFD提言 | 当社の開示 |
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温室効果ガス排出 | Scope1、2、3の絶対排出量、排出原単位 | CO₂排出量(Scope1、2、3)実績推移 |
移行リスク | 移行リスクに対して脆弱な資産または事業活動の量と範囲 | リスクと機会 |
物理的リスク | 物理的リスクに対して脆弱な資産または事業活動の量と範囲 | リスクと機会 |
気候関連機会 | 気候関連の機会につながる収益、資産、事業活動の割合 | リスクと機会 |
資本配備 | 気候関連リスク・機会に向けて配備された資本支出、資金調達、総額 | 投資意思決定体制 |
ICP | 組織内で使用されるCO₂排出量1t当たりの価格(内部炭素価格) | 戦略 |
報酬 | 気候配慮に連動する役員報酬の割合 | 役員報酬 |
ガバナンス
当社のコーポレートガバナンス体制概要は、以下リンク先に記載の通りであり、気候変動対応に関する補足情報は以下の通りです。
取締役会
化石燃料販売を主たる事業とする当社にとって、気候変動対応は、最重要経営課題の一つであり、中長期の時間軸で大規模な事業ポートフォリオ転換を伴う取り組みです。
取締役会は、本課題を様々な角度から多面的に捉えて経営方針を定めるとともに、その方針に基づいたアクションが、迅速かつ着実に実行されることを監督する役割を担っています。
取締役会を構成する11名の取締役は、環境・資源循環・国内外のエネルギートランジションの動向・関連する先進技術・サステナビリティなど、様々な分野において経験と実績および知見を有する者で構成しています。
気候変動関連の主要な議案は、業務執行の最高審議機関である経営委員会に付議され、特に重要な内容は、取締役会に報告されます。これにより、取締役会は全社方針に基づいた執行が着実に行われているかを監督する体制としています。
業務執行
化石燃料販売を主たる事業とする当社にとって、気候変動対応は、最重要経営課題の一つであり、中長期の時間軸で大規模な事業ポートフォリオ転換を伴う取り組みです。取締役会は、本課題を様々な角度から多面的に捉えて経営方針を定めるとともに、その方針に基づいたアクションが、迅速かつ着実に実行されることを監督する役割を担っています。気候変動関連の主要な議案は、経営委員会に付議され、特に重要な内容は、取締役会に報告されます。これにより、取締役会は全社方針に基づいた執行が着実に行われているかを監督する体制としています。
気候変動対応と役員報酬の連動
当社の取締役(非常勤取締役および社外取締役を除く)および上席以上の執行役員の報酬体系は、①固定報酬、②業績連動賞与、③業績連動型株式報酬により構成しており、③業績連動型株式報酬には、カーボンニュートラル・循環型社会の実現に必要不可欠なCO2削減指標も含まれています。
戦略
シナリオ分析
2050年に向けた長期エネルギー事業環境シナリオ
気候変動対応の具体的な検討は、2050年までを対象とした長期事業環境シナリオを策定し、シナリオのアウトプットを踏まえてリスクと機会を特定し、具体的な戦略立案へと進めています。
2019年に当社として最初となる事業環境シナリオの対外公表以降、社会の環境変化に応じて、随時シナリオの見直しを行い、中期経営計画(2023~2025年度)の検討においては、3つのシナリオを想定し、その中でも、脱炭素が一番進展するIEAのネットゼロシナリオに類似する、「碧天+」シナリオを強く意識して計画策定しました。
「碧天+」シナリオでは、“1.5℃目標”の実現に向けて各国政府が急ピッチで対策を進め、非常に早いペースで種々の脱炭素技術が社会実装されることで、2050年CNが達成される世界を想定しています。このシナリオでは、再生可能エネルギーに加え、原子力発電や水素・アンモニア燃焼発電、CCS(Carbon Capture and Storage、炭素回収貯留)付き火力発電、合成燃料、ネガティブエミッションなど、様々な脱炭素技術が導入され、“総力戦”でパリ協定の目標が達成されます。また、アジア太平洋地域内の石油需要については2025年にピークアウトし、国内石油需要は2019年比で、2030年に3割減、2040年に6割減、2050年に8割減と見込んでいます。
●長期エネルギー需要見通し
リスクと機会
2050年に向けた長期事業環境シナリオに基づき、気候変動に係わるリスクと機会の洗い出しを行っています。各領域別に、想定される時間軸、財務影響レベル、ならびに当社の対応を取りまとめ、下表に記載した内容に沿って、具体的な取り組みを進めています。
リスクと機会への対応として、既存事業の収益強化と資本効率化、事業構造改革投資による新規事業の創出、事業ポートフォリオ転換などに取り組みます。これにより2030年時点で、営業利益+持分損益ベース2,700億円を目標としています。
区分 | 内容 | 時間軸 | 財務影響※1 | 当社の対応 | ||||
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~2025 | ~2030 | ~2050 | レベル 1 |
レベル 2 |
レベル 3 |
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移 行 リ ス ク Transition risks |
国内化石燃料需要の減少 | ● | ● | ● | ✓ |
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技術革新によるエネルギー価格、資源価格の低下 | ● | ● | ✓ |
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政府によるカーボンプライシングの本格導入 | ● | ● |
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化石資源採掘事業に対する規制、金融機関の慎重な投融資姿勢 | ● | ● | ✓ |
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炭素排出の多い企業に対するブランドイメージの低下 | ● | ● |
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物 理 リ ス ク Physical risks |
自然災害や海面上昇による沿岸拠点の被害、操業への影響 | ● | ● | ✓ |
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異常降水や台風の頻発などによる陸上・海上輸送への影響 | ● | ● |
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機 会 Opportunities |
化石代替燃料の需要拡大(固体燃料) | ● | ● | ✓ |
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化石代替燃料の需要拡大(ガス体燃料) | ● |
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化石代替燃料の需要拡大(液体燃料) | ● | ● |
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低炭素燃料/原料供給拠点の重要性拡大 | ● | ● |
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CN社会実現に貢献する製品、素材の需要拡大 | ● | ● | ✓ |
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次世代蓄電池の需要拡大 | ● | ● |
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循環型社会実現に向けたリサイクルの本格拡大 | ● | ● |
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地域社会へのエネルギー安定供給 | ● | ● | ● | ✓ |
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電気自動車の普及拡大 | ● | ● | ● |
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再生可能エネルギーの需要拡大 | ● | ● | ● |
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分散型エネルギーシステムの進化、需要拡大 | ● | ● | ● |
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トランジション戦略
上記のリスクと機会の「当社の対応」には、2030年までの社会実装テーマ候補を含んでいます。当社は2050年に向けたトランジション戦略の一環として、これらに取り組んでいます。
投資意思決定体制
CNに資する新規事業拡大に向けた投資は、2030年までに累積8,000億円規模を計画しています。
CN社会の実現に向けた全社課題の立案・遂行を加速させる必要があるという認識の下、2021年7月にCNX※戦略室を新設、更にはグループ内での情報共有と迅速な意思決定に向けて2023年12月にCNX※戦略本部を設置しました。下図に記載の体制の下、各事業部門の人員を250名規模で配置し、CNに資する各プロジェクトについて、新規事業テーマとして掲げた16のプロジェクトから、市場の蓋然性、既存アセットの活用度、有力事業パートナーや当社の技術優位性の有無などの観点からスクリーニングを進めた結果、2050年のCNに向け取り組むべき投資(CN投資)として、ブルーアンモニア、e-メタノール、SAF、リチウム固体電解質の4事業を重点事業に選定、すでに具体的な取り組みに着手しています。
なお、新規プロジェクトに係る投資は、プロジェクト前後でScope1、2、3排出量、ならびに他者の削減貢献量の変化を確認のうえ、内部炭素価格(インターナルカーボンプライシング、100$/t-CO2)を用いて感度分析を実施し、投資案件評価の際の参考としています。
当社トランジション戦略の外部評価
当社のトランジション戦略は、経済産業省が主導する、クライメート・トランジション・ファイナンスのモデル事例として採択されています。
リスク管理
指標と目標
指標設定の考え方
CN社会の実現に向けては、事業遂行に伴う自社の直接・間接排出量(Scope1、2)の削減と、新たな製品・サービスの提供を通じた他者排出量削減への貢献(Scope3削減、削減貢献量創出)の両面からの取り組みが必要と考えています。
本取り組みを進めていくうえでは、排出量を削減するという環境面への貢献と共に、エネルギー供給という社会面への貢献と、企業収益の維持・拡大という経済面への貢献をいかに同時に実現していくか、という点が重要という認識の下、当社は以下に記載する3つの指標を設定して、関連活動の進捗をモニタリングしています。
指標の目標値と進捗
各指標に関する目標値(目指すレベル)と2023年度実績値は、以下に記載の通りです。
指標1
(Scope1+2排出量)2030年:▲46%(2013年比)
2050年:カーボンニュートラル(CN)
2023年実績:▲14.6%
●CO2排出量(Scope1+2)
指標2
(Carbon Intensity)2030年:▲10%(2020年比)
2040年:▲50%(2020年比)
2023年実績:▲1.1%
CN社会実現に向けた、サプライチェーン全体での排出削減に関して、環境への貢献(CO2削減)と社会への貢献(社会が必要とする低炭素エネルギー供給)の同時実現の観点から、“Carbon Intensity”という指標を用い、目標値を設定して、関連取り組みを進めていきます。
2023年度は、基準年(2020年度)と比較して、販売した化石燃料のうち、Carbon Intensity(CI値)が高い石炭の販売比率が減少し、CI値が低い天然ガスや石油製品の販売比率が増加したため▲1.1%となりました。
当社が将来の事業分野として掲げている“一歩先のエネルギー”は、いずれもScope3削減に大きく貢献する取り組みであり、本分野の社会実装を通じて、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していきたいと考えています。
当社が将来の事業分野として掲げている“一歩先のエネルギー”は、いずれもScope3削減に大きく貢献する取り組みであり、本分野の社会実装を通じて、CN社会の実現に貢献していきたいと考えています。
社会実装テーマ | 想定事業規模 | ||
---|---|---|---|
単位 | 2030 | 2040 | |
水素・アンモニア | 万ton | 100 | 400 |
SAF・バイオ燃料・合成燃料 | 万kL | 50 | 250 |
ガソリンへの非化石燃料混合※ | % | 10 | 20 |
出光グリーンエナジーペレット | 万ton | 300 | 300~ |
植林・CCSなど | 万ton | 100 | 700 |
指標3
(化石燃料事業収益比率)2030年:50%以下
2023年実績:91.5%
需要動向に応じて化石燃料事業の規模縮小を進めつつ、新規のカーボンニュートラル燃料事業の規模を拡大することで、全社の収益レベルを維持・拡大しつつ、サプライチェーン全体でのCO₂排出量を削減していきます。
●事業ポートフォリオ転換を通じた、Scope1、2、3排出量削減イメージ
取り組み
気候変動適応対応
激甚化する自然災害に対して、地震・津波・高潮など様々な被害を想定し、リスクを抽出し、災害発生時の製油所・事業所へのダメージの極小化と早期原形復旧をすることがきわめて重要です。当社は保安力強化として設備への投資でハード面を強化するとともに、想定を超える災害に対しても減災対応の観点からソフト面の充実を図ることで、エネルギーの供給使命を今後も果たしていきます。
昨今では、勢力を維持しつつ縦断する台風が多くなってきており、気候変動が一因ともいわれています。台風によってもたらされる高潮は、沿岸地域に位置する製油所・事業所の浸水リスクを高めます。そこで当社では、今後想定される最大級の台風が製油所・事業所へ直接上陸するルートをシミュレーションし、高潮による浸水影響に関するリスク分析を実施しています。この分析結果を踏まえて、海水ポンプ室への浸水壁設置などのハード面での補強や防災対応マニュアルの充実によるソフト面での減災対策などの検討を行っています。
●製油所高潮被害想定検討の前提となる台風経路想定
●高潮被害の想定イメージ
バリューチェーン全体でのCO₂排出量の削減
燃料油の低炭素化
エネルギートランジションの実現に向けて、まずは当社が有している財産(顧客・人財・店舗・システム・インフラ・設備など)を着実に生かし、次世代ビジネスに向けた新規投資と併せ、お客様に多様なエネルギーを安定的に供給できる体制を作り上げます。
バイオマス燃料分野では、最先端技術を用いたSAF製造設備(生産量10万kL)を千葉事業所内に建設し、2026年の供給開始を予定しており、航空輸送業界の低炭素ソリューションとして貢献を目指しています。なお同取り組みはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業※1に採択されています。
2030年にはSAF※2を国内で年間50万kL生産する体制構築を中間目標としています。この体制構築の中では原料調達とバイオ化学への展開を連動するとともに、内燃機油であるバイオディーゼルの供給をお客様に開始していきます。
CNXセンター化構想
当社が掲げるCNXセンター化構想とは、化石由来のエネルギー製造拠点として長年操業してきた製油所・事業所の特徴・強みを活かしながら、新たにカーボンニュートラル燃料・製品の供給拠点として生まれ変わらせることです。その際、各拠点が所在するコンビナートの特色や需要に応じた新たなサプライチェーンを構築し、コンビナート全体での「カーボンニュートラル化」に貢献します。
徳山事業所・周南地区におけるアンモニアサプライチェーン構築
当社、東ソー(株)、(株)トクヤマ、日本ゼオン(株)の4社は、2030年までに周南コンビナートにおける年間100万トン超のカーボンフリーアンモニアの供給体制を確立することを目的とした共同検討を開始しました。当社徳山事業所の桟橋・貯蔵施設を周南コンビナートにおけるアンモニアの共通供給拠点として整備し、周南コンビナート各社(需要側)へのアンモニア供給インフラ検討を行います。また、今後4社は本事業をベースとして、実装置でのアンモニア燃焼実証などの様々な取り組みを通し、周南地区における国内初のアンモニアサプライチェーンの構築を推進します。
千葉事業所におけるATJプロセス技術によるSAF製造
当社は、世界初の10万kL級ATJ実証設備の開発に取り組み、2025年度に千葉事業所内にATJ技術によるSAF製造装置を建設し、2026年度から供給を開始します。原料となるバイオエタノールについては国内外からの調達の多角化を進めて国内初の大規模サプライチェーンを構築し、SAFの早期社会実装を目指します。2030年には年間50万kLの生産体制を構築します。
省エネルギー・消費電力ゼロエミッション化の推進
重油直接脱硫装置の効率化改造工事の実施
2020年5月に千葉事業所において、重油直接脱硫装置(RH装置)の効率化改造工事を実施しました。この工事はIMO(国際海事機関)が定める船舶用燃料の低硫黄分規制へ対応を図るものです。
高効率ナフサ分解炉の建設(徳山事業所)
徳山事業所に高効率ナフサ分解炉を新設、2021年2月に商業運転を開始しました。高効率ナフサ分解炉は、原料であるナフサを短時間で熱分解することでエチレンの得率を高め、熱効率を向上させます。これにより、従来の分解炉によるエチレン生産時と比較し約30%の省エネルギー効果が発揮でき、年間約16,000tのCO₂削減に寄与します。ナフサは粗製ガソリンとも呼ばれる石油製品の一つで、分解炉を経由し熱分解することで、エチレンやプロピレンなどといった石油化学製品の基礎原料となります。
徳山事業所ではエチレン製造装置により年間約62万tのエチレンを生産し、主に周南コンビナート(山口県周南市)に供給しています。今回、エチレン製造装置内にある旧型のナフサ分解炉2基を停止し、高効率ナフサ分解炉1基を新設しました。
再生可能エネルギー由来電力の利用拡大
2020年度から国内の油槽所17拠点他にて、当社グループである出光グリーンパワー(株)提供のCO₂フリー電力(契約電力3,732kW)を使用することとしました。
海上油田への再エネ電力供給
当社持分法適用会社の株式会社INPEXノルウェーはノルウェー現地法人INPEX Idemitsu Norgeを通じ、権益を有するスノーレ油田において、浮体式洋上風力発電導入の開発計画をノルウェー政府に提出し、同政府から承認を得ました。2023年5月には、スノーレ油田へ浮体式洋上風力発電による送電を開始しました。当開発計画は、ノルウェー西部ベルゲン市の沖合約200kmの位置に、定格8千kWの浮体式洋上風力発電設備11基(計88千kW)からなる洋上ウィンドファーム(名称:Hywind Tampen floating wind farm)を建設し、石油ガス生産設備へ直接接続するというもので、世界初の試みです。当社は今後も、先進的な技術を積極的に取り入れ、資源事業における環境負荷低減を推進していきます。
環境配慮型製品・サービスの供給
石炭ボイラ制御最適化システム(ULTY-V plus™)販売
日本郵船グループとボイラ制御最適化システム「ULTY-V plus™」を共同開発しました。ULTY-V plus™の導入により石炭使用量が約1%削減でき、その結果、お客様の経済性の向上とCO₂排出量の削減につながります。2019年3月には日本郵船グループと折半出資で、郵船出光グリーンソリューションズ(株)を設立、該社を核に提案販売に力を入れています。2021年度には、北陸電力(株)向けに4基受注し、この4基導入によるCO₂排出量は約10万t/年の低減見込です。今後も国内外に向けた販売を進めていきます。また、石炭ボイラにおけるバイオマス燃料の最適な混焼率を算出するシステム(製品名:「BAIOMIX™」(バイオミクス)、以下「本システム」)を開発し、2021年8月に販売を開始しましたULTY-V plusシステムへ本システムを搭載することで、石炭ボイラでのバイオマス混焼を最適に自動制御することが可能となります。
当社は、石炭火力発電所でのバイオマス混焼を拡大するため、粉砕性や発熱量などに優れ、石炭とほぼ同様に取り扱うことが可能な半炭化した木質ペレット「出光グリーンエナジーペレット」の開発を行っており、既存の石炭火力発電設備を利用したCO₂の低減に取り組んでいます。
今回開発した本システムは、「出光グリーンエナジーペレット」をはじめとしたバイオマス混焼による、機器や発電効率への影響・経済的負担を算定し、過去の混焼率データからAI(人工知能)が最適な混焼率を算出します。なお、石炭とバイオマス燃料を既存設備で混合してから燃焼する方式に加え、バイオマス燃料を専用ラインから投入し石炭と炉内混焼する方式など、様々な燃焼方式で利用可能です。
再生可能エネルギー発電の拡大
徳山バイオマス発電事業の取り組み
当社グループは、再生可能エネルギー活用によるCO2削減やエネルギーの地産地消に資する取り組みとして、バイオマス発電事業に取り組んでいます。現在までに、高知県の土佐グリーンパワー(株)、福井県の(株)福井グリーンパワーへの出資や、製油所跡地を活用した京浜バイオマス発電所を展開してきました。
2023年1月には、グループ4カ所目となる徳山バイオマス発電所の営業運転を開始しました。当発電所は、2014年に閉鎖した徳山製油所(現:徳山事業所)の跡地の一部と既存のインフラを活用しています。日本の国土面積(3,780万ha)の約7割は森林であり、そこで未使用のまま放置されている間伐材などの活用が長年の課題となっています。当社は、当面の間は、輸入木質ペレットとパーム椰子殻(PKS)を使用※しますが、中長期的には国産の間伐材や製材端材などを使用することで、環境保全に配慮した持続可能な森林づくりと林業振興、国内森林資源の循環利用に貢献します。
また当社は、山口県周南市が2021年1月に発足した、木質バイオマス材利活用推進協議会に発足当時から参画しています。豊富な森林資源とバイオマス発電設備を併せ持つ地域の特性を生かし、自治体と一体となって国産の木質バイオマス材利活用を推進し、エネルギーの地産地消と林業振興を通じて、循環型経済の構築と発展に貢献していきます。
●森林資源の循環利用イメージ(林野庁 令和3年度森林・林業白書の掲載図を基に当社で作成)
秋田県湯沢市における地熱発電所の建設
地熱事業拡大の一環として、当社は、(株)INPEX、東京電力リニューアブルパワー(株)と共同で秋田県湯沢市における地熱発電所(名称:かたつむり山発電所、出力:1.5万kW)設置計画について建設段階への移行を決定しました。発電所は、蝸牛山(かたつむりやま)に建設し、運営は3社が出資する小安地熱(株)が行い、運転開始は2027年3月を計画しています。2021年に実施した噴出試験(生産能力評価のための実証試験)の結果、約1.5万kWの出力に相当する地熱流体(蒸気と熱水)の安定した生産が長期的に可能となる見込みであり、発電した電気は再生可能エネルギーのFIT(固格買取)制度の認定を受けます。また、かたつむり山発電所は、環境や景観にも配慮した設計を行うことで地域に貢献する発電所の建設・運営にも取り組んでいきます。地熱発電は、太陽光発電などの再生可能エネルギーとは異なり、天候に左右されずに安定的な電力供給が可能なエネルギーとして近年益々期待が高まっています。当社は今後も積極的に再生可能エネルギーの普及・拡大を推進し、日本のエネルギー・セキュリティと低炭素社会の実現へ貢献していきたいと考えています。
マッセルブルック石炭鉱山跡地における揚水型水力発電の事業化検証
当社はオーストラリアにおける事業基盤を活用し、採掘跡地を様々な再生可能エネルギーの拠点として活用する検討を進めています。2022年に終掘する、オーストラリアのマッセルブルック石炭鉱山の採掘跡地を利用した揚水発電プロジェクトの事業化検証を同国の電力会社AGLエナジー社と共同で開始しました。オーストラリアは風況・日照など気候条件が良好で国土が広く、再生可能エネルギーの可能性に富むことからオーストラリア政府も脱炭素化に向けたエネルギー転換を推進しています。特に揚水発電によるエネルギー貯蔵は電力系統安定化に寄与し、再生可能エネルギーへのトランジションに必要不可欠な調整役となることが期待されています。今後もオーストラリアのエネルギー転換に積極的に対応していくとともに、低炭素・脱炭素事業の創出に取り組んでいきます。
バイオマス燃料の供給拡大
出光グリーンエナジーペレット
石炭火力発電は他の電源に比べて1kWh(発電電力量)当たりのCO2排出量が多いため、CO2排出量を削減するソリューションが求められています。その一つが、カーボンニュートラルな原料であるバイオマス燃料の活用です。バイオマス燃料は植物由来の有機物であり、生物の成長過程で光合成によってCO2を吸収します。
当社は2030年までに、石炭を代替するためのバイオマス固形燃料である出光グリーンエナジーペレットの年間生産量300万tを目指しています。2023年度にはベトナムで工場を竣工し、今後は生産拠点と生産量を拡大して、カーボンニュートラルへの貢献を続けていきます。
●生産体制ロードマップ(イメージ)
革新的技術の開発・社会実装
北海道苫小牧エリアにおけるCCUS実施に向けた共同検討
当社、北海道電力(株)、石油資源開発(株)の3社は、北海道・苫小牧エリアにおいて、3社の事業拠点や強みを活かしたCCUS(Carbon dioxideCapture, Utilization, and Storage:CO2の回収・有効活用・貯留)の実現に向けた共同検討を開始しました。苫小牧エリアの複数の地点をつなぐCCUS事業を2030年度までに立ち上げることを視野に、CO2排出地点とCO2回収設備、CO2輸送パイプラインに係る技術検討、CO2貯留地点の適地調査などを中心に、具体的な調査・検討を進めます。また、CO2を貯留するだけでなく、資源として活用し合成燃料製造にも挑戦していきます。
CO₂削減貢献量※1の算定
CNの実現には、事業遂行に伴う自社の直接的な排出量の削減だけでなく、新たな製品やサービスの提供を通じて、社会全体の排出量削減に貢献する「削減貢献量」の創出が必要であると考えています。削減貢献の見える化のため、国内外で発行されているガイドライン※2を参考にしたCO₂削減貢献量の算定を開始しました。2023年度は、再生可能エネルギー、ボイラ制御最適化システム(ULTY-V plus)のCO₂削減貢献量を算定しました。
当社は、引き続き算定対象の拡大に取り組むとともに、削減貢献量の創出により社会の脱炭素化に貢献していきます。
●2023年度 CO₂削減貢献量実績
評価方法 | 評価対象 | 削減貢献量 (千t-CO₂) |
算出式※3 |
---|---|---|---|
ストックベース (評価期間:単年) |
太陽光発電 | 200 | 発電量実績(kWh)×(各国またはエリアの電力のCO₂排出係数 (t-CO₂/kWh)ー再生可能エネルギーのCO₂排出係数(t-CO₂/kWh))×当社持分比率(%) |
風力発電 | 17 | ||
地熱発電 | 16 | ||
バイオマス発電 | 214 | (発電量実績(kWh)×日本平均の排出係数(t-CO₂/kWh)-燃料種ごとの年間投入量実績(MJ)×燃料種別のGHG排出係数(t-CO₂/MJ))×当社持分比率(%) | |
フローベース (評価期間:製品ライフタイム) |
ボイラ制御最適化システム ULTY-V plus |
1,101 | 販売先のULTY-V plus導入前のボイラ石炭消費量(t石炭/年)×ULTY-V plus導入による石炭削減率×石炭燃焼時の排出係数(t-CO₂/t石炭)×耐用年数(年)×当社持分比率(%) |