生物多様性

考え方

地球上には多種多様な生物が生息しており、それら生物が複雑に絡み合って生態系を形成することで、様々な外的変化を吸収し、元の状態に戻す復元機能が備わっているといわれています。出光グループは、生物多様性条約の目的達成を目指すとともに、この生態系を次世代に引き継ぎ多様な生物が生息し続けられる環境を維持し、回復することが、企業の果たすべき重要な使命と認識しています。
また当社グループは、出光グループ サステナビリティ方針の中で、事業活動による環境リスクの低減と、自然環境の保全と循環型社会の実現への貢献を示すとともに、以下に記載する「生物多様性ガイドライン」に沿った形で、地域との連携を築きながら生物多様性保全に取り組んでいます。

方針

生物多様性ガイドライン

当社グループは、土地、水、大気、並びに多種多様な生物種、遺伝子を含めた生態系システムから成る自然環境(自然資本)を利用しながら、事業活動を継続しています。
社会活動の基盤である自然環境(自然資本)を、将来世代に適切な形で受け渡していくことの重要性は、これまでも大切にしてきた価値観であり、出光グループ サステナビリティ方針の中でも、事業活動による環境リスクを予め低減し、自然環境の保全と循環型社会の実現に貢献することを明記しています。
サステナビリティ方針を補完し、自然環境(自然資本)に含まれる生物多様性分野の更なる保全活動遂行の指針として、本ガイドラインを定めます。
・自社の事業活動が生物多様性に与えている影響を正確に把握し、負の影響を与える場合は低減、正の影響を与える場合は増加、に努めます。
・新規事業等の検討に当たっては、生物多様性の観点での影響を十分に考慮します。
・生物多様性が劣化した生態系の回復に貢献します。
・生物多様性が保全された生態系の拡大に貢献します。
・生物多様性に関する環境教育・啓蒙を推進します。
・生物多様性保全に関する関連取組の開示を強化し、ステークホルダーとの対話・協働を拡大します。

戦略

TNFDへの対応

TNFD 提言の開示推奨項目に対して、今年度から4年間で対応する計画を立て、取り組みを進めています。
初期評価として、ENCORE※1を用いて、当社グループ事業の自然への依存と影響を分析しました。その結果、直接操業では、石炭採掘における自然への依存・影響が特に大きいと評価されました。
今年度は自然への依存・影響が大きいと評価された石炭事業と売上規模が大きい燃料油事業を対象とし、LEAPアプローチ※2に沿ったリスク評価を開始しました。現在は拠点毎の自然への依存・影響の評価(Locate・Evaluate)を進めています。今後、自然関連のリスク・機会の特定や対応策の検討(Assess・Prepare)を実施するとともに、評価対象を拡大し、当社グループ事業のバリューチェーンを俯瞰した自然関連リスク・機会の特定に取り組みます。当社グループの水リスクについては、「事業を取り巻く外部環境の変化によるリスク」や「自然災害・事故などによるリスク」、「気候変動・環境規制に関するリスク」の一部として、グループ全体のリスクマネジメントで管理されています。「環境保全の方針」のもとで汚染防止、資源の有効利用、生物多様性の維持などの観点から、国や自治体の定める基準を下回るよう目標を定め、排水処理を行うことなどを環境マネジメントシステムに組み入れて実践しています。今後は水リスクだけでなく、TNFD 対応の中で特定した自然への依存・影響、リスク・機会を管理する方法についても検討していきます。

  • 国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)や金融機関が共同で開発した事業プロセスの自然への依存・影響を評価するツール

  • TNFD提言において推奨されている評価手法

事業活動が生物多様性に与える影響の把握

主要事業拠点と生物多様性の観点で保護が必要な地域との近接状況把握

国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)が管理しているウェブサイトProtected Planetで当社の主要拠点と、生物多様性に特段の配慮が必要な地域との近接状況を確認しています。その結果、当社の主要拠点から半径10km圏内にある保護地域に、厳正保護および原生自然として指定された地域(Ia、b)はありませんでした。
当社グループでは事業活動を行うにあたり生物多様性への影響を回避するため、国や自治体の定める厳格な排出基準を順守し、環境汚染防止に取り組んでいます。

※UNEP-WCMC:United Nations Environment Programme – World Conservation Monitoring Centre

●IUCN保護地域カテゴリーと地域別拠点数

IUCN分類
拠点数
Ia
厳正保護地域
0
Ib
原生自然地域
0
国立公園
2
天然記念物
1
種と生息地管理地域
28
景観保護地域
11
自然資源の持続可能な利用を伴う保護地域
16

※半径10km圏内にIUCN分類の各地域が存在する主な事業拠点数

リスク管理

リスクマネジメント

取り組み

生態系の回復 /破壊の防止

石炭採掘跡地のリハビリテーション

石炭の採掘事業は地下に埋蔵されている石炭を掘り出すため、露天掘りの場合は表土を削り取り、その時点では生物多様性にマイナスの影響を与えます。そのため、採掘後に表土を戻して、原状と同じ種類の植物を植える生物多様性の回復に努める活動(リハビリテーション)を行い、周辺環境への影響を最小限にとどめています。当社のオーストラリアの石炭鉱山は、掘削した面積、リハビリテーションを実施した面積などを情報開示しており、今後も継続していきます。

●採掘現場のリハビリテーション

採掘現場のリハビリテーション

●オーストラリア石炭採掘跡地(ボガブライ)のリハビリテーション実施状況(単位:ha)

2022年実績
2023年実績
2024年見込み
A. 採掘実績
1664.7
1682.7
1772.9
B. リハビリ未対応
1384.2
1361.8
1364.9
C. リハビリ準備済
N/A
40.3
77.4
D. リハビリ実施中
280.6
280.6
280.6
E. リハビリ完了
N/A
N/A
N/A
リハビリ後2年経過

リハビリ後2年経過

リハビリ後4年経過

リハビリ後4年経過

リハビリ後15年経過

リハビリ後15年経過

リハビリ後2年経過

リハビリ後2年経過

リハビリ後4年経過

リハビリ後4年経過

リハビリ後15年経過

リハビリ後15年経過

リハビリ後2年経過

リハビリ後2年経過

リハビリ後4年経過

リハビリ後4年経過

リハビリ後15年経過

リハビリ後15年経過

バラスト水を経由した外来種による生態系破壊の防止

2017年9月8日に発効したバラスト水管理条約(船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約)、IMOによるガイドラインに従い、外来生物による生態系の破壊の防止に取り組んでいます。バラスト水とは、船舶の安全確保のために重しとして使用する水(海水)のことです。条約により、定められた期日までにバラスト水処理装置の装備をすることが義務付けられたため、出光タンカー(株)の管理船舶(VLCC)は順次装置の搭載を進めています。2020年1月末時点で、APOLLO DREAM、APOLLO ENERGYへ電気分解方式またはフィルター・薬剤方式の処理装置の搭載が完了しました。
寄港地水域の生態系を乱さないよう、処理装置を使用したバラスト水中の有害な水生生物・病原体の殺滅や、出港時にバラスト水として積み込んだ海水と、生態系への影響が少ない大洋の海水との入れ替えによって対処しています。

生物多様性の保全活動への貢献

製油所・事業所周辺地域の生物多様性の保全活動

当社は、生物多様性保全の重要性が近年のように広く叫ばれるようになる以前から、事業遂行に当たっては自然との共生を常に意識し、本分野に配慮をして事業を遂行してきました。
当社の製油所・事業所は1950年代から建造されましたが、当時は工場の建設に対して敷地内に緑地帯の設置が義務付けられ始めた時期でした。当社はこの緑地帯の設置について、法律で規定されている面積を上回る対応を行い、周囲の自然環境との調和を図っています 。

30by30アライアンスへの参画

当社は30by30の目標達成に向け、環境省(事務局)、有志の企業・自治体・団体からなる 「生物多様性のための30by30アライアンス」に、2022年4月の発足時から参画しています。

※ 30by30 2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標

生物多様性に関する環境教育・啓発

生物多様性保全の取り組みは、当該地域の自然との共生という観点から当社単独ではなく、当該地域コミュニティ関係者と連携して取り組みを進めていくことが重要だと認識しています。各地において地元の関係者と様々な連携をして取り組みを行っています。

「法人の森」制度への参画(北海道製油所)

北海道製油所では、企業などの法人が国有林の整備に参加して社会貢献・環境貢献活動を行う林野庁の「法人の森林」制度を1996年12月から利用し、当社保有の水源涵養保安林を「出光アッペナイ水源の森林」と名付けて管理しています。
また、2008年5月には、新たに苫小牧市内の分収造林4.5haを借り受け、翌6月に、市内の小学生102名を招待して植林体験学習を実施し、アカエゾマツ、シラカンバ、八重桜を6,500本植樹しました。この森林は、植林に参加した小学生から公募した「出光緑あふれる自然の森林(もり)」と名付け、森林整備を行っていきます。

「命をつなぐPROJECT」への参画(愛知事業所)

愛知事業所は生物多様性を向上させ、生態系ネットワーク形成を推進する「命をつなぐプロジェクト」※1の主要メンバーとして活動しています。2024年度は、本プロジェクトのイベント「LOVE GREEN DAY 2024」に参加しました。
本プロジェクトは、緩衝緑地帯での生物多様性に寄与する取り組みのプロトタイプになり得る点やCOP10(2010年)から続く社会的な枠組みであることなどが高く評価され、2024年10月に、第44回 緑の都市賞※2において最上位である内閣総理大臣賞を受賞しました。

  • 「命をつなぐプロジェクト」:愛知県内の行政、企業、大学生、専門家などが緑を増やして生物が暮らしやすい環境づくりを目標に活動している取り組み

  • 公益財団法人都市緑化機構が主催する緑豊かな都市づくりの推進を目的に、みどりを用いた環境の改善、景観の向上、地域社会の活性化などに先進的かつ意欲的に取り組み、良好な成果を上げている市民団体、企業、公共団体などを表彰する賞

LOVE GREEN DAY 2024の様子

LOVE GREEN DAY 2024の様子

LOVE GREEN DAY 2024の様子

「ツルのねぐら整備」ボランティアに参加(徳山事業所)

徳山事業所では、周南市八代地区に10月下旬頃、渡ってくる絶滅危惧2類に指定されているナベヅルの保護のため、周南市が進める「ツルのねぐらづくり」のボランティア活動に毎年参加、協力しています。

「ツルのねぐらづくり」の様子

「ツルのねぐらづくり」の様子

「ツルのねぐらづくり」の参加者

「ツルのねぐらづくり」の参加者

「ツルのねぐらづくり」の様子

「ツルのねぐらづくり」の様子

「ツルのねぐらづくり」の参加者

「ツルのねぐらづくり」の参加者

「ツルのねぐらづくり」の様子

「ツルのねぐらづくり」の様子

「ツルのねぐらづくり」の参加者

「ツルのねぐらづくり」の参加者

「綾の照葉樹林プロジェクト」 への参画(ソーラーフロンティア(株)国富事業所)

ソーラーフロンティア国富事業所で使用している水は、日本最大級の照葉樹林帯で知られる宮崎県・綾町の地下水です。国富事業所では、地下水を使用させてもらっているお礼の意味を込めて、綾町が官民一体で取り組んでいる照葉樹林の保護・復元活動に2013年から参加しています。2019年11月23日に照葉樹林の芽生えをシカの食害から守る「シカネット」を張る作業が行われ、国富事業所から21名の社員とその家族がボランティアとして参加しました。慣れない山道で足場に注意しながら長さ140mものシカネットを張る作業は大変でしたが、澄み切った空気を全身で吸い込み自然のありがたさを感じる一方で、人の手を介して自然を保護する必要性をも体感しました。

「綾の照葉樹林プロジェクト」 の様子 「綾の照葉樹林プロジェクト」 の様子
「綾の照葉樹林プロジェクト」 の様子 「綾の照葉樹林プロジェクト」 の様子
「綾の照葉樹林プロジェクト」 の様子
「綾の照葉樹林プロジェクト」 の様子

「東京湾再生官民連携フォーラム」への参画

当社は東京湾沿岸に立地する企業として、東京湾再生官民連携フォーラムに参画し、東京湾再生のための評価指標を作り、水質などに関連する調査などを通じて、東京湾の生物多様性の回復に取り組んでいます。

希少種などの保護

希少種「ミゾコウジュ」の保護(愛知事業所)

製油所・事業所において装置を新設する際には環境アセスメントを実施し、生態系調査で確認された希少植物などを保護しています。現在は、愛知事業所の装置建設の際に発見された希少種の植物「ミゾコウジュ」(環境省準絶滅危惧種に指定)を保護区域で保護しています。

ハスカップ自生種の保護(北海道製油所)

北海道製油所では、苫小牧自生種のハスカップ資源の保護および保存並びに育成など 、またそれに係る技術の取得・研鑽を目的としたハスカップバンクに参画して、地域コミュニティと連携しています。

ハスカップ(苫小牧自生種)

ハスカップ(苫小牧自生種)

出光ハスカップ園

出光ハスカップ園

ハスカップ(苫小牧自生種)

ハスカップ(苫小牧自生種)

出光ハスカップ園

出光ハスカップ園

ハスカップ(苫小牧自生種)

ハスカップ(苫小牧自生種)

出光ハスカップ園

出光ハスカップ園

環境アセスメントの実施

当社、徳山事業所バイオマス発電所新設計画(2022年度内商業運転予定)の環境アセスメント事例は下記ウェブサイトからご覧いただけます。

会議録 令和2年度第2回周南市環境審議会

評価

「社会・環境貢献緑地評価システム(SEGES)」の最高位取得(北海道製油所、愛知事業所)

当社の製油所・事業所周辺地域の生態系保全活動は、外部機関からも高く評価されており、公益財団法人都市緑化機構が主催する「社会・環境貢献緑地評価システム(SEGES:Social and Environmental Green Evaluation System、シージェス)」の評価において、北海道製油所と愛知事業所が5段階の最高位(Superlative Stage)を取得しています。
加えて愛知事業所は、2016年からSEGES最高位に認定されており、緑地の価値向上への大きな貢献が評価され、2023年に「緑の殿堂」に認定されました。具体的には、外来種の除伐と在来種転換・林冠ギャップの形成によるグリーンベルト内の森林サイクルの健全化、行政・学生と連携した生態系ネットワークの再生に向けた取り組みなどが高く評価されています。なお、「緑の殿堂」への認定は、国内企業緑地として10番目であり、国内元売製油所としては初めてです。

SEGESロゴ
愛知事業所の緑地

愛知事業所の緑地

SEGESロゴ
愛知事業所の緑地

愛知事業所の緑地

SEGESロゴ
愛知事業所の緑地

愛知事業所の緑地

SEGES 評価ポイント

1. 土地利用の永続性:緑がそこにあること、あり続けることができる仕組みがある。
2. 緑地管理:緑地がつくられるプロセス、守り、育てられるプロセスが明確である。
3. 緑地機能の発揮:緑地が社会・環境に貢献している。
4. 緑地の将来性:社会・環境に貢献する緑地のありかたに関する考え方や姿勢、緑ゆたかな社会づくりを牽引する取り組みの先進性、独自性がある。

出典:SEGESウェブサイト

自然共生サイトへの認定(北海道製油所)

30by30の実現に向け、民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」に国(環境省)が認定する仕組みを構築しており、2023年に北海道製油所が「自然共生サイト」に認定されました。
北海道製油所では1973年の操業時から「緑豊かな公園工場」を目指して周囲の自然環境と調和する緑地管理を実践し、操業50年を迎えた現在では多様な動植物が生息する樹林が形成されています。構内緑地では桜並木の一般公開、小学生を対象とした自然体験イベント「生きもの調査隊」、自生ハスカップ保護育成活動への参加などの地域貢献活動を実施しています。
なお認定区域は、保護地域との重複を除き、「OECM(保護地域以外で生物多様性保全に資する地域)」として国際データベースに登録されました。

環境省 30by30アライアンス ウェブサイト Ministry of the Environment 30by30 Alliance website