工場の脱炭素は何から始める?CO2排出量の見える化と具体的な進め方

取引先や本部からCO2排出量の把握・削減を求められ、脱炭素への対応を検討する工場が増えています。一方、対策は省エネや再生可能エネルギーの導入、燃料転換、物流改善など多岐にわたるため、何から始めればよいのか判断しにくいのが実情です。

工場の脱炭素は、必ずしも大規模な設備投資から始める必要はありません。まず排出量を把握し、取り組みやすく効果の見込める対策から段階的に進めることが重要です。

本記事では、工場における脱炭素の進め方と具体的な施策、優先順位の付け方を解説します。

1. 工場で脱炭素への対応が求められている理由

工場の脱炭素は、環境配慮だけを目的とした取り組みではありません。取引先からの要請に応え、エネルギーコストを抑えながら競争力を維持するためにも重要な経営課題です。まずは、対応が求められる背景と企業にとってのメリットを整理しましょう。

1-1. サプライチェーン全体でCO2排出量の把握・削減が進んでいる

大企業を中心に、自社の事業活動で生じる排出量だけでなく、原材料の調達から輸送、製品の使用・廃棄までを含むサプライチェーン全体の排出量を把握・削減する動きが広がっています。発注元がScope3を算定する際には、取引先における電気や燃料の使用量、製品単位の排出量などのデータが必要です。

そのため、中堅・中小の製造業にも情報提供や削減への協力が求められるケースが増えています。脱炭素への対応状況は、今後の取引継続や新規受注、企業としての競争力にも関わる要素になり得るでしょう。

1-2. 省エネによるコスト削減や経営改善にもつながる

工場の脱炭素対策には、エネルギーの使用量そのものを減らす省エネも含まれます。設備の不要運転を止める、設定値を適正化する、効率のよい設備や潤滑油へ切り替えるといった対策は、CO2排出量だけでなく電気代・燃料費の削減にもつながります。

脱炭素を単独の環境活動として捉えるのではなく、コスト削減や設備の安定稼働、生産性向上とあわせて進めることが大切です。公的な省エネ診断でも、費用のかからない運用改善を優先して提案する方針が示されています。

参考:資源エネルギー庁「各種支援制度|省エネ関連情報」

2. 工場の脱炭素はCO2排出量の「見える化」から始める

効果的な施策を選ぶには、工場のどこで、どの程度のCO2が排出されているのかを把握する必要があります。最初から精緻(せいち)な算定を目指すのではなく、手元にあるデータを使って全体像をつかみ、排出量の大きい工程や設備から確認範囲を広げていきましょう。

2-1. Scope1・Scope2・Scope3の違いを整理する

工場のCO2排出量におけるScope1・Scope2・Scope3の違い

企業の温室効果ガス排出量は、Scope1・Scope2・Scope3の3つに分けて整理します。Scope1はボイラーや工業炉、構内車両などで燃料を使用した際の直接排出、Scope2は購入した電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出です。Scope3は、原材料の調達、輸送、廃棄物処理など、Scope1・2以外のサプライチェーン上の間接排出を指します。

はじめからScope3の全項目を詳細に算定しようとすると、データ収集の負担が大きくなります。まずは請求書や購買記録から把握しやすく、自社で改善策を実行しやすいScope1・2を算定し、必要に応じてScope3へ範囲を広げると進めやすいでしょう。

2-2. 電気・燃料などの使用量をCO2排出量に換算する

排出量の算定では、まず電気、都市ガス、LPG、重油、灯油などの使用量をエネルギー種別に整理します。電力会社・燃料会社の請求書や検針票、購買記録など、すでに社内にあるデータを活用すると効率的です。

基本的には、集めた使用量などの「活動量」に対応する「排出係数」を掛けてCO2排出量を算定します。排出係数は制度や算定目的、年度によって用いる値が異なるため、環境省などが公表する最新資料を確認してください。工場全体の年間値だけでなく、月別・エネルギー種別に集計すると、季節変動や改善余地を見つけやすくなります。

参考:環境省「排出原単位データベース」

2-3. 工程・設備ごとのエネルギー使用状況を確認する

工場全体の排出量を把握したら、空調、照明、ボイラー、コンプレッサー、油圧設備、加工設備など、エネルギー使用量の大きい設備を洗い出します。計測データがある場合は、製造ライン・工程・設備単位まで細分化し、生産量や稼働時間との関係も確認しましょう。

あわせて、待機電力や空運転、エア・蒸気漏れ、放熱、圧力・温度の過剰設定といったロスの有無も点検します。排出量が多く、改善余地の大きい箇所を特定できれば、感覚ではなくデータに基づいて施策の優先順位を付けられます。

3. 工場で取り組める主な脱炭素施策

工場で取り組める主な脱炭素施策

工場の脱炭素施策は、設備の使い方を変える運用改善から、設備更新、燃料転換、再生可能エネルギーの導入までさまざまです。自社の排出源や設備条件、投資余力に応じて、複数の施策を組み合わせて進めましょう。

3-1. 設備の運転方法を見直してエネルギーロスを減らす

まず取り組みたいのが、既存設備の運転方法の見直しです。生産していない時間帯の設備停止や待機運転の削減、空調温度・ボイラー圧力・コンプレッサー吐出圧力などの設定値の適正化を行います。エア漏れや蒸気漏れ、配管・炉体からの放熱もエネルギーロスの原因になるため、定期的な点検と早期修繕が必要です。

生産計画を調整し、設備の立ち上げ回数や低負荷運転の時間を減らす方法もあります。運用改善は比較的低コストで着手しやすい一方、生産品質や安全性への影響を確認し、変更後の使用量を記録することが重要です。

3-2. 照明・生産設備の効率を高める

運用改善の次に、照明や生産設備の効率向上を検討します。LED照明や高効率空調への切り替え、モーターへのインバータ制御の導入、老朽設備の更新などが代表的です。設備更新では、導入費用だけでなく、稼働時間や負荷率を踏まえた年間の削減効果を比較しましょう。

また、油圧ポンプや減速機では、使用する作動油・ギヤ油の粘度や摩擦特性がエネルギー効率に影響します。設備条件に適した高性能潤滑油へ見直すことで、摩擦損失や粘性抵抗を抑え、消費電力を削減できる可能性があります。設備更新より小さな負担で試しやすい対策ですが、メーカー仕様を確認し、切り替え前後の電力や油温を比較することが大切です。

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3-3. 熱利用の効率化や燃料転換を検討する

ボイラーや工業炉、乾燥工程などでは、排ガスや設備表面から多くの熱が失われる場合があります。排ガス温度や炉体表面温度、蒸気配管の保温状態などを確認し、廃熱回収や断熱強化によって燃料使用量を抑えましょう。

さらに、必要な温度帯や生産条件が合えば、ヒートポンプなどを使った電化や、重油からより低炭素な燃料・エネルギーへの転換も選択肢です。ただし、設備改造の可否、燃料の供給安定性、電力側の排出係数、製品品質への影響などを確認し、更新時期に合わせて段階的に進める必要があります。

3-4. 使用する電力を再生可能エネルギーに切り替える

電力使用量を減らしたうえで、次に検討したいのが残る電力の低炭素化です。方法としては、工場の屋根や遊休地に自家消費型太陽光発電を設置する、再生可能エネルギー由来の電力メニューを契約する、非化石証書などの環境価値を組み合わせるといった選択肢があります。

自家発電と電力メニュー、証書では、初期費用や契約期間、追加性、環境価値の扱いが異なります。発電量と工場の需要パターンが合うか、停電時にも使える構成か、CO2排出量の算定・報告にどう反映できるかを確認し、コストと供給安定性を含めて判断しましょう。

3-5. 物流・原材料・廃棄物を見直す

自社工場内のScope1・2だけでなく、調達・輸送・廃棄に伴うScope3にも目を向けます。物流では配送ルートや輸送回数、積載率を見直し、必要に応じて共同配送や低燃費車両、電気自動車などの導入を検討します。

原材料については、品質・コスト・安定調達を確認しながら、再生材やリサイクル材、排出量の少ない資材への切り替えを進めることが大切です。あわせて、歩留まり改善や梱包材の削減、廃棄物の分別・再資源化に取り組めば、購入資材と廃棄物処理の両面から環境負荷を抑えられます。まずは取引量や排出量の大きい項目から、仕入先・物流会社と連携して改善することが現実的です。

3-6. 削減しきれない排出量にはカーボンオフセットを活用する

省エネや再エネ導入、燃料転換を進めても、技術面・コスト面の制約から短期的には削減が難しい排出が残る場合があります。その残余排出量を補完する手段が、カーボンクレジットを活用したカーボンオフセットです。

オフセットは、自社の排出削減に代わるものではありません。排出量の把握と削減努力を前提に、対象範囲や使用するクレジット、オフセット量を明確にして活用することが重要です。たとえば「出光カーボンオフセットfuel(ICOF)」は、燃料油にカーボンクレジットを組み合わせ、燃料使用時のCO2排出をオフセットする選択肢です。

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4. 工場の脱炭素施策に優先順位を付けるポイント

脱炭素施策は、削減効果だけで決めるのではなく、費用、生産への影響、実施時期も含めて優先順位を付けます。低コストの改善で効果を確かめながら、中長期の設備投資へつなげると、現場の負担や投資リスクを抑えて進められます。

4-1. まずは低コストで実施できる運用改善から始める

最初に着手したいのは、設定値の調整、不要運転の停止、エア・蒸気漏れの修繕、照明の間引きなど、既存設備を活用できる運用改善です。初期投資を抑えやすく、短期間で効果を確認できるため、次の施策を判断するためのデータも得られます。

ただし、単に設備を止めたり設定値を下げたりするだけでは、生産性や品質、安全性に影響する可能性があります。現場の担当者と相談し、操業条件を守れる範囲で試行することが大切です。対策前の使用量を記録し、実施後の変化を確認しながら、効果のあった方法を標準化しましょう。

4-2. CO2削減効果と費用対効果を比較する

工場の脱炭素施策におけるCO2削減効果と費用対効果の比較

施策ごとにCO2削減見込み量、導入費用、年間の電気代・燃料費削減額、投資回収期間を整理して比較します。排出量が多く、稼働時間の長い設備は、改善による効果が大きくなりやすいため優先候補です。

一方、費用対効果だけでなく、設備の老朽化や故障リスク、更新時期、保守費用も判断材料になります。たとえば更新時期が近い設備は高効率機への切り替えを検討し、まだ使える設備は運用や潤滑油の見直しから始めるなど、脱炭素・コスト削減・設備管理を一体で考えると投資の優先順位を付けやすくなります。

4-3. 短期・中期・長期に分けて計画する

施策は実施時期に応じて整理し、ロードマップを作成しましょう。短期には、運用改善や設定値の見直し、LED化、設備条件に合う潤滑油への切り替えなど、比較的取り組みやすい対策を配置します。

中期には、高効率設備への更新、エネルギー管理システムの導入、自家消費型太陽光発電などを検討します。長期では、生産工程の変更、熱源の電化、大規模な燃料転換などが候補です。設備の更新計画や予算編成と連動させ、担当部署・目標・実施時期を明確にすると、継続的に進捗を管理できます。

5. 脱炭素の効果を継続的に確認する

脱炭素は、施策を実施して終わりではありません。使用量や排出量を定期的に確認し、想定した効果が得られているかを検証する必要があります。データを現場へ共有し、改善を続けられる管理体制を整えましょう。

5-1. エネルギー使用量とCO2排出量を定期的に確認する

施策の実施前後で電力・燃料使用量とCO2排出量を比較します。ただし、生産量が増減すると工場全体の使用量も変わるため、総量だけで判断するのは適切ではありません。製品1個、重量、稼働時間など、自社の生産実態に合う単位当たりのエネルギー使用量や排出量である「原単位」も確認しましょう。

数値は月次・年次で更新し、季節や操業条件の違いも記録します。想定した効果が出ない場合は、設備の設定や運転ルールが守られているか、比較条件がそろっているかを確認し、必要に応じた対策の見直しが必要です。継続的な計測によって、効果の薄れや新たなロスも早期に発見できます。

5-2. 現場を巻き込んだ管理体制を整える

継続的な改善には、データを収集・管理する担当者と、施策を判断する責任者を明確にすることが重要です。工場長、設備管理、製造、品質、購買などの関係部署で、排出量やエネルギーコスト、設備課題を共有しましょう。

また、現場には設備の異音や温度変化、使いにくい運転ルールなど、数値だけでは分からない情報が蓄積されています。改善提案を吸い上げ、効果を共有する仕組みを整えると、活動が定着しやすくなります。社内だけで判断が難しい場合は、省エネ診断や設備・エネルギーの専門事業者を活用することも有効です。

6. まとめ

工場の脱炭素は、大規模な設備投資から始める必要はありません。まず電気・燃料などの使用量を整理し、Scope1・2を中心にCO2排出量を見える化したうえで、排出量やエネルギーロスの大きい設備・工程を特定することが第一歩です。

その後、運用改善、設備の効率化、熱利用の改善や燃料転換、再生可能エネルギー、物流・資材・廃棄物の見直しを組み合わせます。自社で削減しきれない残余排出量には、カーボンオフセットを補完的に活用する方法もあります。CO2削減効果と費用対効果、生産への影響を比較し、短期・中期・長期の計画に落とし込むことが重要です。

出光リテール販売では、電力、設備用潤滑油、カーボンオフセット、リサイクルなど、工場の状況に応じた脱炭素の選択肢をご提案しています。何から着手すべきか迷っている場合や、既存設備を活用した省エネから始めたい場合は、お気軽にご相談ください。

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