イノベーションマネジメント(研究開発)
考え方
出光興産は、「カーボンニュートラル、循環型社会への貢献」「地域社会への貢献(エネルギー&モビリティ)」などを重要課題とし、全社の技術を結集するとともに、外部技術も活用する戦略を展開しています。
ガバナンス
当社グループの研究開発体制は次世代技術研究所と各部門の研究所から成り立ち、専門的な開発を担当しています。全社を横断する研究開発委員会も設置し、方向性や戦略の検討だけでなく、研究所間の連携を強化し、技術力を向上させています。
戦略
当社はこれまでに多岐にわたる商材を市場に送り出し、世の中に貢献してまいりました。これは様々な技術開発を行ってきた成果といえます。
過去から築いてきた技術をさらに有機的に融合を促進するため、研究開発体制を含めた施策を実行していきます。2050年ビジョンに向けた社会実装貢献の三つの事業領域のうち、特に「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」の実現に向け研究開発が貢献していきます。また研究開発の統合拠点「イノベーションセンター(仮称)」では、社内の技術融合の促進に加え、オープンイノベーションによる新規事業創出のスピードアップ、効率の向上や、新たな技術獲得を行い、新たな価値・事業創出を目指します。
取り組み
研究開発投資実績
当社グループは、燃料油、高機能材、資源、さらには新規事業創出のための研究開発に取り組んでいます。研究開発体制の下、互いに密接に連携して研究開発活動を行っています。
●2023年度の研究開発投資額実績(単位:百万円)
研究開発費 | 28,821 | |
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セグメント別内訳 | 燃料油 | 404 |
高機能材 | 13,000 | |
電力・再生可能エネルギー | 145 | |
資源 | 369 | |
その他 | 14,903 |
新規事業創出に向けた活動の強化
新規事業創出の鍵となる探索や調査などの研究開発初期ステージでは、自社の保有する技術や知見を活用する社内横断的な活動だけでなく、積極的に社外との連携を行うことによる、オープンイノベーションを取り組みの中心とし、事業ポートフォリオ変革に向けた新規事業創出の加速に取り組んでいます。
オープンイノベーションの推進
ベンチャーキャピタル※1の運営ファンドを活用し、国内外のスタートアップ企業との連携を進めています。例として、バイオ・ライフソリューションにおいて2023年4月にバッカス・バイオイノベーション社に出資し、スマートセル開発の取り組みを開始しました。
2020年度に東京科学大学に設置した「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」の活動を通し、東工大との先進マテリアル領域の注力分野とCNX※2ソリューション領域の技術獲得を進め、2022年度は5件の特許出願、4件の学会発表を行う成果が得られました。さらなる事業創出拡大に向け、2023年に神戸大学との共同研究部門の設立やカリフォルニア大学サンタバーバラ校などとのアカデミア連携を実施しています。
また、カーボンニュートラル領域における次世代技術の開発に向けて、東京大学先端科学技術研究センターおよび生産技術研究所と包括連携研究に関する協定を締結し、共同研究を開始しました。
※1 ユニバーサルマテリアルズインキュベーター社(本社:日本)、Emerald Technology Ventures社(本社:スイス)、Azimuth Capital Management社(本社:カナダ)、Hatch Blue社(本社:アイルランド)
※2 CNX:カーボンニュートラルトランスフォーメーション
部門横断型取り組みによるテーマ創出
中長期的な新規事業テーマの創出活動(先進マテリアルプロジェクト)は3期目となり、のべ30名の英知を結集し活動を続けています。取り組みにより創出されたテーマは社内での検討に限らず、大学・スタートアップとの連携を含めた推進により、事業企画の具体化を行っています。これらの取り組みを通じ、継続的な共創型イノベーション人財の育成も進めています。
●新規事業創出に向けた活動



MI/DXによる研究開発活動の充実
MI(マテリアルズインフォマティクス)による研究開発の加速、DX推進強化に向けた取り組みを進めています。
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リスキリング:全研究所を横断的に、社内取り組み事例の共有やワークショップによるリテラシー向上策、データサイエンスの実践トレーニングを実施・推進しています。
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DXソリューション開発:国内外コンサルティング企業との連携による、各研究開発の重点MI/DX課題の解決にむけたソリューション開発を推進しています。
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環境整備:MI/DXに不可欠なオープンデータベースやオープンソースソフトウエアを安全にかつ柔軟に活用可能な全社横断の専用データサイエンス・クラウド環境の整備をしています。
また、社内データと生成AIを融合したRAG(Retrieval Augmented Generation)の構築も行っています。
新規アンモニア(グリーンアンモニア)合成法の開発
アンモニアは、燃焼時にCO₂を排出しないことから、石炭火力発電や船舶向けの次世代燃料として期待されています。現在、アンモニアはハーバー・ボッシュ法(HB法)により製造されていますが、高温・高圧下で、窒素と化石燃料由来の水素を反応させるため、製造時に多くのCO₂を排出します。当社では、NEDO※のプロジェクトに参画して検討を進め、東京大学の西林教授らが開発したMo触媒をもとに、開発した還元剤を用い、常温・常圧でも、窒素、水、再生可能エネルギーから連続的な電解合成でアンモニアが生成することを見出し、アンモニア生成速度が世界最高性能を達成しました。さらに、HB法に代わる画期的な技術確立を目指し、実用化に向けた開発を進めています。
※ NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構



先進マテリアルプロジェクトの発足
先進マテリアル領域での開発強化・事業拡大には、検討中のテーマを早期に事業化することに加え、新たなテーマを継続的に創出していくことが重要です。そこで、テーマ探索のためのプロジェクト活動として、2022年に「先進マテリアルプロジェクト」を開始しました。先進マテリアルカンパニー各事業部の英知を集結させ、既存事業領域にとらわれない思考によって短期間でアイデア創出から事業化企画立案、検証を繰り返すことで先進マテリアル領域における新規事業の創出につなげます。そして、このプロジェクトを通じて共創型イノベーション人財を育成することで、変革の輪を先進マテリアルカンパニー全体に広げていきます。
高速通信・デジタル技術の進展による低消費電力化への要求に応える、高性能・低コスト・低消費電力を兼ね備えた革新半導体の開発
当社は2006年より多結晶酸化物※1半導体材料IGO(Indium Gallium Oxide)の開発を始めました。当社が開発したIGOは、従来の酸化物半導体材料では実現できなかった低温ポリシリコン(LTPS)※2と同水準の高い移動度を有することが特長です。さらに第8世代以上の大型ラインにおいてもプロセス適性があり、大面積でバックプレーンを※3を作製することが可能です。
IGOを用いたバックプレーンは、既存の技術の特長(高性能、低コスト製造、及び低消費電力)すべてを併せ持つことから、ディスプレイ性能の進化と同産業の発展、ディスプレイの低消費電力化による低炭素社会の実現に貢献することが期待されます。



※1 多結晶酸化物:金属元素と酸素から構成される多結晶状態の薄膜。
※2 低温ポリシリコン(LTPS):ガラス基板上に低温で形成された多結晶シリコン。電子移動度が高い。
※3 バックプレーン:薄型ディスプレイの基礎となる微細な半導体素子が実装された回路基板。
※4 Poly-OS:多結晶酸化物半導体
持続可能性・アベイラビリティの高い非可食バイオマス原料からの油脂製造検討
油脂はバイオディーゼル油の原料として広く使われていますが、近年はバイオジェット燃料等のSAF(持続可能な航空燃料)やバイオプラスチックの原料としても期待されています。一方で、食料用途との競合や、パームヤシのプランテーションによる熱帯雨林の破壊が問題視されています。環境負荷が低いとされる廃食油の活用が進んでいますが、その賦存量には課題があります。そこで当社では、地球上でもっとも賦存量が多いバイオマスであるリグノセルロース※原料から、微生物の力を用いて油脂を製造するプロセスの開発を進めています。世界最高水準の油脂生産量を持つ微生物を自然界から見つけ出し、さらに生産効率を高める技術開発を進めています。微生物による油脂生産を実用化することにより、環境負荷の少ない燃料原料および化学品原料の供給を目指しています。
※リグノセルロース:植物の細胞壁の主成分
紅色光合成細菌を利用した温室効果ガス固定プラント事業の開発
新規事業創出活動をきっかけに検討を開始した紅色光合成細菌を利用するCO₂とN₂の固定技術について、京都大学発スタートアップSymbiobe社との事業化に向けた連携を開始しました。
Symbiobe社が有する光合成微生物に関する技術と、当社の保有するスケールアップに向けたプロセス技術を組み合わせることでCO₂などの温室効果ガス固定とグリーンバイオ資材※製造の社会実装を目指します。
社外の優れた技術と当社の保有技術を組み合わせることで、社会実装への確度・スピードアップを実現する、従来のやり方にとらわれない新たな研究開発や事業創出の推進や質の向上を行うとともに、継続的な共創型イノベーション人財の育成も進めていきます。
※ 微生物の代謝活動を利用して製造される目的物のうち、食料や環境分野に関連するもの
宇宙用太陽電池の開発
2040年には1兆ドル市場になると見込まれる宇宙産業市場は、急速に拡大しており、当社がこれまで培ってきた太陽電池技術を活用して宇宙用太陽電池開発への挑戦を進めています。
宇宙の放射線環境では既存の太陽電池は劣化する課題がありますが、当社が開発を進めるCIGS太陽電池は高い放射線耐性を示すことが実証されています。この画期的な技術を実装すべく、取り組み先とともに開発を進めています。


