人的資本の価値向上(人事管掌役員メッセージ)



澤 正彦
2025年7月
「真に働く」の体現に向けた新たな行動指針のもと、人と企業の成長を実現していきます。
人的資本経営の基本方針
当社は、創業以来「資本は人なり」「人が中心の経営」という考え方を何よりも大切にしてきました。第二次世界大戦終戦後間もない1945年9月、当社の創業者である出光佐三は「事業は失われ、借金は残っている。しかし、出光興産には海外に800名の人材がいるではないか。これが唯一の資本であり、これが今後の事業をつくる。人間尊重の出光興産は、終戦の混乱に慌てて馘首(かくしゅ)してはならない。」と述べ、社員を解雇せずに守ることを宣言しました。「社員がしっかり成長していれば、どんな困難にも立ち向かえる」という創業者の思いは「いかなる場合も会社都合で人員整理を行わない」「世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが企業目的であり、事業はそのための手段である」という基本方針として、今日まで受け継がれています。
当社が直面している経営戦略上の課題と人財戦略
1949年に元売り指定を受けて以降、当社は日本のエネルギーセキュリティを支える使命を担い、国内外に燃料油ビジネスを中心としたネットワークを構築し事業活動を展開してきました。今、私たちの諸先輩が戦後に築き上げてきた石油精製販売業というビジネスモデルが、2050年CN(カーボンニュートラル)に向けて、一大変革期を迎えています。現中期経営計画では事業構造改革投資と人的資本投資を車の両輪として位置付け、全社員がその能力や個性を最大限に発揮できる環境を整え、社員の成長を通じて企業が成長することを目指しています。その実現に向けて、当社では、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」を人財戦略の3本柱として、推進しています。主な取り組み例を紹介します。
●人財戦略の3本柱



1. 企業理念・ビジョンの体現
社長をはじめとする経営層と社員の直接対話の場である全社タウンホールミーティングなどを通じて、経営状況や企業理念について語りかけ、社員への理解浸透を図っています。また2024年10月には「出光興産ヒューマンギャラリー」がリニューアルオープンし、社内外の方々に当社の理念や歴史を知っていただく場となっています。さらに、企業理念「真に働く」の体現につなげるべく、新たな行動指針を制定しました。こちらについては後述します。
2. DE&Iの深化
「人が中心の経営」を実践する当社にとって、多様な社員が力を結集して活き活きと働き、成長できる環境をつくることはその基盤となります。中でも女性、LGBTQ+、外国籍従業員、障がい者など、マイノリティとされる従業員が活躍できる風土づくりに重点的に取り組んでいます。女性役職者のリーダーシップ向上を目的に、異なる企業同士の組み合わせでメンタリングを行う「クロスメンタリング」や、製造現場における女性社員登用の取り組みを実施しています。これらが評価され、3年連続で2024年度も「なでしこ銘柄」を受賞しました。
3. 個々人の能力・個性の発揮
2024年度に「一般社団法人出光社員会」を設立し、より良い会社と組織風土をつくるために、役職者含む社員一人ひとりが議論に参加できる「場」を提供することを目的として、活動を開始しています。また、社員の自律的なキャリア形成を支援する「キャリアデザイン部」を設立し、手上げ式の研修やライフキャリアを検討するツールなどの展開を始めています。
・出光エンゲージメントインデックスについて
既存事業の構造改革を通じた持続的な成長を実現するために、当社はゴール指標として出光エンゲージメントインデックス(出光EI)を重視しています。これは、当社が独自に開発した指標で、組織に対する社員のコミットメントを測定し課題形成および施策の徹底を図っています。
「新たな行動指針」の制定、理解浸透の取り組み
2025年度に制定した「新たな行動指針」について説明します。2019年の出光興産・昭和シェル石油の経営統合に当たり、人事制度および行動指針は、どちらかの会社の制度に片寄せするのではなく、新しいコンセプトを打ち出すという方針のもと制定されました。企業の存在意義や価値観を示し人事制度の基盤となる統合新社としての企業理念も当時はありませんでした。その後、2021年4月に企業理念「真に働く」を成文化しました。
当時の人事制度・行動指針で使用されている用語は汎用的で当社らしい価値観も当社が求める人財像も反映されていないという多くの社員の声を受けて、今般当社らしさにこだわった、新たな行動指針を再定義しました。企業理念「真に働く」には、「世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが企業目的であり、事業はそのための手段である」という考えが根底にあります。新たな行動指針の再定義に当たり、企業理念の一文一文から「社員に求めること」を言語化し、7つの要素にまとめ、その上で、「徹底的当事者意識」「飽くなき成長意欲」「誠実・相互信頼」の3つの基本姿勢と、「大胆に挑み続ける」「常に考え決断する」「相違を乗り越える」「人を活かす」の4つの能力に整理しました。
新たな行動指針の7つの要素のなかでも、特に重要な姿勢としているのが、「徹底的当事者意識」です。当社では、「徹底的当事者意識」を、「関わる事柄を自分事として捉え、責任を持って最後までやり遂げる姿勢」と定義しています。一般的に、当事者意識とは、自分が関わる仕事や物事を自分事と捉え、主体的に取り組む姿勢を指しますが、 当社の「徹底的当事者意識」は、この概念をさらに深く追求したもので、単に責任を感じるだけでなく、その仕事やプロジェクト全体の成功に対して深い情熱を持ち、自分の行動が直接的に結果に影響するという強い自覚を持つことを意味します。たとえば、組織全体の目標達成に向けて、自分の役割を超えてほかのメンバーを励ましたり、人知れずミスや抜け漏れを防いだりする行動なども含みます。
2025年2月の全社説明会を皮切りに部門毎に小規模のタウンホールミーティングや座談会を行うなど、全社を挙げて新たな行動指針および評価項目の理解浸透策を展開しています。社員一人ひとりが新たな行動指針を自分事として捉え、各項目を深く理解することが、企業理念「真に働く」の体現につながります。この取り組みを通じて、社員ひいては、当社が持続的な成長を遂げることを目指していきます。
●新たな行動指針
行動指針/評価項目 | 定義 | |
---|---|---|
基本姿勢 | 徹底的当事者意識 | 関わる事柄を自分事として捉え、責任を持って最後までやり遂げる姿勢 |
飽くなき成長意欲 | 常に自らを顧みて、あらゆることから学ひ成長し続けようとする姿勢 | |
誠実・相互信頼 | 社内外で関わる人の立場を想像し、お互いに尊重して高め合う姿勢 | |
能力 | 大胆に挑み続ける | 前例に捉われず、また失敗にくじけることなく果敢に高い志を掲げ、高い目標・課題を設定し、挑み続ける力 |
常に考え決断する | 多角的な視点で考えぬき、ゆるぎない信念と覚悟を持ってタイミングを逃さず決めるカ | |
相違を乗り越える | 相手の立場を理解しながら折衝・調整し、立場の違いや対立する価値観を乗り越えて難しい局面を打開するカ | |
人を活かす | すべての人の可能性を信じ、他者の価値観や持ち味を受容・包摂して、人の力を引き出しながら、その力を最大限に活かすカ |