人的資本の価値向上(副社長メッセージ)

取締役副社長 副社長執行役員 澤 正彦
取締役副社長 副社長執行役員 澤 正彦
取締役副社長 副社長執行役員 澤 正彦

取締役副社長
副社長執行役員
澤 正彦
2024年10月

人的資本経営の取り組み

人的資本経営の取り組み

当社の創業者、出光佐三は、第二次世界大戦終戦からちょうど一ケ月が経った昭和20年9月15日、本社に重役と社員たちを集めてこう宣言しました。「事業は失われ、借金は残っている。しかし、出光興産には海外に800名の人材がいるではないか。これが唯一の資本であり、これが今後の事業をつくる。人間尊重の出光興産は、終戦の混乱に慌てて馘首(かくしゅ)してはならない。」
当社では「人的資本経営」という言葉が生まれるはるか以前から「資本は人なり」と言ってきました。さらに当社は、「世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが企業目的であり、事業はそのための手段である」と考えています。
今、私たちの諸先輩が戦後営々と築いてきた石油精製販売業というビジネスモデルが一大変革期を迎えています。事業構造改革を推し進めるに当たって、創業以来大事にしてきた「資本は人なり」「人が中心の経営」という考え方に立ち返り、従業員がしっかり育っていれば、どんな困難にも立ち向かえると信じて、人的資本経営=人財戦略を強力に推し進めてまいります。
当社の人財戦略は、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」の3つの柱で構成されます。

企業理念・ビジョンの体現

事業構造改革を推進していく上での羅針盤となるのが、企業理念「真に働く」および、2030年・2050年に到達したい姿=ビジョンです。これらを従業員と共有し、共感を得た上で、各自が当事者意識をしっかり持って取り組むことがもっとも重要な一歩になるとの想いから、様々な施策を展開してまいりました。
当社では、社長をはじめとする経営層と従業員の直接対話の場として、半期に1度タウンホールミーティングを開催しており、毎回多くの従業員が参加し、活発なやり取りが行われています。会社の経営現状をタイムリーに伝えるとともに、経営層から折に触れて企業理念やビジョンについて繰り返し語りかけています。これらの取り組みの結果、企業理念の認知度は99.3%、共感度は78%に達しています。
反面、出光エンゲージメントインデックス(出光EI)を構成する「企業理念の体現」「組織の垣根を超え変革に挑戦」に課題を抱えています。
前者は、企業理念を知っており、共感もしているが、それが日々の行動につながっていないことを示しています。後者は前者にも関連しますが、所属する組織内で旧来の業務に専従し、組織を超えた新たな挑戦が限定的になっていることを示しています。これでは事業構造改革に必要な人の育成は進みません。こうした問題意識から、当社では次の2点に取り組んでいます。

1. 人事制度の進化=特に評価項目・行動指針の見直し

現在の人事制度および行動指針は、2019年に出光興産と昭和シェル石油の経営統合時に、どちらかの会社制度に片寄せするのではなく、両社の長所も取り入れて新しいコンセプトを打ち出すという方針のもと策定・制定されました。現在の行動指針、評価項目はいずれも大事にしたい価値観が網羅的に表現されている一方で、用語が汎用的であるために当社らしい価値観が反映されていない、評価の際の基準が曖昧になりやすいという声が出ています。それは、企業理念の成文化に先行して行動指針、評価項目を制定したことで、企業理念との結びつきが薄くなっていることに起因していると捉えています。
当社が求める人財像は、「自分はどうしたい」を明確に持ち、自分自身の頭で考えぬき、多様なチームメンバーの力を結集し、当事者意識を持ってやりきる、失敗をおそれず挑戦し続ける人です。この人財像に基づき評価項目のもととなっている行動指針を再定義し、その上で新たな行動指針を評価項目と一体化することで、行動指針=評価項目が上司・部下間の共通言語となり、従業員がより企業理念の体現を意識しながら日常の業務を遂行できるようになると考えています。

2. 出光社員会活動

2024年度は、経営層と従業員のコミュニケーションをさらに活性化させるとともに、部門横断的な活動を推進すべく、一般社団法人出光社員会を設立し、7月から活動を開始しました。社員会は、専任の理事数名を選任し、選任された理事が事務局としてやりがい調査の実施・分析、タウンホールミーティングの企画・開催をはじめ、職場毎に従業員一人ひとりの声を収集し、直接的な経営提言を行う場を作っていきます。労働組合と異なり、部室長を含む役職者も活動に参加し、文字通り全従業員が一体となった活動を展開することに特徴があります。
また、より多くの従業員が当社株式を保有できるように持株会制度を拡充しました。これは従業員が株主としてより主体的・積極的に経営に参画する意識を醸成することを企図しており、出光社員会活動との相乗効果を期待しています。
これらの取り組みにより、従業員各自が経営への理解を深め、自分事として取り組むことで、結果として企業理念・ビジョンのさらなる浸透と体現につなげていく所存です。

DE&Iの深化

新たな価値を創造していくためには、多様な人々の力の結集と知恵の結合が不可欠です。女性、LGBTQ+、外国籍従業員、障がい者をはじめとする、いわゆる社会的マイノリティとされる皆さまが、自ら描いたキャリアプラン実現に向けて活き活きと力を発揮し、成長につながる環境を作っていく必要があります。
当社では、社長の諮問機関であるDE&I推進委員会が2021年10月以来活動を牽引し、公正性(Equity)の観点を重視して、職位、性別、雇用形態、ジェンダー、国籍、障がいの有無などに関係なく、一人ひとりが個性や価値観を尊重し、力を発揮できる環境整備に注力してきました。その結果、役員報酬にもリンクする主要KPIとして位置付けた3つの指標、すなわち女性採用比率47%、女性役職者比率4%、男性育児休業取得率93%を達成し、前年度からさらに改善を果たすことができました。加えて、PRIDE 指標2023ゴールド受賞、2年連続なでしこ銘柄に認定されるなど、当社の取り組みに対する外部機関からの評価も高まっています。
しかしながら、現在の当社における女性社員比率が13%、女性役職者比率4%は満足できる水準ではありません。2024年度は、昨年度からスタートした役員・部室長による女性従業員への社内メンタリングの対象をさらに拡大するとともに、東京海上日動火災保険(株)と昨年開始した横断型メンタリングプログラムであるクロスメンタリングに、帝人(株)、(株)リコーの2社にもご参加いただき、活動をさらに強化してまいります。
女性活躍以外の領域では、LGBTQ+の皆さまを意識したユニバーサルトイレ、シャワールームの設置や、海外ナショナルスタッフの当社での活躍機会の拡大を企図した人財交流など、DE&Iの深化に向けた一層の推進を図ってまいります。

個々人の能力・個性の発揮

人財戦略の3つの柱のうち、「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」はこれまでの取り組みにより一定の成果につながっている一方で、「個々人の能力・個性の発揮」には課題があると認識しております。出光EIに影響を与える要因分析の結果、「今後当社でキャリアを思い描ける」と答えた従業員は、前年より改善したとはいえまだ半数に過ぎず、この結果を重く受け止めています。
当社は従業員一人ひとりに、どのようなキャリアを歩みたいのかを自身で考えてもらい、会社はこれまでのキャリア支援がワークキャリアに偏っていたという反省を踏まえ、仕事を含めたライフキャリアの充実に向けて支援を行うという考え方に基づき、諸施策を展開してまいります。ワークキャリアはライフキャリアの一部であり、仕事を含めたライフキャリアの充実こそが、一人ひとりの「やりがい」や「成長実感」につながり、それが当社の競争力に直結すると考えるからです。
ライフキャリアとワークキャリアの間のコンフリクトの典型例であった転居を伴う異動については、本人の希望の尊重、異動打診時期の前倒し、キャリア形成上の異動の意味などに関する上司・部下のコミュニケーションの充実を図るとともに、転居や単身赴任帰省時の手当の拡充を図りました。
本年4月に人事部から独立した組織である「キャリアデザイン部」を設置しました。同部は全世代を対象とした自律的ライフキャリアプランの策定支援、多様なキャリアパスの提案、手挙げ式のスキル開発メニューの提供、越境学習の機会提供およびキャリアコンサルティングをミッションとしています。自分のキャリアを会社任せではなく自らが描く、それを上司やキャリアコンサルタントが支援するという手厚い体制を取りながら、「個」の支援を強化してまいります。
また、前述の出光社員会は、全従業員が主体的に「より良い会社、より良い組織風土」を創っていくための議論に参画する「場」を提供します。部門を横断する「場」を創ることで、全社視点に立った自身の成長につながることを期待しています。
さらに、社内全部門が職場や仕事内容、キャリア像を紹介し、全社横断的な交流を図るジョブフェスティバルも規模を拡大し、内容をさらに充実させて開催することで、多くの従業員が自身のキャリアを考えるきっかけを創出します。
人財戦略の3つの柱「企業理念・ビジョンの体現」「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」の進捗状況は、KPIとともに、出光EIによって定量的に把握し、対策を打ってまいります。