社長メッセージ

エネルギーをつくり、素材をつくり、未来を興す

酒井 則明
酒井 則明
酒井 則明

代表取締役社長
社長執行役員 CEO
酒井 則明

不確実な未来を見据えたバランス経営

 当社を取り巻く事業環境は、これまでにないほど不確実性が高まっています。中東情勢の緊迫化による地政学リスクの高まりを背景に、エネルギー安全保障の重要性は改めて強く認識されるようになりました。また、各国の通商政策の動向や地政学要因によるサプライチェーンの再構築、AIをはじめとする急速な技術革新など、様々な要因が複雑に絡み合っています。加えて、カーボンニュートラル(CN)に向けた世界の動きは一様ではなく、国や地域ごとの事情を踏まえた現実的な対応が求められる段階に入っています。
 こうした環境のもとで、当社グループが果たすべき役割は明確だと考えています。人々の暮らしや産業活動を支えるエネルギーと素材を、いかなる局面においても安定的に供給し続けること。そして同時に、将来を見据え、次の社会を支える新たな価値の創出に向けた変革を進めていくことです。
 当社は1911年の創業以来、「人間尊重」を経営の原点に掲げ、「真に働く」という企業理念のもと、「人が中心の経営」を貫いてきました。従業員が一丸となり、世の中に貢献する事業を興し、それを社会に実装するまでやり抜く。この積み重ねが、当社の強みを形づくってきたのだと思います。私は社長に就任して以来、こうした価値観を大切にしながら、「バランスを重視した経営」を基本姿勢としてきました。外部環境の変化に振り回されることなく、守るべきものは守り、変えるべきものは着実に変えていく。既存事業で安定的に収益力を高め、そこで得たキャッシュを次の成長へとつなげていく。この循環を経営の軸に据えています。
 厳しさを増す環境の中にあっても、現場では日々、エネルギーと素材の安定供給を支える取り組みが行われています。一人ひとりの従業員が「責任ある変革者」として役割を果たしていることこそが、当社グループの底力であり、これからの変革を支える基盤になると考えています。

前中期経営計画の振り返り

 前中期経営計画では、2030年ビジョン「責任ある変革者」の実現に向け、エネルギーと素材の安定供給という使命を果たしながら、事業構造改革として既存事業の資本効率・収益力のさらなる向上とCN・循環型社会に向けた準備を並行して進めてきました。当社の経営の根幹となる人財戦略では、人的資本投資を通じて、従業員の成長とやりがいの最大化を図ってまいりました。また、これらの取り組みを支える基盤として、DXの推進やガバナンスの高度化に取り組んできました。
 事業構造改革の継続的な取り組みの結果、利益目標やROE目標の達成など、一定の成果を積み上げることができたと考えています。一方で、その成果には、原油価格の変動など、外部環境による押し上げも含まれています。今後に向けて、環境変化に左右されにくい、より強固で安定的な収益基盤の構築と資本効率のさらなる向上に粘り強く取り組む必要があります。
 同時に、CN社会の実現を見据え、多くのパートナー企業と連携しながらその実現に向けた取り組みを強化してきました。こうした取り組みを通じて得られた知見やネットワークは、将来の選択肢を広げる上で大きな財産になります。一方で、前中期経営計画を策定した当時と比べると、CNを取り巻く環境は変化しており、社会実装までの時間軸についてはより慎重に見極めていく必要があります。技術、コスト、外部環境などを踏まえ、準備や検討に必要な時間をかけながら、段階的に確度を高めていくことが重要になると考えています。
 このように前中期経営計画を通じて一定の成果を得た一方で、事業環境の不確実性が高まる中、当社が中長期的にどのような価値を創出していくのかを改めて問い直す必要がありました。
そこで、足元を着実に固めながら将来の成長を見据えた新たな中期経営計画を策定しました。

新中期経営計画について

 2026-2030年度の中期経営計画は、経営環境の不確実性の高まりを踏まえ、事業戦略をリバランスし、より実践的なアプローチで「稼ぐ力」を強化することで、持続的な成長と企業価値向上を実現します。「事業戦略」と「人財戦略」の両輪と、それを支え・加速させる「ビジネスプラットフォーム」の3つの要素を有機的に連携させることで、各種財務目標の達成、ひいては2030年ビジョン「責任ある変革者」を実現していきます。
 事業戦略では「GRIT:既存事業の深化」・「GROWTH:成長事業の創出」・「CNX:低/脱炭素事業への挑戦」の3つのテーマについて、当社の5つの事業セグメント横断で、様々なパートナー企業との共創を通じて推進していきます。
 当社グループが持つ多様な事業の「横の連携」を通じて、グループ全体の利益を底上げするコングロマリットプレミアムの実現を目指します。その具体的な取り組みが、国内支店への電力事業担当者の常駐です。石油製品の販売を主軸とする支店に電力担当者が加わることで、特約販売店が電力事業にも取り組み始めています。今後は、電気を含めた様々なサービスや製品を一体的に提供できる体制を整えていきます。幅広い事業ポートフォリオを持つ私たちだからこそ生み出せる相乗効果があります。個々の事業の総和を超える価値を創出し、さらなる企業価値の向上と社会課題の解決に貢献していきます。

GRIT:既存事業の深化

 GRITは、Guts、Resilience、Initiative、Tenacityの頭文字をとった言葉で「やり抜く力」を表しています。
 燃料油を中心とする既存事業において、調達から製造、物流、販売までのバリューチェーン全体の競争力強化に向けた取り組みを粘り強くやり抜きます。そのために、製油所・事業所の安全・安定操業を最優先に据え、保安・運転・設備管理のさらなる強化を着実に進めながら、稼働率向上に向けた取り組みを一段と深化させていきます。具体的には、現場力の強化に加え、デジタル技術の活用による運転・設備管理の高度化や稼働率向上に資する投資、本社と事業所の連携強化を進め、より高い水準での安定稼働を目指します。また、販売面では、全国約1,000の特約販売店と約6,000のapollostationネットワークを基盤に、各地域に根差し、お客様から選ばれ続けるサービスステーション網の強化を図ってまいります。
 課題事業への対応も、引き続きしっかりと進めます。ベトナムのニソン製油所、基礎化学品事業、電力・再生可能エネルギー事業を課題事業と位置付け、前中期経営計画から計画的に構造改革を進めてきました。そうした中で、ニソン製油所は5期連続で営業黒字(在庫影響除き)を達成し、電力・再生可能エネルギー事業でも赤字の縮小が進んでいます。基礎化学品事業については、市況悪化により収益改善は遅れていますが、エチレン装置の集約など生産能力の最適化や誘導品事業の競争力強化などの構造改革を急ぎます。

GROWTH:成長事業の創出

GROWTH:成長事業の創出

 GROWTHは、既存事業で培ってきた技術、顧客基盤、国内外ネットワークを土台に、中長期的な成長領域で新たな事業の創出と拡大を進めます。重点分野は、「キーマテリアル・ソリューション提供」、「さらなるグローバル展開」、「モビリティサービス展開(スマートよろずや)」、「サーキュラービジネス展開」の4つになります。事業や技術、顧客接点を有機的につなぎ、パートナーとの共創を通じて事業化の確度とスピードを高めていきます。
 世界では電化・電動化とICTの進展が加速し、多様なデバイスやインフラが連携するエコシステムの融合が進んでいます。この領域において、当社はリチウム固体電解質や潤滑油をはじめとする様々な「キーマテリアル・ソリューション」を有しており、パートナーとの共創を通じて価値創出を拡大していきます。
 「さらなるグローバル展開」は、海外トレーディング基盤や潤滑油事業の顧客ネットワーク、資源開発・操業の知見など、これまで培ってきた強みを最大限に活かし、潤滑油、ガス・LNG、資源分野を中心にグローバルでの事業展開を加速します。
 「スマートよろずや」は、全国のapollostationネットワークを燃料供給の拠点にとどめず、お客様や地域社会との重要な接点として進化させていきます。当社アプリ「Drive On」を活用した顧客接点の拡充に加え、カーケアや車販などのサービスを組み合わせながら、サービスステーションの付加価値向上と新たな顧客価値の創出を進めます。
 「サーキュラービジネス」は、循環型経済の拡大を見据え、石油精製・石油化学の既存アセットを活かしながら、資源を循環させる事業モデルの構築を進めていきます。使用済みプラスチックのケミカルリサイクルをはじめ、資源を有効活用する仕組みを具体化し、今後拡大が見込まれる循環型社会の需要を着実に取り込んでいきます。

CNX:低/脱炭素事業への挑戦

 低/脱炭素事業への取り組み方針を変えることなく、CN社会の実現に向けた挑戦を続けていきます。足元では脱炭素化の時間軸の変化など、CNを取り巻く環境は変化しており、社会実装までの道筋については、より現実的な見極めが必要になっています。私は、エネルギー安全保障とCNは対立するものではなく、両輪で進めていくべき課題だと考えています。エネルギー安全保障が改めて問われる今だからこそ、将来を見据えた供給構造そのものの強靭化が重要になります。日本は、エネルギー調達の面で外部環境の影響を受けやすいため、特定の資源に過度に依存しない供給体制を構築していくことが、将来にわたる安定供給につながると考えています。
 低/脱炭素事業は、短期間で成果が見える取り組みではありません。だからこそ、社会や産業の変化の方向性を見極めつつ、それぞれの局面において適切な選択肢を提供できるよう、技術や事業基盤、パートナーとの関係などの環境整備を進めておく必要があります。それが、エネルギーを扱う企業として果たすべき責任であると認識しています。

●企業価値向上に向けた事業戦略

企業価値向上に向けた事業戦略
企業価値向上に向けた事業戦略
企業価値向上に向けた事業戦略

一人ひとりが変革の主役に

 当社にとってもっとも大切な経営資源は「人」です。その根底には、「人間尊重」という経営の原点があります。責任ある仕事を任せ、自ら判断しやり抜く経験を積み重ねることが、結果として当社グループ全体の力の源泉であり続けています。
 私自身、若手時代に接したお客様から「出光はいつも若い担当者が来るが、その場で自ら判断し、責任を持って応えてくれる」との言葉をいただいたことがあります。当社には創業以来「一人ひとりが経営者」という言葉がありますが、従業員一人ひとりの主体的な姿勢が社外からも評価されていることは、当社の強みであり、まさに「出光らしさ」だと認識しています。
 こうした考え方を土台に、中期経営計画の人財戦略では「全ての社員を変革の主役に」、「もっと共創&イノベーションを」という2つの重点項目を掲げました。変革は、決して一人の人間だけで成し遂げられるものではありません。従業員一人ひとりがやりがいと成長実感を高め、行動指針のもとで組織としての一体感を醸成していくことが、変革を着実に進める基盤になると考えています。
 また、共創・イノベーションに向けた取り組みも加速させていきます。外部パートナーとの連携はもちろんのこと、社内の「横の連携」も重視しています。社内の部門の垣根を越えた相互理解と人財交流を目的とする「ジョブフェスティバル」では、かつてないほど活発な情報交換が行われています。越境的な連携が自然発生する土壌が着実に整いつつあることを、非常に頼もしく感じています。
 変革の主役は、従業員一人ひとりです。全員が自ら考え、行動することで、組織の力は着実に高まっていくものと考えています。

ビジネスプラットフォーム

 事業戦略と人財戦略を支える土台として、ビジネスプラットフォームの強化を進めていきます。
各戦略を着実に実行し、将来の成長につなげていくための基盤強化です。DX/AXの取り組みでは、従来のDXの枠を超えたAX(AIによる経営プロセスの高度化)に取り組み、経営判断や業務プロセスの高度化を図ります。知財戦略についても、これまでの権利保護を中心とした取り組みから一歩進め、知的資産全体を対象に「守り」と「攻め」の両面での戦略を実践します。共創を前提とした事業環境の中で、知的資産をいかに価値創出に結びつけていくかが重要であると考えています。
 また、2028年3月には、統合研究所(仮称)の完工を予定しています。分散していた研究拠点を集約し、事業を横断した研究開発体制を構築するとともに、社外との連携を強化することで、研究開発から商業生産までを一体で推進できる体制を築きます。当社の主力製品である有機EL材料は、40年以上にわたる基礎研究の積み重ねが社会実装に結びつき、現在では安定的に収益を生み出す事業へと成長しました。また、固体電解質についても、石油精製の過程で生まれる硫黄成分に着目し、長年培ってきた研究力と技術力を活かして開発を進めてきました。全固体電池の実用化・量産化を見据え、量産技術の検証や供給体制の構築を着実に進めています。
 短期的な成果に左右されることなく、基礎研究を継続し、社会のニーズと結びつけていく。この積み重ねこそが、当社の競争力の源泉の1つであると考えています。統合研究所をハブに社内外の共創を通じて、価値創出のスピードと確度を高めていきます。

グローバル経営を支えるガバナンス

グローバル経営を支えるガバナンス

 2019年の出光興産と昭和シェル石油との経営統合以降、スピード感を持って強化に取り組んできました。この数年間、たゆまぬ改革を続けてきた結果、当社グループのガバナンスは着実に高度化を遂げたと自負しています。
 一方で、グローバルガバナンスの観点では、取り組むべき課題が依然として存在します。現在、当社グループの海外拠点は60を超え、事業領域も急速に拡大しています。社外取締役からの提言なども踏まえ、外国人財の参画についても引き続き検討してまいります。また、各国・地域で法改正や準法律的なルールの変更が相次ぐ中、必要な手続きや体制見直しを遺漏なく進めることも重要です。日本の本社のみで全ての執行を監督することには限界があるため、今後は現地事情に精通した現地法人が主体となるマネジメント体制の強化を図っていきます。
 これと並行し、事業リスクを含む多角的な情報をグループ全体で共有・活用できる仕組みを整えるべく、ERM(全社的リスクマネジメント)のさらなる高度化を図ります。リスクの早期把握に加え、シナリオ分析や地政学リスク評価といったインテリジェンス機能を強化することで、経営の意思決定の質を高め、不確実な情勢への対応力を磨いていく考えです。
In the wake of the merger of Idemitsu Kosan and Showa Shell Sekiyu in 2019, we worked quickly to strengthen the governance framework. I am proud to say that the continuous reforms we have carried out over the past few years have steadily increased the sophistication of the Group’s governance.
On the other hand, from a global governance perspective, there are still issues that remain to be addressed. The Group currently has over 60 overseas bases, and its business fields are expanding rapidly. Heeding the advice of outside directors and considering other factors, we will continue to explore participation in Group management by foreign talent.
Moreover, as different countries and regions continuously revise legal regulations and change quasi-statutory rules, an exhaustive review of necessary procedures and frameworks is crucial. Given the limitations on our ability to monitor all business execution from the Japan head office alone, we will strengthen our management structure going forward centered on the local subsidiaries that have extensive knowledge of the local context.
In parallel with this, we will pursue more sophisticated Enterprise Risk Management (ERM) with a view to establishing a framework to enable multiple types of information, including business risks, to be shared and utilized across the Group.
We will bolster intelligence functions, which are tasked with the early identification of risks as well as scenario analyses and geopolitical risk assessments. This will enhance the caliber of decision-making for management and sharpen our ability to respond to uncertainties.

ステークホルダーへのメッセージ

 混沌として不確実性の高い時代だからこそ、当社が掲げる2030年ビジョン「責任ある変革者」をいかに具体的な成果として社会に示していくかが問われていると思います。2026年度は、新中期経営計画スタートの年です。足元の収益力を高め、将来への投資原資を生み出す。その資金をGROWTHとCNXへとつなげ、次の成長ステージを切り拓く。そのために、当社グループの強みである人、事業、技術をさらに進化させます。
 その実現に向けては、ステークホルダーの皆さまとの「対話」が不可欠です。対話から得られた示唆を経営に反映するとともに、従業員との対話にも還元し、組織全体で共有していきます。
今後も「人が中心の経営」を実践し、グループ全体で邁進してまいる所存です。
 当社グループはこれからも、世界の人々の暮らしと地球環境を守る責任を果たし、「変革をカタチに」するため、エネルギーをつくり、素材をつくり、未来を興していきます。
 引き続き、皆さまからのご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。