社長メッセージ
新たな成長のステージへ—
「人が中心の経営」で変革に挑む



2025年7月
社長就任に当たり
2025年4月より代表取締役社長に就任した酒井です。
私は入社以来、販売や製造、人事、経理財務、安全環境など様々な部門を経験してきました。幅広い部門を経験する中で強く認識したのは、どのような業務にも固有の使命があり、その使命を遂行する「人」が企業価値の源泉であり、企業の持続的な成長を支えるということです。
「人間を作ることが事業であって、石油業はその手段」。創業者である出光佐三は公言しています。世の中の役に立ち、尊重される人の育成こそが当社の企業目的であります。企業理念として掲げる「真に働く」という社員一人ひとりの姿勢が、数々の挑戦や困難を乗り越える原動力となってきました。当社のもっとも大切な経営資源は「人」であり、今後も「人が中心の経営」を実践してまいります。
エネルギー業界は今、大きな転換期を迎えています。気候変動という地球規模の課題、世界的な金融・地政学リスクの変化、エネルギー安全保障への意識の高まりなど、社会は複雑さを増し、当社の事業環境は激しく揺れ動いています。脱炭素に向けたエネルギートランジションと同時に「今」必要とされるエネルギーと素材の安定供給が当社グループの使命であることは変わりません。今の取り組みを加速させ、変革を進めていくこのタイミングで社長に就任したことに大きな責任と使命を感じております。
今後の経営に当たり、私が重視したいのは「バランス」です。「バランス」をとるという言葉は、時に消極的なイメージが想起されますが、むしろ攻めと守りを同時に制御する強い意志だと考えております。安定供給こそがエネルギーと素材を扱う企業の最大の使命であることは不変です。とりわけ、既存のエネルギーが、日本の産業や一人ひとりの生活を支える現状はすぐには変わりません。足元のエネルギーをしっかりと提供しながら、同時に新たな事業の可能性を切り拓いていくことが、まさに私たちに求められている「安定と変革の両立」であり、そのバランス感覚が今まで以上に大切になってくるのではないかと考えています。強いアクセルと的確なブレーキをどちらも踏み分け、結果として確実に前へ進んでいくことが必要です。
未来がどのように変化するかを見通すことは難しいですが、どのような未来が来ても、「バランス」を意識し、事業を通じて育った社員一人ひとりが最大限の力を発揮することで、しなやかに、逞しく、未来を切り拓くことができると考えています。
2050年・2030年ビジョン、2030年基本方針
当社は、今必要とされるエネルギーと素材の安定供給の使命を果たしながら、カーボンニュートラル・循環型社会に貢献する新しいエネルギーと素材、ソリューションを社会実装いたします。膨大な量のエネルギーと素材を安定供給してきた当社だからこそ、将来にわたってエネルギーと素材、カーボンニュートラルソリューションのメインプレイヤーとして社会を牽引できると考えています。2050年のカーボンニュートラル・循環型社会に貢献するため、これからの環境変化を事業変革のチャンスと捉え、社会実装を進めてまいります。社会実装する具体的な事業領域は、「一歩先のエネルギー」「多様な省資源・資源循環ソリューション」「スマートよろずや」になります。
「一歩先のエネルギー」は、合成燃料やアンモニア、SAFなど多様で地球環境に優しいカーボンニュートラルエネルギーの安定供給の実現に向け、様々な取り組みを進めています。「多様な省資源・資源循環ソリューション」は、産業はもちろん一般の消費者向けに高機能マテリアルや使用済みプラスチックリサイクルなど、これまで培ってきた技術力を活かしたカーボンニュートラルソリューションを提供します。「スマートよろずや」は、全国のサービスステーションが地域の暮らしを支え、地域課題の解決に挑む「生活支援基地」へ進化することを目指しています。当社ブランドであるapollostationがそれぞれのまちのニーズに即してYOROZU(無限に多様に)に進化し、エネルギー・モビリティを支える拠点となるべく取り組んでまいります。
この3つの事業領域の社会実装を通じて、「人びとの暮らしを支える責任」「未来の地球環境を守る責任」を果たしていくことを、2050年ビジョン「変革をカタチに」として定めています。その手前では2030年ビジョン「責任ある変革者」を掲げ、製油所・事業所の安全・安定操業を心に刻み、エネルギーと素材の安定供給の責務を果たしながら、カーボンニュートラル・循環型社会に向けた取り組みを具現化させる時期と位置づけています。
当社は中長期ビジョンにて掲げた軸をぶらすことなく、事業構造改革投資として、既存事業の資本効率・収益力のさらなる向上とカーボンニュートラル・循環型社会に向けた準備を並行して進めています。また、事業構造改革投資と並んで当社の経営戦略の根幹となる人財戦略については、人的資本投資を通じて、従業員の成長・やりがいの最大化を図り、競争力の源泉となる人財育成を推進しています。事業構造改革と人財戦略を柱とする経営戦略を加速させるべく、ビジネスプラットフォームの進化に向けDX戦略やガバナンスの進化にも取り組み、変革の基盤を築いてまいります。



中計2年目を振り返る
1. 事業構造改革投資
エネルギーと素材の安定供給を果たすためには、既存事業の資本効率・収益力のさらなる向上が非常に重要になります。中期経営計画の2年目の主な取り組みとして「精製・製造拠点の競争力強化」「サービスステーションネットワークの維持・強化と顧客体験価値の向上」「高機能材、先進マテリアル領域の拡大」を推進し、収益基盤の強化に取り組みました。また、2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けて、現在の中期経営計画を公表した2022年11月時点で16あったプロジェクトのスクリーニングを実施し、2023年度に、ブルーアンモニア、e-メタノール、SAF、リチウム固体電解質を重点4事業に設定しました。この4事業については、着実に取り組みを前進させることができています。
2. 人的資本投資
当社は事業を通じて人を育てる、「人が中心の経営」を実践することを大切にしています。現行の中期経営計画では「企業理念・ビジョンの体現」「DE&I の深化」「個々人の能力・個性の発揮」を3本の柱として各施策を推進しています。事業を通じて人を育て、いかなる環境になろうとも難題を克服できる、まさに社員一人ひとりが「責任ある変革者」となることを目指しています。
3. ビジネスプラットフォームの進化
事業構造改革投資と人的資本投資の土台となるビジネスプラットフォームは、エネルギーや産業構造の変化に対応するため、ITインフラの再構築や様々なデジタルツールを活用し、仕事の質やビジネスモデルの革新に取り組んでいます。この変革の鍵は「ひとのチカラ」であり、DX人財の育成が重要であると考えています。DXリテラシー研修の受講者は4,000名を超え、AIの活用による生産性向上と価値創出を図っています。



4. 次期中期経営計画へ向けて
次期中期経営計画の公表は、2026年春を予定しております。足元では、行き過ぎた脱炭素機運の揺り戻しや、米国の関税政策等により不透明な経営環境が続く見通しですが、それでも2050年のカーボンニュートラルの実現は、変わらない世界共通のミッションであります。一方、そのマイルストーンである2030年、2040年の姿、そこに至るまでのスピード感についてはフレキシビリティを持たせるべきだと考えています。
たとえば、AI技術の進展などに伴う電力需要の増大が見込まれる中においては、化石燃料が社会で果たすべき役割は依然大きい状況が続きます。次世代燃料の需要が高まるタイミングは、当初想定していたよりも後ろ倒しとなる可能性があり、事業化に向けた供給体制の構築も、需要動向を見極めながら慎重に判断していく必要があります。新たな経営体制のもと、足元で必要なエネルギーと素材の安定供給と次世代燃料の開発について、高度なバランスを取りながら、力強くそれぞれを前に進めていくことで、当社のビジョンである「責任ある変革者」「変革をカタチに」を体現していきたいと考えています。
ステークホルダーへのメッセージ
混沌として不確実性の高い時代だからこそ、当社が掲げる2030年ビジョン「責任ある変革者」、そして2050年ビジョン「変革をカタチに」をいかに実現し、社会に示していくかが問われています。当社が培ってきた多様な事業ポートフォリオを活かし、カーボンニュートラル社会への移行に対応しながら、従来のエネルギーと素材の供給においてもいっそうの安定供給と効率化を進めていく。一筋縄ではいかない挑戦ですが、出光だからこそできると信じています。木藤前社長が掲げてきた“チーム経営”は、私自身も引き続き大切にし、当社グループの総合力で難局を乗り越えていきたいと思います。
今後の予測不可能な未来を切り拓くためにはステークホルダーの皆さまとの共創が不可欠です。社外取締役が登壇するESGトップセミナーの実施、社長ライブセミナーの開催など、ステークホルダーの皆さまとのコミュニケーションの継続、さらなる充実を図ってまいります。皆さまとの対話から得られた洞察は、経営改善に活かし、さらには社員とのコミュニケーションにも織り込んでいます。今後も「人が中心の経営」を実践し、グループ全体で邁進してまいる所存です。引き続き、皆さまからのご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。