イノベーションマネジメント(知的財産活動)
考え方
出光興産では、中期経営計画に基づき事業ポートフォリオの転換を進めており、この転換を進めるために無形資産である知的財産が重要な役割を担うと位置付け、当社が保有する知的財産のさらなる活用を図っています。
具体的には、事業企画段階などの初期段階から、IPランドスケープ手法による内外環境分析を行い、知的財産情報を事業部門関係者や研究者に提供することで既存事業の強化すべき点の把握や新規事業の方向性検討を行い、事業ポートフォリオの転換を促進しています。
ガバナンス
当社の知財ガバナンスは、全社的なコーポレート課題と各事業部門の個別課題に対し、知的財産部と事業部との連携によって全社方針と現場ニーズを統合し、当社事業成長のための効果的な知財体制を確立しています。また近年は当社事業に対する経済安全保障への対応について、知財観点における注意事項を取り入れられる体制づくりも進めています。
取り組み
特許出願数と保有数
当社グループにおける事業セグメントごとの特許出願・特許保有状況を見ると、技術立脚型の事業部門からなる高機能材セグメントの出願が過半数を占めており、また、2022年から出願件数は減少傾向にあるものの、特許保有数は出願件数とは逆に増加しています。
これは、以前より進めているオープン&クローズド戦略の強化および事業展開に応じた出願戦略の実行を遂行することによって、知的財産権の量よりも質の向上に注力していることに起因しています。
保有特許の価値
当社の強みを可視化するため、LexisNexis®社の特許分析ツールPatentSight®を用いて当社グループ保有特許の価値であるTR※値を算出しています。当社保有特許のTR値は「2.01」(平均値は「1」)と高く、高機能材セグメントに限ると「2.28」とさらに高くなります。また、保有特許の内訳をみると、全体では、約5割を占める価値の高い(TR>1)基本特許と、基本特許を強化する関連特許や周辺特許が残りの約5割の構成となり、高機能材セグメントでは、価値の高い基本特許が約6割、残り約4割を関連特許、周辺特許という構成になっています。このように、当社では、価値の高い基本特許と周辺特許や関連特許からなる特許群を形成し、コア技術を強力に保護し、競争力を高めています。
特に有機EL事業やリチウムイオン電池材料事業では、当社の有機化学、無機化学、評価解析・計測技術や工業化技術等を組み合わせることで、当社独自の材料開発のみならず、その製法、用途など幅広い技術開発を行い、様々な基本特許を取得しています。この結果TRの平均値が当社事業の中でも相対的に高くなっています。
※ 特許の価値(Technology Relevance:TR):各国の特許庁の審査で引用された数(被引用数)により算出される価値(全特許のTRの平均値は「1」)。
新規事業に関する知的財産の保護と活用
当社の現中期経営計画に掲げた事業ポートフォリオ転換を進めるため、当社の知財活動としても新規事業に関する知財ポートフォリオの充実化は重要な活動の1つです。
下図の通り、当社重点事業である次世代燃料事業、リチウム電池材料事業、宇宙用太陽電池事業に関する公開・登録発明について特許分布を見ると、リチウム電池材料事業においてはトヨタ自動車との共同取り組みを開始した初期の2014年度に比べ、2024年度は出願が集中している箇所(赤破線枠)が増えていることが分かります。これは次世代燃料、宇宙用太陽電池の事業領域についても同様です。このように当社が保有する重要な技術に出願を集中させ権利を保有することで当社特有技術の保護と競争優位性の確保を図り、事業化の実現促進と事業の成功可能性を高めています。
●2014/2024年度 特許(公開・登録)比較
宇宙用太陽電池に関する知的財産の保護と活用
具体的に当社イノベーション創出活動の1つである宇宙用太陽電池を例に挙げると、当社グループのソーラーフロンティア(株)とともに地上用太陽電池で蓄積してきた材料・製造プロセスの知的財産を精査し、その中から宇宙環境にも適用可能な技術を選択・活用する一方、放射線耐性など宇宙特有の課題を解決する新技術については戦略的に特許を出願し、質と量の両面でポートフォリオを強化することで当社技術の保護を図っています。
これら保有特許をLexisNexis®社の分析ツールPatentSight®で評価したところ、重要指標であるPAI(Patent Asset Index)は年々向上し、2024年度には過去最高値を記録しました。
今後も研究開発部門と連携し、知的財産の取得・活用・権利行使を通じて宇宙用太陽電池事業の事業化実現と競争力向上を進めてまいります。
●宇宙用太陽電池テーマに関する特許保有数とPAIの動向
知的財産活動の推進
発明の奨励(職務発明報奨)
当社では、従業員の発明意欲を高め、事業の成長につながる革新的な発明の創出を促進するため、独自の「職務発明実績報奨制度」を設け、特に事業収益に大きな貢献をした発明者を讃えています。
2024年度は潤滑油、電子材料、機能化学の各分野業績に大きく貢献した発明者19名が「職務発明実績報奨」の栄誉に輝きました。
知財情報を活用したイノベーション活動
当社グループは、現中期経営計画にて事業ポートフォリオ転換の方針を掲げ、既存事業の確実な成長、選択と集中、そして新規事業への戦略的なシフトを加速させています。カーボンニュートラル関連事業の社会実装や、先進マテリアル事業における新たな市場形成、社会課題へのソリューション提供には、社内外の知的財産情報を活用し、新たな視点や発想を取り込むことが不可欠です。そのために、社内の無形資産を可視化し、既存事業の競争力強化に資する技術やノウハウを特定するとともに、新規事業のアイディエーションや具体的なプロジェクトにおける共創パートナー探索への活用を進めています。こうした活動は、社内外の知と技術を結びつけ、イノベーションの芽を確度高く育てる原動力となっています。
人財育成
これからの知的財産活動
イノベーションセンターの設立を契機に、社内外の共創によるイノベーション創出を加速させるため、知的財産活動をさらに進化させます。社会課題の急速な変化に合わせて事業モデルは多様化し、それに伴い事業戦略の重要な要素である知財戦略も、より柔軟で多面的な展開が求められます。また、社内外共創の活性化に伴う知財リスクを回避すべく、コーポレート全体での無形資産管理のガバナンスを一層強化する必要があります。「多様な知財戦略の立案推進機能」と「コーポレート知財ガバナンス機能」という二つの柱を確立し、これらを基盤に、より具体的な成果へとつなげる体制・人員を整え、次の成長ステージを力強く切り拓いていきます。
評価
Display Week 2025 有機EL技術部門 最優秀論文(2025年5月19日)
米国サンノゼで開催されたシンポジウム「Display Week 2025」※1において、蛍光型青色材料を用いた有機EL素子の世界最高レベルの発光効率と長寿命化に成功した当社の新発光方式の開発成果が、有機EL技術部門の最優秀論文賞(Distinguished Paper Award)を受賞しました。
なお、当社の新発光方式(積層型発光素子)技術が「Display Week」の最優秀論文賞を受賞するのは、2022年以来2回目となります。
※1ディスプレイ関連の世界最大の学会であるSociety of Information Display が主催するシンポジウム
令和6年春の褒章「紫綬褒章」を受章(2023年4月29日)
当社の高効率かつ長寿命の青色発光技術の発明により、有機EL発光において実用レベルでの三原色発光が可能となり、近年の有機ELフルカラーディスプレイを搭載した高機能機器の実用化に大きく貢献したことが評価され、受章に至りました。
Display Week 2022 有機EL技術部門 最優秀論文(2022年5月9日)
米国サンノゼで開催されたシンポジウム「Display Week 2022」※において、蛍光型青色材料を用いた有機EL素子の世界最高レベルの発光効率と長寿化に成功した当社の新発光方式の開発成果に対し、有機EL技術部門の最優秀論文に選定されました。
※ディスプレイ関連の世界最大の学会であるSociety of Information Display が主催するシンポジウム