イノベーションマネジメント(知的財産活動)
考え方
出光興産では、中期経営計画に基づき事業ポートフォリオの転換を進めており、この転換を進めるための原資の一つとして、無形資産である知的財産が重要な役割を担うと位置付け、当社が保有する知的財産の活用をさらに図っています。
具体的には、事業企画段階などの初期段階から、IPランドスケープ手法による内外環境分析を行い、知的財産情報を事業部門関係者や研究者に提供することで既存事業の強化すべき点の把握や新規事業の方向性検討を行い、事業ポートフォリオの転換を促進しています。
ガバナンス
当社の知的財産活動は、知的財産部と各事業部に知財担当者を配置した体制で推進しています。知的財産部では、主にコーポレート機能を担い、部門長研修を通じた事業活動に対するガバナンス強化、事業部・研究所への早期入り込みによる知財リスクのマネジメント、新規事業の創出に適した知財情報の提供やその情報に基づいた知財戦略の策定と提示、知財を経営に活用できる人財の育成などに注力しています。また、事業部の知財担当者は、事業部の戦略や事業特性に合わせた知財戦略を策定し、迅速かつ効率的な知的財産の取得や活用による事業展開を図っています。
※IPL:Intellectual Property Landscape(知財情報解析)
取り組み
特許出願数・保有数の実績
当社グループにおける事業セグメントごとの特許出願状況を見ると、技術立脚型の事業部門からなる高機能材セグメントの出願が2022年度以前と同様に国内外ともに全体の約7割以上の出願を占めています。また、特許を活用して競合他社との競争力を発揮するため、強固な特許網の構築を進めています。
2023年度は2022年度に比べて国内出願(公開)、外国出願ともに減少しています。これは各事業の市場動向に応じ海外の特定国にのみ出願するといった事業展開に応じた出願戦略と、オープン&クローズド戦略の強化によって、ノウハウとして保護すべき技術(発明)のノウハウ保護を確実に進めてきていることに起因します。
一方、特許保有件数については従前と変わらず国内外ともに一定数以上の権利を保有しており、ブラックボックス化した技術とともにグローバルな事業展開に活用しています。
●特許出願(出願公開)数の推移・特許保有件数の推移
保有特許の価値
当社の強みを可視化するため、LexisNexis®社の特許分析ツールPatentSight®を用いて当社グループ保有特許の価値であるTR※値を算出しています。当社保有特許のTR値は「2.01」(平均値は「1」)と高く、高機能材セグメントに限ると「2.28」とさらに高くなります。また、保有特許の内訳をみると、全体では、約5割を占める価値の高い(TR>1)基本特許と、基本特許を強化する関連特許や周辺特許が残りの約5割の構成となり、高機能材セグメントでは、価値の高い基本特許が約6割、残り約4割を関連特許、周辺特許という構成になっています。このように、当社では、価値の高い基本特許と周辺特許や関連特許からなる特許群を形成し、コア技術を強力に保護し、競争力を高めています。
特に有機EL事業やリチウムイオン電池材料事業では、当社の有機化学、無機化学、評価解析・計測技術や工業化技術等を組み合わせることで、当社独自の材料開発のみならず、その製法、用途など幅広い技術開発を行い、様々な基本特許を取得しています。この結果TRの平均値が当社事業の中でも相対的に高くなっています。
※ 特許の価値(Technology Relevance:TR):各国の特許庁の審査で引用された数(被引用数)により算出される価値(全特許のTRの平均値は「1」)。
知的財産活動の推進
発明の奨励(職務発明報奨)
当社では、従業員の発明意欲を高め、事業の成長につながる革新的な発明の創出を促進するため、独自の「職務発明実績報奨制度」を設け、特に事業収益に大きな貢献をした発明者を讃えています。
2023年度は、電子材料分野(1製品)において優れた業績を収めた発明者5名が「職務発明実績報奨」の栄誉に輝きました。
IPランドスケープ活動
当社グループの価値の高い特許(技術)の解析を行い、競争優位の厳選となる技術面での強み(コア・コンピタンス)を特定しています。今後、このコア・コンピタンスを基に新たな成長領域のテーマ候補を検討、設定していきます。また、事業企画の初期段階から内外環境分析としてIPランドスケープ活動を行うことでスタートアップやサプライチェーンを補強・補完できる第三者の技術や特許を検討し、新規事業の立ち上げに資するパートナーを見つける取り組みを行っています。
DX活動
2022年度に引き続き、知財業務の質と効率性の向上を目的としたAI活用を段階的に進めています。2023年度は先行技術調査に教師データを用いたAIを活用するとともに、生成AIを利用することで発明者の創作した発明のポイントを明確化した文章を作成することが可能か否か、検証を開始しました。
今後もAI技術を知財活動に積極的に取り入れ、変化する事業環境に適応した質の高い知的財産活動を進めていきます。
知財人財の育成
これからの知的財産活動
2023年度は知的財産を活用した経営や事業運営を目指して、事業企画・研究開発の初期段階から担当部門に知財部門が伴走した知的財産活動を強化しており、技術導入時のライセンス契約やスタートアップ企業の知財デューデリジェンス(知財DD)などに注力しています。
特に、研究開発や事業提携のパートナー選定においては、自社技術の検証やIPランドスケープを通じた自他社の知財環境分析を実施して、当社の強みと相補性の高いパートナーの選定を行い、技術の融合を図るとともに、将来想定しているビジネスのサプライチェーンの強化を図っています。
評価
令和6年春の褒章「紫綬褒章」を受章(2023年4月29日)

当社の高効率かつ長寿命の青色発光技術の発明により、有機EL発光において実用レベルでの三原色発光が可能となり、近年の有機ELフルカラーディスプレイを搭載した高機能機器の実用化に大きく貢献したことが評価され、受章に至りました。
Display Week 2022 有機EL技術部門 最優秀論文(2022年5月9日)

米国サンノゼで開催されたシンポジウム「Display Week 2022」※において、蛍光型青色材料を用いた有機EL素子の世界最高レベルの発光効率と長寿化に成功した当社の新発光方式の開発成果に対し、有機EL技術部門の最優秀論文に選定されました。
※ディスプレイ関連の世界最大の学会であるSociety of Information Display が主催するシンポジウム
文部科学大臣表彰 科学技術賞 開発部門(2022年4月8日)

文部科学大臣表彰として令和4年度科学技術賞(開発部門)を3名の社員が受賞しました。同賞は、科学技術に関する研究開発、理解増進などにおいて顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的とするものです。受賞業績は、「高効率かつ長寿命の青色有機EL発光素子の開発」です。