取締役対談

The English version will be available in November.

社外取締役である橘川取締役と鈴木取締役
社外取締役である橘川取締役と鈴木取締役
社外取締役である橘川取締役と鈴木取締役

~ガバナンスの進化~ 事業構造改革に資する取締役会の実効性向上に向けて

当社の事業構造改革における課題と取締役会の役割・機能について、社外取締役である橘川取締役と鈴木取締役にお話を伺いました。

2024年10月

カーボンニュートラルに向けた道筋が絞られた1年

—— 2023年度の当社取り組みに対する率直な感想をお聞かせください。

橘川 2023年度にカーボンニュートラルに資する新規事業16プロジェクトの中から、スクリーニングにより重点4事業を設定し、カーボンニュートラルに向けて何に取り組んでいくかが、かなり絞り込まれた一年でした。
鈴木 昨年6月に社外取締役に就任し、まさに絞り込みの過程に携わりました。取締役会の議論の中では、社外取締役がそれぞれの専門性に立ち、同じ案件についても異なる角度から問題意識を提示していたのが印象的でした。

出光興産らしい重点4事業 どう投資していくかが最大の課題

—— エネルギー領域における課題と、取締役会が果たすべき役割についてお考えをお聞かせください。

橘川 重点4事業は、実は非常に出光興産らしい特徴があります。アンモニアに取り組む会社は多いですが、当社はCCS※1と結び付けて「ブルーアンモニア」を選定。「e-メタノール」では、まずはメタノールを製造し、市場によってガソリンやSAF、ディーゼルを製造するという当社ならではのアプローチをとっています。「SAF」については、HEFA※2、ATJ※3の先にMTJ※4を見据えていますし、「リチウム固体電解質」は当社固有の取り組みです。
出光興産らしい重点4事業に絞ったとはいえ、最大の課題はこれからどう投資していくか。タイミングを見誤れば、撤退を余儀なくされます。ただ当社は、ファーストペンギンになり得ると期待しています。

鈴木 投資は、タイミングが一番難しい。私自身の経営の経験では、投資の意思決定を行う際は、まず戦略に合致しているかを見極め、次にあらゆるリスクを抽出して打ち手を準備するリスクミティゲ—ションを行い、最後に経済合理性を検討しました。事業計画は仮定に基づくものですから、その前提が変わった時にすぐに対応できるかという判断も重要です。そういった観点から投資案件を評価していきたいと思っています。

  • CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)

  • HEFA(Hydrogenated easters and fatty acids)

  • ATJ(Alcohol to Jet)

  • MTJ(Methanol to Jet)

統合研究所への挑戦をイノベーションにつなげられるか

—— マテリアル領域における課題についてはいかがでしょうか。

鈴木取締役

鈴木 事業は、社会貢献はもちろん大事ですが、企業としてしっかりと利益を上げることも必須です。この一年間、先進マテリアルカンパニーの方々とお話をして、事業としての"勝ち筋"を見つけることの重要性をインプットしてきたつもりです。
その中で、約500億円を投じた統合研究所「イノベーションセンター(仮称)」の設立には驚きました。ただ、中身を吟味すると、維持更新投資額を考えればリーズナブル。しかも、出光興産には、様々な優れた技術がありますから、それらがつながり、事業横断的な開発体制や社外連携が充実していくのであれば、統合研究所は"勝ち筋あり"だと思いました。ですから、統合研究所を事業間や社外へといかにオープン化し、イノベーションにつなげていけるかが課題でしょう。

橘川 経営学の世界では、いわゆる中央研究所の時代は終焉したというのが常識化しています。そういう意味では、統合研究所は世界のビジネスの常識に対する挑戦とも言えます。ただ、現在カーボンニュートラルの実現に向けてコンビナート各社と連携を強化しており、統合研究所はそのためのオープンな研究・開発拠点になる予定ですから、出光興産がコンビナート各社をリードしていくことを期待したいと思います。

全体戦略の中での位置付けを明確化 人的資本投資の議論も

—— 取締役会の実効性をさらに向上させるために、どのようなことが必要だとお考えでしょうか。

橘川取締役

橘川 取締役会の実効性を担保するためには、やはり社外取締役の構成が重要です。特にエネルギー会社の事業構造改革には、マテリアルや経営実務の知見が必須ですから、ここに良い人財を引っ張り、社外取締役のスキルキャリアマトリックスを完成させていることが、実効性向上につながっていると思います。

鈴木 私は、取締役会の各議案や個別の案件が、全体戦略の中のどこに位置付けられているかが明確になれば、より良い議論ができると感じています。2025年には現在の中期経営計画が終わるため、次の中期経営計画の議論も始まってくるでしょう。長期フレームの全体戦略を常に念頭におき、企業運営、事業方針、一つひとつの事業の取捨選択、投資の仕方・時期などを議論する必要があると考えます。

橘川 また、出光興産は、「真に働く」を企業理念とし、事業を通じて人を育てることを大切にしています。それをより明確に実践していけるよう、人的資本投資や人財戦略について、議論していくことも必要でしょう。

鈴木 仰る通り、現在出光興産が取り組むエネルギートランジションという難しいチャレンジを成功させるためには、いかに社員のモチベーションを高めるかが重要になります。もともと出光興産は、人財を経営の柱に据え、人的資本の考え方が企業文化に根付いていますから、人的資本経営の充実をテーマに、改めて取締役会で議論を深めることは意味があると思います。

橘川 現在、エネルギートランジションに向けていかに投資をしていくかが経営の大きなテーマであり、取締役会の議論の多くが投資判断になっています。それについては、社外取締役がそれぞれの専門性に立脚して、あらゆる角度から議論を深化させる必要があります。

鈴木 そうしてあらゆる角度から議論を尽くした後に出た方向性は、しっかりと後押ししたい。ブレーキだけでなく、アクセルも効かせて、取締役会の実効性を高めていきたいと考えます。