社外役員メッセージ
前 社外取締役メッセージ|前社外取締役 取締役会前議長 橘川 武郎
「あって良かった会社」 出光興産に贈る言葉
2026年6月24日をもって、9年間勤めた出光興産の社外取締役を退任した。在任期間を振り返ってつくづく思うのは、「出光興産という会社が存在して本当に良かった」ということである。
出光興産は、日本にとっても、世界にとっても、なくてはならない会社である。それは、今、人類が求めているEnergy AdditionとEnergy Transitionとの双方を同時に追求している、稀有な存在だからである。
石油の供給責任を果たしながら、メタノール経由の合成燃料(e-fuel)の開発に力を注ぐ。石炭の供給責任を果たしながら、アンモニアやブラックペレットの混焼に道を拓く。天然ガスビジネスにも本格参入し、太陽光・バイオマス・地熱を中心に再生可能エネルギーの分野でも存在感を増す。全固体電池の開発は、モビリティや電力系統のあり方を根本的に革新する可能性がある。
なぜ、出光興産は、「稀有な存在」になりえているのか。それは、そこに集う人々の多くが、「自分のため」「会社のため」にだけ働いているのではなく、「日本のため」「世界のため」にもと考え、行動しているからである。
大義が会社全体を貫いているから、色々な意見が自由闊達に飛び交う。社外取締役の任期の後半には取締役会議長という大任を仰せつかったが、取締役会では、取締役/監査役、社内役員/社外役員、執行役員/非執行役員の区別なく、議論のやり取りが活発に行われた。9年間を通じて2件程、取締役会で反対票を投じたこともある。社外取締役として参加した業界通のアナリストとの対話集会では、文字通り「何の制約も受けず」、自分の見解を発表することができた。
大義は、日本人社員だけでなく、外国人社員の間にも、浸透している。米国のケンタッキー州で潤滑油ビジネスに携わるアメリカ人従業員も、サクラメントで石油販売にかかわるカナダ人従業員も、シンガポールでトレーディング業務を担当する従業員も、ボガブライ炭鉱で働くオーストラリア人の石炭技師も、ニソン製油所で技術習得に励むベトナム人の若い技術者も、みな口々に、「イデミツで働くことの意味」を熱く語ってくれた。
このように素晴らしい人々と9年間にわたって、ともに歩むことができたのは、本当に幸せであった。しかし、だからこそ、それらの人々に贈りたい言葉がある。
それは、「井の中の蛙になるな」という言葉である。大義をもって「真に働く」ことは美しい。喜びも大きく、満足感も高い。ただし、それに浸りすぎていると、井戸の外側で求められている期待を見失うことになる。サプライサイドからの達成感を超えて、マーケット・インの発想に立ち、それを出発点にして仕事を進めることが求められている。その一歩を踏み出せば、逸失していた利益の源泉を発見し、それを実現して、企業価値を高めることができる。たとえば、環境価値を収益化するビジネスモデルを構築する必要がある。
出光興産が井戸の外側に足を踏み出した時、「あって良かった会社」としての輝きは、いっそう際立つことになるだろう。
社外取締役 指名・報酬諮問委員会委員長メッセージ|社外取締役 指名・報酬諮問委員会委員長 鈴木 純
エネルギーの安定供給と低/脱炭素化を両立するための戦略実行
地政学的な構造変化やエネルギーを巡る国際環境の不確実性が一段と高まる中、エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立は、企業経営においてますます重要な課題となっています。こうした環境認識のもと、社外取締役として、中長期的な企業価値向上の観点から、出光興産の中期経営計画に関する議論に参画してきました。前中期経営計画(2023-2025年度)においては、事業構造改革投資や人的資本投資、ビジネスプラットフォームの高度化は着実に進展したと評価しています。一方で、地政学的要因に起因する外部環境の影響の大きさについての認識も共有され、安定的な収益基盤の確立や資本効率のさらなる向上といった課題も明確になりました。
これら成果と課題を踏まえ、新中期経営計画(2026-2030年度)では、不確実性の高い経営環境を前提に、事業戦略のリバランスと「稼ぐ力」の強化を図る方向性について認識を共有しました。特に、事業区分を「GRIT」「GROWTH」「CNX」の3つの軸に再編し、それぞれの役割と資源配分を明確化した枠組みは、戦略実行力の向上に資する重要な基盤であるものだと思っています。
すなわち、「GRIT」では既存事業の基盤強化による収益力と資本効率の向上、「GROWTH」では電化・電動化や海外展開などを通じた成長領域の創出、「CNX」では低/脱炭素領域への挑戦を通じた2050年カーボンニュートラルへの貢献といった、時間軸の異なる取り組みが整理されました。これらは、当社の事業ポートフォリオを中長期的に進化させていくための共通基盤となるものです。また、取締役会における議論を通じて、「エネルギートランジション」と「エネルギーアディション」という2つの命題に同時に取り組む必要性についても共有してきました。脱炭素化と安定供給の両立は、当社の持続可能性を支える根幹であり、新中計においても戦略の中核として明確に位置付けられています。
当社が有する技術力、現場力、そして国際的なパートナーシップを基盤として、エネルギー安全保障と脱炭素化の両立に向けた取り組みを着実に推進していくことが、中長期的な企業価値の向上と社会への持続的価値提供につながるものと考えています。今後も引き続き、社外取締役としてその実現に向けて貢献していきます。
指名・報酬諮問委員会において指名の領域では、2026年度の役員選任に向け、社長のサクセッションプランの策定を含めた議論を行いました。次世代を見据えたトップマネジメントチームの構成を念頭に、複数候補者に対する計画的な育成と継続的な評価の重要性について認識を共有しています。サクセッションは一時的な選抜ではなく、長期的な育成と適切な経験付与の積み重ねによって実効性を高めるべきものであり、こうした観点から継続的に議論を重ねてきました。
また、報酬の領域では、新中計の始動に当たり、その戦略と整合的な評価指標および報酬体系について検討を重ねてきました。短期・中期・長期の目標と実績の連動性を高めるとともに、企業価値向上に資するインセンティブ機能の強化を図る方向性を共有しています。加えて、競争力ある報酬水準のあり方についても議論を進め、持続的成長を支えるに相応しい報酬水準の設定が実現できたと考えております。
社外取締役メッセージ|社外取締役 指名・報酬諮問委員会委員 長田 志織
現場の理解と戦略議論の両立による実効性あるガバナンス
社外取締役として私が着任以来特に重視してきたのは、現場に足を運ぶことです。千葉製油所、関西支店、ベトナムのニソン製油所、トレーディング部門の拠点であるシンガポール、マレーシアや米国の拠点、オーストラリアのボガブライ鉱山など、異なる事業の現場を訪問してきました。
そこで実感したのは、出光興産の経営哲学や製造ノウハウが、製油所、化学プラント、鉱山といった業態の違いを越えて、現地の各現場にまで深く浸透しているということです。現場でお伺いした声や課題感は、取締役会や経営陣とのディスカッションの場でも共有し、経営の議論に反映してきました。
また、各地の事業特性や将来に向けた可能性を自らの目で確かめてきたことで、新中期経営計画の背景や狙いも、より深く理解することができたと考えています。取締役会におけるハイレベルな戦略議論と、現場の実態を理解することの双方が、実効性のあるガバナンスの土台になると考えています。
新中期経営計画では、「GRIT」「GROWTH」「CNX」の3つのテーマのもと、戦略をリバランスし、持続的成長と社会課題の解決を両立する方針が示されました。厳しい現実と向き合いながらも成長を希求する、素晴らしい中期経営計画となったと考えています。成長領域の中で、私が個人的に期待を寄せているのはケミカルリサイクル・サーキュラービジネスです。使用済みプラスチックが油化され、新たな資源として生まれ変わる現場を目の当たりにした時には、その光景に未来への可能性を感じ、感動しました。既存アセットを活かしながら循環型経済の需要を捉えるこの取り組みは、当社が培ってきた製油・化学の技術力を新たな価値創出につなげる好例だと思います。こういった新しい事業群が着実に拡大し、社会課題の解決と企業価値の向上を両立する1つの柱に育っていくことを、強く期待しています。
社外取締役メッセージ|社外取締役 指名・報酬諮問委員会委員 DE&I 推進委員会アドバイザー 柏村 美生
一人ひとりの力、情熱を起点に中期経営計画実行へ挑戦
社外取締役に就任してからのこの1年、経営チームや現場の皆さんと対話を重ねる中で、出光興産の企業価値の源泉は間違いなく「人」であり、「事業を通して人が育つ」ことを何より重んじる風土を肌で感じてきました。その後、門司の資料館を訪れる機会を得て、私が日々現場で実感していたその熱量が、100年以上続く「人間尊重」と「真に働く」という企業理念に真っ直ぐつながっているのだと腑に落ち、私がキャリアを通じて大切にしてきた「個の尊重」と重なり合って、深い共感を覚えました。 折しも、酒井社長のもと新中期経営計画が始動しました。
地政学リスクやAI普及によるエネルギー需要の拡大など、世界が激しく変化する中、当社は「GRIT」「GROWTH」「CNX」の3つの戦略を掲げています。現在の社会を支える「エネルギーアディション」と、未来の脱炭素社会へ向けた「エネルギートランジション」。この難しい両輪のチャレンジに対し、真摯な覚悟を持ち、それを確かな実行へと移していく挑戦を目の当たりにした1年となりました。
当社がこれら3つの戦略を完遂できるかどうか。その鍵を握るのは、事業戦略と連動した「人財戦略の実行」だと強く認識しています。 新中期経営計画では、DX/AXによる業務プロセス変革を掲げています。しかし、どれほどシステムが高度化しても、当社が培ってきた高い研究開発力を解き放ち、社会課題を解決する新たな価値を生み出すのは、多様な知を結集した一人ひとりの力、そして情熱にほかなりません。2026年度より、長田取締役からDE&I推進委員会のアドバイザーを引き継ぎました。この役割も存分に活かしながら、一人ひとりが自律的にキャリアを描き、多様な「人」が輝く環境を後押しします。そこから社内外の共創を加速して新たなビジネスモデルを生み出し、当社の確かな「稼ぐ力」へとつなげていくプロセスを、支援してまいります。
社外監査役|市毛 由美子
当社ガバナンスの強みおよび今後さらに強化すべき課題
当社ガバナンスの最大の強みは、社内外の多様な役員で構成される取締役会の監督機能にあります。取締役会では、皆が持続的な企業価値向上という同じゴールを目指しつつ、時には反対意見も含めて、様々な角度から議論が展開されています。5つの事業セグメント毎に環境変化のスピード感はそれぞれですが、それを踏まえた投資タイミングや経営資源配分の全体像を定めるとともに、個々の案件については、収益機会と想定リスク(不作為のリスクを含め)の比較考慮のもと審議がなされています。特にこの4年間は、CNXなどの新規事業案件について、政府方針や市場ニーズの変化などの繊細なバランスの中で、責任ある変革者としての最適なロードマップを模索する議論が多かったと思います。また、新たな中期経営計画の策定に当たっては、直面する地政学的課題、経済安全保障、それを受けての国のエネルギー政策の動向といったテーマに関して、時には専門家を招いて勉強会を開いた上で、また、生成AIの普及と電力需要の高まりといった市場の変化も踏まえて、戦略の議論が交わされてきました。
2025年度の監査活動は、(1)事業構造改革に伴うリスクへの対応、(2)人的資本投資に対する取り組み状況、(3)安全・コンプライアンス・品質確保および製油所の稼働率向上を重点項目とし、往査結果と監査役の気付き事項は各対象部門にフィードバックされています。
他方で、取締役会との連携については、年度毎に報告はしているものの、時間の制約もあり議論の端緒になるまでには至っていません。本来、監査役の気付き事項は取締役会の監督機能と密接にかかわるものです。監査役会では年度初めにこの点を議論し、取締役のご意見や議論につながるより丁寧な報告方法を工夫するとともに、取締役会事務局との間でも情報共有のあり方について協議するなどして、今後、取締役会との連携をさらに強化していきたいと思います。