日本へ向け、いざ出港!
積荷前のVLCCの水面下の船体の深さ(喫水)は約11m。これが原油満載後には19m以上になります。高さが29mある船体の約2/3が水中に沈んでいる事になります。これは6階立てのビルが水中に沈んでいるのと同じになります。
自動車や小型のボートは動き出してすぐにスピードを上げる事ができますが、VLCCは積荷の原油と船の重さ併せて30万t以上と非常に重いため、すぐには船速を上げる事ができません。エンジンに無理な負荷を掛けない用に直径9mのスクリューの回転を段階的に上げてスピードアップしていきます。
原油満載時の本船の航海速力は平均15ノット(時速約28km)。それ程早いと感じませんが、しかしこのスピードに達するまで約2時間程度かけて増速していくのです。更にアラビア湾内は水深が浅いために湾の出口付近の比較的水深の深い海域までは船速を上げる事はできません。
出港すると今航の下船予定者のテンションは最高潮に達します。下船でない人には…大丈夫です、小さな楽しみがあるのです。イスラム教国に囲まれる湾内ではアルコールの摂取が禁じられています。船では入湾前に船内の全てのアルコール類を鍵のかかる部屋に保管、税関職員の確認を受け扉に封印をします。例えば湾内2つの港で積荷をすると4、5日程度は「仕事の後の一杯」は御法度となります。身体にはその方がいいのでしょうが、コレが精神面に結構効きます!出港後に倉庫の封印を破り、氷を入れたバケツに缶ビールを冷して飲む一杯は正に天国の一杯です。
湾内を半日走るといよいよ湾の出口「ホルムズ海峡」に到達します。「海峡」と言うと関門海峡のような狭さを想像されがちですが、ホルムズ海峡はその幅が最狭部で33km程もあり、海峡内には入湾用、出湾用の航路が設けられ、本船はそれを通って、湾出口の「リトルコイン島」を右手に見て出湾、一路インド洋を目指します。