超大型タンカーの定期健康診断「日章丸」のドック工事 Vol.1

タンカーは自動車と同様に、5年間に2回の検査を受ける必要があります。この検査を定期検査、中間検査といいます。また、これらの検査に合わせて、船では通常2年半ごとに修繕ドック(車でいえば修理工場みたいな所で、船の場合は造船所となります)に入渠し、定期点検や船底検査および修理を実施しています。ドックに入ることを「入渠」といいます。

ドライドックで塗装完了

ドライドックで塗装完了

超大型タンカーは主に海外のドックで定期点検をしますが、ドック(造船所)に船を入れる目的は、大きく分けると、次の6項目になります。

  1. 海洋生物付着防止の為の特別な防汚塗料を外板に塗装する。
    (船体に生物が付着して、スピードが出せなくなるのを防ぐため)
  2. 普段は、水中にある船底外板や、船底・船外弁、舵、プロペラなどの状態を点検・検査する。
    (船底検査という)
  3. ドック(造船所)でないと検査が困難な項目の受検
    (貨物タンク等の内部検査、主機関、ボイラー、発電機などの開放検査)
  4. 航海中に発生した不具合事項で、航海中には修理できなかった箇所の修理
  5. 船の長期使用を目指し、計画的に行う補修工事
  6. 次回の入渠(ドック)に備えた工事準備のための調査

船がドックに入るまでの仕事 ~ドックが終了したすぐ後から、次回ドックの準備の始まり~

1.ドック工事の準備

ドック工事が終了すると、船は通常の航海に戻り、しばらく運航するうちに機器の故障や腐食などによる不具合が発生しはじめます。この中で、航海中の船内作業で実施するものや、沖修理などで対応する項目を除いたものが、次回のドックエ事として本社に申請されます。ドック工事の申請が本船から本社に届くと、工事方法や納期に時間がかかる物品の発注などの検討が開始されます。

また、必要に応じてメーカーなどの専門家のアドバイスを受けたり、社内での検討会なども実施されます。それに加えて、船齢の高い船(8年以上が目安)の場合は、入渠予定時期の半年前から、乗船調査を行い、主にバラストタンク(船舶の喫水、傾斜などを調節するための船内の海水専用の水槽)や、貨油タンク(原油を入れるタンク)内の船殼の腐食やクラックの状況等について綿密に調査し、入渠時の工事仕様の詳細を作成します。

ドックの2航海前までには、ドックオーダー(入渠工事仕様書・英文)を作成し、本社と本船で打合せや確認を行いながらドックオーダーの修正をしていきます。これをもとに、複数の造船所に費用の見積りを依頼・取得した上で各社の見積りを本社で検討し、最適の造船所にドックエ事を発注します。

2.ドックに入るための準備

ドック前最後の揚げ荷役が終わると、ドックエ事の行われる造船所のある港まで船を回航しながら、約8日間かけて乗組員による貨油タンクの洗浄とガスフリー作業が行われます。 このガスフリー作業とは、通常航海時に危険物を積載しているタンクの中をきれいに掃除して、油分や石油ガス(炭化水素ガス)がない状態にすることです。

ガスフリーのための準備として、揚げ荷中にあらかじめタンク内に設置されている高圧洗浄機で原油洗浄(タンク内に堆積した不純物や壁の油分を溶かす為に原油を利用してタンクを高圧洗浄する)を実施し、タンク内に残る油の量をできるだけ少なくします。

揚げ地を出港すると、タンク洗浄に使う海水をスロップタンク(油水の混合した物を保管分離するためのタンク)に積み込み、蒸気を通して温海水をつくります。この温海水でタンク内を高圧洗浄します。この時、タンク内には石油ガスと爆発防止のためのイナートガス(不活性ガス)が満たされています。

洗浄が終わったタンクには、まず、イナートガスを入れて石油ガスを放出し、タンク内の石油ガス濃度を爆発しない濃度まで下げます。その後、外気を入れてタンク内のイナートガスと微量に残った石油ガスの混合気体を排出し、タンク内で作業ができる状態にします。

すべてのタンクの洗浄が終わると、洗浄に使用した油分を含んだ温海水を静置させて油分と海水に分離します。分離された海水分だけを、油分排出監視装置を通して油分のないことを確認しながら船外に排出します。この作業で船内に残った油水をスロップといいます。
このスロップはドック工事の行われる造船所に入るために錨地(びょうち)(船が錨(いかり)を下ろし停泊する所)に着いてから、陸上作業員200名程でタンクの底から集められたスラッジ(油性残渣物)と一緒に陸揚げします。

この陸揚げの間に、入港地管轄国の官憲によるガスフリーの検査が行われ、ガスフリー証明書が発行されます。これが無いとドックに入ることができません。そして、最後の準備として、ドライドック(水中ではない、船底を盤木で支えて船舶の検査や修理を行う施設)またはドックの岸壁に入るために喫水(水上に浮かんでいる船の船底から水線までの垂直距離)を調整し、いざドックを目指して航海します。

ドック工事 ~何百とある作業項目~

いよいよ、ドック工事が始まります。ここでは、ドック中の作業についてシンガポール地区を例に簡単に説明します。

我々が運航しているタンカーが他の種類の船と大きく違うところは、荷物が「油」即ち「可燃性液体」であるという点にあります。従ってドックエ事では、航海中にできない、火気を必要とする修理作業を集中的に行うことになります。

また船がドックに入っている間は、運賃収入がありませんので、ドックでのエ事期間をできるだけ短くすることが大変重要になります。

ドック工事の計画はこれらの前提を踏まえて、進められて行きます。ドックに入る準備ができると、本船はドライドックに入渠します。直接入渠できれば、費用を軽減することができますが、ドライドックが満員などで直接入れない場合は、一旦、修繕岸壁に接岸してから、ドライドックが空くのを待ち、改めて入渠することになります。

さて、ドックに到着して最初の二日間ぐらいは、ドック側の工事準備になります。本船乗組員は、最終揚地入港前からガスフリー作業終了まで、緊張した日の連続でしたが、これからはドックの作業員が主役です。

ドック工事は、ドックの作業員が休日なしで、場合によっては昼夜関係なく実施します。これに合わせて、本社工務担当者(ドック工事担当者)は、工事期間中を通して全ての作業の進み具合や作業内容を点検していくことになります。それらを項目としてあげると以下のようになります。

  1. 作業の進み具合や、作業内容の適否をチェック
  2. 作業に関連して他の部分を損傷していないかのチェック
  3. 作業の進展により、不具合事項がでてきた場合の対応方法の指示
  4. 追加工事の発注、具体的工事内容の打合せ
  5. ドックエ事関係者との毎日の打合せ(安全会議:造船所、本社、本船)
    (1)全体的な安全確認、タンク内ガス濃度を確認し、作業可否判断
    (2)工程および各作業の予定、進捗状況の確認
    (3)不具合点の指摘、工事方法の改善や変更があれば、その指示
    (4)検査予定の確認
    (5)その他
  6. 本社工務担当者と本船の主要立会いメンバーとの意思の疎通
  7. 船底検査における、海難工事(船体の損傷)の発見並びに対応処置
  8. その他

工務担当者は、作業の進捗具合のチェックと合わせてドックを出た後の積荷航海の予定を常に考えておかなければならず、「いつ船を出港させられるか」を念頭に置き、本社と連絡を取り合っています。

これから、何百もの作業がスタートしますが、ドックでの工事は、毎朝の安全ミーティングから始まります。安全ミーティングでは、その日の工事予定、昨日までの工事進捗状況などなど安全に工事を行うためにドック側と本船側で綿密な打ち合わせを行います。このミーティングが終わると、各々、工事箇所での工事がスタートしていきます。

次回は具体的な作業の例を紹介します。

掲載日 2009年7月31日

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