挑戦マインドの形成を
後押しする場づくりで
社員と出光興産の「今」を
「未来」へとつなげる。

  • 人事部人事課
    Y.SHIZUNO

出光興産の各部署が、自社の社員を対象に業務内容を紹介する展示会「ジョブ・フェスティバル」が今年も開催される。社員が仕事を「知る」ための機会として、2023年に初回を開催。過去2回は、さまざまな展示を行うブースに多くの社員が足を運び、オリジナルの法被を身に着けた事務局のたたずまいも相まって、さながら学園祭のような賑わいを見せた。同イベントを主催する人事部の担当者に、「つなげる」をテーマに、企画の背景や反響、今後の展望を聞いた。

INTERVIEW POINT

2006年入社。北陸支店を経て、2010年よりアグリバイオ事業部※へ。微生物発酵・培養技術を応用した畜産用資材の営業に従事。2020年に経営企画部企画二課へ異動、投資計画のルール策定や部門の投資意思決定の支援を担当。2023年より現職。人事異動や評価、人事制度の策定のほか、キャリアチャレンジやジョブ・フェスティバル等のキャリア形成支援策の企画運営を担当。
※ 組織名は当時。同事業は2022年7月、連結子会社である㈱エス・ディー・エス バイオテックへ継承済み

しなやかに、逞しく
未来を切り拓く
人財集団に
なるための布石。

2050年ビジョン「変革をカタチに」の実現に向けて

出光興産は2022年11月、2050年のカーボンニュートラル・循環型社会の実現を見据え、2050年ビジョン「変革をカタチに」を打ち出した。「石油業界の根幹に関わる社会環境の大きな転換期に差し掛かる中、当社はこれをチャンスと捉え、新たな価値を創出する事業構造の変革に挑もうとしています。また、将来の不確実性が高まるなかで事業構造改革を成し遂げるために、『どのような未来が来ても、しなやかに、逞しく、未来を切り拓く人財集団』をありたい姿に設定しました」
「未来を切り拓く人財集団」であるためには、社員一人ひとりの柔軟な発想力と変革・挑戦へのマインド、そして変化への適応を念頭においた自己研鑽が求められる。「社員のキャリア開発を、『(出光・自分を)知る』『(キャリアについて)考える』『行動する』の3つのステップに整理しました。現在の『自律的キャリア形成』の考え方に繋がっています」

「自律的キャリア形成」の第一歩は「知る」こと

ジョブ・フェスティバルの立ち上げは、2050年ビジョンの策定直後に行われた社員へのアンケート調査がきっかけだった。「2017年から毎年実施していたサーベイで、いわゆる仕事のやりがい調査です。2022年の結果をひもとくと、『今後、当社でのキャリアを思い描けるか』のスコアが相対的に低く、テコ入れが必要な状況でした」
アンケート調査の結果を踏まえ、人事制度に関する意見募集も行った。「寄せられた声の中には、『当社グループ内にどのような業務があるのか知りたい』という要望が多数ありました。キャリア開発のファーストステップに位置付けた『出光を知る』が、実際の社員のニーズとして存在することが裏付けられたのです」
こうして、社員が「出光を知る」機会を提供するための場としてジョブ・フェスティバル、通称「ジョブフェス」が開催されることとなった。第1回の開催は2023年7月。社員への意見募集からわずか2か月後のことだった。

より多くの社員を
巻き込むための
工夫を
積み重ねる。

異動希望者向けの「フェア」から、全社員対象の「フェスティバル」へ

実は、「ジョブフェス」の開催以前にも、「ジョブフェア」という企画があった。似通った名称を持つ両者だが、そのねらいは異なる。「当社には、公募された他部門のポジションに社員が自主的に応募する『キャリアチャレンジ制度』があり、『ジョブフェア』は、このキャリアチャレンジで公募を行う部門と応募希望の社員とのマッチングを行うことを目的に開催したものでした。一方の『ジョブフェス』は、多くの社員が『当社にはさまざまな仕事がある』という『出光を知る』きっかけを届けることを目的としています。社員が気軽に参加できるように “祭り感”を打ち出していこう、とのねらいで名称には“フェア”ではなく“フェスティバル”を掲げ、内容も一新しました」
イベントの方向性が定まった後は、全社の各部門に出展を打診。開催の意義を説いて回った。その結果、初年度は42部門が出展。「やはり、『自分たちの事業や仕事を知ってほしい』という想いはどの部門にも共通してあるのだと思います」

「気軽に」を合言葉に、企画をブラッシュアップ

こうして、構想から約2か月半で開催に漕ぎつけた初年度のジョブフェスには、約500名の社員が参加。一定の成功をおさめたが、課題も残った。「初年度は、部門ごとにブースを設け、出展者と来場者が机を挟んで対面する会場設計でした。これだと、話を聞いてみたいと意を決して来た人でなければ近寄れず、せっかく来場してもブースを遠巻きに眺めている社員も散見されました。さらに、『異動を検討しているのでは…』と同僚に見られている気がして来場しにくい、といった声も聞かれたことから、2024年開催の第2回は、誰でも気軽に会場へ足を運び会話ができる空間づくりを目指しました」
知恵を絞る人事部のメンバーにヒントを授けたのは、「社内副業制度」(後述)によってジョブフェスの運営に参加した他部門所属の社員たちだった。「副業メンバーのアイデアを参考に、第2回は、部門ブースのレイアウトを対面式ではなくパネル展示形式にしました。また、楽しみながらより多くの部門ブースを巡ってもらえるようにデジタル形式のスタンプラリーを実施したり、各部門が展示内容に創意工夫をしてもらえるように展示物の表彰イベントを行ったりもしました」。副業メンバーのバックグラウンドはさまざま。「年代も所属も異なるメンバーとの相乗効果により、人事部内に閉じていたのでは生み出し得ないアイデアをかたちにすることができました」

「出光を知る」。その軸を堅持しながら、社員に親しまれる催しに

第2回ジョブフェスの来場者数は約1,000人と、初回の2倍に。より幅広い年代・階層の社員が足を運んだ。「開催地である本社に来られない社員も参加できるよう、すべての部門ブースにインタビューしてリアルタイムで配信するなど、オンライン企画も取り入れました。また、本社以外の社員が会場に参加する場合は、国内の旅費を人事部が負担する措置をとり、全国の支店や事業拠点から約100名の社員が来場してくれました。」
イベント実施後のアンケートでは、「業務内容や仕事の魅力を発見できたか」という質問の満足度が、第1回の70%から第2回では80%まで伸長。「『出光を知る』ための催しとして、この指標はさらに高めていきたいですね。同時に、“祭り”として盛り上げることを意識しつつも、『出光を知る』という企画の軸がぶれることのないようにしたいと考えています」
こうしたジョブフェスの趣旨と開催意義は、全社に浸透しつつある。徳山事業所では2024年に、「徳山版ジョブフェス」を独自に開催した。地元採用者が多く、他拠点への異動が稀な製造系の事業所では、同じ事業所内でキャリアを形成する人財が大多数を占める。このため、「事業所内の仕事を知る」ための機会として企画された。

多角的な
アプローチで
自律的キャリア形成を
促し、支える。

柔軟な発想と挑戦マインドを醸成するために

社員の自律的キャリア形成を念頭においた施策は、ジョブフェスだけに留まらない。初回のジョブフェス開催と同じ2023年には、「社内副業」や「越境体験」といった取り組みも始動した。
社内副業は、「社員本人の成長に資する案件」を条件に、各部門が業務やプロジェクトの参加者を社内募集できる制度。応募者は所属長の事前承認を取り、募集部門が合格とすれば、誰でも参加できる。「本社部門プロジェクトメンバーや、ジョブフェスの企画・運営担当など、さまざまな案件で活用されています。本業との両立を可能にするため、副業の業務負荷は全体の20%未満、おおよそ週1回程度の活動量になるようルールを設けています」
一方の越境体験は社外での活動が対象で、「 週1出向」と「 週1先生」の2つのプログラムが存在する。前者は、長門湯本温泉エリアの活性化を支援する目的で、地元の企業に出光興産の社員が週1回出向するもの。2023年4月以降、出向者はデータ分析を活用した課題解決や業務改善にリモートワークで取り組んでいる。後者の週1先生は、連携先である千葉県の公立中学校に出向き、生徒を対象にした特別授業や、教職員の業務効率化支援を行うもの。「どちらのプログラムも、出向者と受け入れ先の満足度は双方ともに高いです。当社社員にとっては、異なる環境下での出会いや学びを通じ、新たな視野や視座を獲得する好機となっているようです。事業構造改革を推し進めていくには、国内外の多様なステークホルダーとの協働が不可欠。そうしたマインドを醸成することにもつながっていると思います」

社員の現在地と、未来をつなげる

2025年7月、第3回となるジョブフェスが開催される。「昨年度のジョブフェスで、社員が気軽に参加できる“祭り”は一定の形を作ることができました。一方で、ただの祭り騒ぎになってしまい、本来の開催目的を見失ってはいけない。そのため、今年は『出光を知る』をあらためて強調し、各部門の仕事内容を参加者により理解してもらえるように出展部門の仕事についてまとめた冊子を作り、会場で配布する予定です。詳細版はオンラインで閲覧できるようにします。また、海外拠点で働く社員へのインタビューをオンライン配信し、当社の海外事業を『知る』機会にしてもらうとともに、相対的に参加率の低い海外拠点の社員にも参加してもらうきっかけになればと考えています。」
変革をカタチにするための出光興産の歩みは、始まったばかり。社員の自律的キャリア形成を支援する人事施策も、今後より多くの社員を巻き込みながら展開されていくこととなる。「多くの社員にとって、自らのキャリアを『考え』、さらに『行動する』ステージは道半ばだと思います。昨年のジョブフェスでは、あるベテラン社員から『自分の若い時にもこうしたイベントがあれば良かった』との声をいただいたのが印象的でした。この催しが、社員が自身のキャリアを考え、さらに当社で活躍する姿を思い描くきっかけになれば嬉しく思います。その先に、会社が持続的に成長できる未来があるはずです」

ANOTHER STORY

人事部への異動が、
自身のキャリアビジョンを問い直すきっかけに。

第1回ジョブフェスの開催当時は、経営企画部に在籍していた鎭野。その後、未知の領域だった人事部に着任し、ある変化が。「人事部に異動してジョブフェスなどの企画に携わるなかで、明確なキャリアビジョンを持ち、その実現に向けて行動する社員と接する機会があり感銘を受けました。私自身はそれまで自身のキャリアパスについてあまり深く考えたことはなく、今後どのようなキャリアを描いていくべきか悩むこともありました。人事部に異動後、自分を知り、今後のキャリアを考えるヒントが得られればと国家資格キャリアコンサルタントを取得。自律的にスキルや経験を獲得することと同様に、予期しないできごとをも前向きに捉え、自身の成長につなげようとする姿勢が大切であるとの学びを得ました」。他部署の仕事を知り、考え、行動する。その過程を自ら経験した鎭野だからこそ、人事部の仕事を通じて社員に還元できるものもまた大きい。

※2025年7月時点