実体のない製品が受け入れられるのか。現場に立ち続けてきたからこその不安と使命感
—特約販売店担当として燃料油のセールスをサポートする立場から、CNX担当への異動。どのように受け止めましたか?—
驚きました。入社以来、各支店で特約販売店を一貫して担当してきた私が、本社で、しかもほとんど触れたことのないCNXの推進担当になるとは思っていませんでした。特約販売店を担当していると燃料の安定供給に使命を感じることが多く、「カーボンニュートラルの方向に進んでいくんだな」とは見ていましたが、自分が担当することになるとは思っていなかったというのが本音です。新しいチャレンジができることに大きな期待を感じながらも、大きなプレッシャーも感じ、自分に何ができるだろうかという不安もありました。ただ、それまでずっと現場に近い立場で仕事をしてきたこともあり、そこで学んだことや築いてきた人脈を生かせるのではないかとは考えました。
—カーボンクレジット付き燃料(のちのICOF)の開発はどのように始まったのでしょうか?—
カーボンクレジットによるオフセットは海外で活用が広まってきており、グループ会社のIdemitsu International(Asia)(「出光アジア」)から提案を受けたのがきっかけとなり、検討を開始しました。カーボンクレジット付き燃料はガソリンなど普通の燃料にカーボンクレジットという権利が付与されるものです。バイオ燃料のように、実際の製品に品質の違いがあるわけではありません。自分が理解できないものを人に売るわけにはいきませんから、まずは「カーボンクレジットとは何か」という基礎から理解を深めることに注力しました。
カーボンクレジットの取り扱いに長けた出光アジアの担当者にはオンラインで相談をしたり、困ったことがあるたびにチャットで質問をしながら開発を進めてきました。社内には後押ししてくれる意見が多かったのも幸いでしたね。定例会ではアイデアや進捗を報告し、何かあればすぐにプロジェクトメンバーと相談しながら進めていったので、常に誰かに相談し議論しているような状態でした。
カーボンクレジット付きの燃料油は権利を付与するものなので、ある意味、机上で全てが完結してしまう製品です。このような製品が受け入れられるのか、最初は半信半疑でした。特約販売店を担当し、実在する燃料油の安定供給を常に考えてきたからこそ、そう感じたのかもしれません。しかし、これまでと同じように、現場の声を聞いて開発を進めてきたので、あるタイミングから「これは信頼できる」と納得が深まり、製品化のアクセルを踏み込むことができました。
課題を洗い出し、関係者を巻き込みプロジェクトを推進
これまでの仕事との一番の違いは、多くの関係者を巻き込んで進める必要があることです。たとえば、「クレジットカードを使えば、SSで給油いただく燃料にもカーボンクレジットを付与できるのでは」と考えたときには、社内のシステム開発担当者や、グループのクレジット会社に相談をする必要があります。最初は「こういうことって、できますか?」といった立ち話のような形から入り、だんだん具体的な話に進めていきました。普段、燃料油に携わっていない人たちにその仕組みを理解してもらい、そのうえで実現したいことを明確に伝えなくてはならないので、とても慎重に進めてきました。
ICOFは理論上、どの油種にも適用することができます。出光興産が取り扱っている燃料や供給方法は非常に多岐にわたりますが、それらひとつひとつに対して、ICOFを実装するかどうかを検討し、実装する場合は課題を洗い出して解決していく必要があります。その検討も大変ですが、自分のアイデアが製品化されていく実感もあり、やりがいも感じました。