柔軟な発想と不屈の情熱で
脱炭素に向けた現実的な選択肢
カーボンオフセット燃料を
社会に届ける

  • 販売企画部企画課
    H. WATANABE

脱炭素社会の実現は、もはや避けて通れない世界共通の課題。次世代エネルギーの開発が進められているが、すべての業種・業態ですぐに実装できるわけではない。どうしても避けられないCO₂の排出が残ってしまうのが現実だ。こうした状況のなか、「カーボンクレジット」を活用することで、燃料油の使用時に排出されるCO₂をオフセット(相殺)する動きが注目されている。

出光興産は、燃料にカーボンクレジットを組み合わせることで、従来の燃料を使いながらもCO₂排出をオフセットできる「出光カーボンオフセットfuel (ICOF)」を開発、上市した。業界初の試みとなった本製品は、どのような試行錯誤を経て製品化に至ったのか、販売企画部の担当者に「切り拓く」をテーマにインタビューを行った。

INTERVIEW POINT

2014年に入社後、1年間にわたり製油所、サービスステーション、外販などの実習を経験。2015年から特約販売店※担当となり、中国地方・関東・関西でパートナー企業である特約販売店の業務推進サポートを行う。2023年に販売部企画課に配属され、CNX(カーボンニュートラルトランスフォーメーション)担当に。現在はICOFを含むCNX関連商材の商品設計や販売促進企画などを担当。
※ 出光興産と特約販売店契約を結んだパートナー企業。出光興産系列のサービスステーションを運営するなど、出光興産の提供する製品やサービスを取り扱うことができる。

カーボンニュートラルの
推進担当者として
課された使命と責任に
立ち向かう

実体のない製品が受け入れられるのか。現場に立ち続けてきたからこその不安と使命感

—特約販売店担当として燃料油のセールスをサポートする立場から、CNX担当への異動。どのように受け止めましたか?—

驚きました。入社以来、各支店で特約販売店を一貫して担当してきた私が、本社で、しかもほとんど触れたことのないCNXの推進担当になるとは思っていませんでした。特約販売店を担当していると燃料の安定供給に使命を感じることが多く、「カーボンニュートラルの方向に進んでいくんだな」とは見ていましたが、自分が担当することになるとは思っていなかったというのが本音です。新しいチャレンジができることに大きな期待を感じながらも、大きなプレッシャーも感じ、自分に何ができるだろうかという不安もありました。ただ、それまでずっと現場に近い立場で仕事をしてきたこともあり、そこで学んだことや築いてきた人脈を生かせるのではないかとは考えました。

—カーボンクレジット付き燃料(のちのICOF)の開発はどのように始まったのでしょうか?—

カーボンクレジットによるオフセットは海外で活用が広まってきており、グループ会社のIdemitsu International(Asia)(「出光アジア」)から提案を受けたのがきっかけとなり、検討を開始しました。カーボンクレジット付き燃料はガソリンなど普通の燃料にカーボンクレジットという権利が付与されるものです。バイオ燃料のように、実際の製品に品質の違いがあるわけではありません。自分が理解できないものを人に売るわけにはいきませんから、まずは「カーボンクレジットとは何か」という基礎から理解を深めることに注力しました。
カーボンクレジットの取り扱いに長けた出光アジアの担当者にはオンラインで相談をしたり、困ったことがあるたびにチャットで質問をしながら開発を進めてきました。社内には後押ししてくれる意見が多かったのも幸いでしたね。定例会ではアイデアや進捗を報告し、何かあればすぐにプロジェクトメンバーと相談しながら進めていったので、常に誰かに相談し議論しているような状態でした。
カーボンクレジット付きの燃料油は権利を付与するものなので、ある意味、机上で全てが完結してしまう製品です。このような製品が受け入れられるのか、最初は半信半疑でした。特約販売店を担当し、実在する燃料油の安定供給を常に考えてきたからこそ、そう感じたのかもしれません。しかし、これまでと同じように、現場の声を聞いて開発を進めてきたので、あるタイミングから「これは信頼できる」と納得が深まり、製品化のアクセルを踏み込むことができました。

課題を洗い出し、関係者を巻き込みプロジェクトを推進

これまでの仕事との一番の違いは、多くの関係者を巻き込んで進める必要があることです。たとえば、「クレジットカードを使えば、SSで給油いただく燃料にもカーボンクレジットを付与できるのでは」と考えたときには、社内のシステム開発担当者や、グループのクレジット会社に相談をする必要があります。最初は「こういうことって、できますか?」といった立ち話のような形から入り、だんだん具体的な話に進めていきました。普段、燃料油に携わっていない人たちにその仕組みを理解してもらい、そのうえで実現したいことを明確に伝えなくてはならないので、とても慎重に進めてきました。
ICOFは理論上、どの油種にも適用することができます。出光興産が取り扱っている燃料や供給方法は非常に多岐にわたりますが、それらひとつひとつに対して、ICOFを実装するかどうかを検討し、実装する場合は課題を洗い出して解決していく必要があります。その検討も大変ですが、自分のアイデアが製品化されていく実感もあり、やりがいも感じました。

キラーフレーズは持たない
特約販売店の生の声と
実例が共感を呼び
全国展開に至る

CO₂削減の“すき間”を埋める最後の一手となる製品開発

出光興産は、特約販売店を通して製品を販売するのが基本的な商習慣です。つまり、特約販売店が納得して、自信をもって販売できるような製品を開発しなければいけません。言い換えると、いかに世に受け入れられる製品を開発できるか、ということだと思っています。ICOFは、実際の製品に品質の違いがあるわけではありませんので、特約販売店の声を聞き、ディスカッションを重ね、製品化を進めてきました。特に、大阪で担当していた特約販売店にはトライアル運用に協力してもらい、半年間にわたる試行錯誤を繰り返し、在庫管理の仕方や供給証明書の発行など細部の設計にも多くのアドバイスをもらいました。その成果をもとに、ようやく全国展開へとつなげることができたのです。

—特約販売店の声を生かした製品なのですね—

そうですね。2025年5月に販売を開始したクレジットカードを利用したICOF購入システムは、既存のICOFを提案している中で「社有車にICOFを使いたい」という相談を何度も受けたことが開発のきっかけとなりました。製品リリース時には「普段通り、サービスステーションでの給油で環境に配慮した燃料を使用できるのはありがたい」というお声をいただきました。現場のニーズに応える製品を世に送り出せたことは、非常に嬉しく思いました。

ニーズに合わせた提案で、今できる最善を届ける

—ICOFを販売するにあたって、どのような難しさがありましたか?—

ICOFの販売に、キラーフレーズのようなものはありません。現場の声を吸い上げ、作り上げてきた製品ですので、実際にICOFを導入してくださった事例を紹介して納得感を持っていただくことを大切にしています。出光興産の強みはICOFをはじめ、バイオ重油やバイオディーゼルなど、多様な選択肢を持っていることですので、ICOF単体を売るというよりはニーズに合わせた提案をしながら、必要とされているところに着実に届けるようにしています。
今後、技術の進歩によって、CO₂の排出量が本当にゼロに近づく時代が来るかもしれません。ただ、現時点では「CO₂削減に取り組みたいが、すぐには難しい」というケースが多くあります。たとえば一つの例として、観光地の電車やロープウェイ等を運営するお客さまは、再エネ電力の導入によりCO₂排出実質ゼロを推進してきましたが、A重油で動く観光船だけは対策ができず悩んでおられました。特約販売店を通じてICOFを提案して採用いただき、「大きな設備投資なしで、交通事業におけるカーボンニュートラルに向けた対策ができた」との声をいただきました。
また、代替の燃料がまだ存在しない燃料もあります。たとえば灯油です。灯油を使っている企業は、これまでCO₂削減に取り組む手段がありませんでした。しかし、ICOFなら灯油を使い続けながらCO₂削減に取り組むことができますし、実際にそういった多くの企業にICOFを導入していただいています。ICOFはCO₂削減の主役になる製品ではないかもしれませんが、次世代エネルギーの社会実装が進んでもなお削減しきれないCO₂排出をオフセットする最後の一手になる製品だと考えています。言い換えると、CO₂削減の“すき間を埋められる現実解”という重要な役割を果たしており、それは今後も必要とされるものだと考えています。

社会を支える責任と
未来の地球環境を守る責任
燃料を供給する側「だからこそ」
次世代燃料の可能性を探る

現実に向きあい、未来を「切り拓く」出光興産の責任

—CNX担当として、どのような想いで仕事に取り組んでいますか?—

脱炭素社会の実現に向けて、燃料供給会社である出光興産の果たすべき役割は非常に大きいと考えています。当社が排出するCO₂だけでなく、当社が供給する燃料を使うことで排出されるCO₂の方が圧倒的に多いのが、私たちの業界の特徴です。言い換えると、私たちが供給する製品が社会を支える一方、使っていただくことでCO₂を排出させてしまう、ある種悩みの種にもなってしまうという面があります。だからこそ、その現実に向き合い、何らかの解決策を提供していくことが、出光興産の使命であり責任だと考えています。
出光興産の強みは、全国に特約販売店というパートナー企業が存在していることです。そのネットワークを通じて、さまざまな形でCO₂削減の取り組みを実装できると考えています。新しい取り組みや製品開発となると、投資コストもかかりますし、本当に買ってもらえるのかという不安も出てきます。それでも、脱炭素社会の実現に向けて、恐れることなく挑戦していく姿勢が求められていると、私は思っています。変化の激しい時代だからこそ、柔軟な発想と不屈の精神をもって、次世代のエネルギーの可能性を切り拓いていく必要があるのではないでしょうか。

—柔軟な発想と不屈の精神こそが、CNX担当には求められるのかもしれませんね—

そうですね…と、自信をもって言えるようになりたいところです。柔軟な発想と不屈の精神がないと、新しい道を切り拓いていくことはできません。そうした力をもっと鍛えて、この先、自分の、そして出光興産の強みと言えるようにしていきたいです。燃料油が人々の生活を支えてきた歴史とその価値を尊重しながら、新しいエネルギーへの挑戦を恐れず、持続可能な社会への橋渡しを担っていけたらと考えています。

  • ICOFの説明についてはこちらをご覧ください。

ANOTHER STORY

サービスステーションでのアルバイトがきっかけで出光興産に

大学時代、渡辺は出光興産のサービスステーションでアルバイトをしていたという。それがきっかけとなり、入社を決めた。

「応募したときは、正直言って、アルバイトの延長のような感覚でした。実際に入社すると任される業務範囲やその責任はそれまでとは全く違い苦労することも多かったですが、アルバイトでの現場経験は今日までずっと役立っています。特約販売店担当として広島で2年、東京で4年、大阪で2年従事し、今は入社当時には全く想像できなかった業務を担当し、多くの人に支えられながら、充実感を味わっています。エネルギーの在り方が変わる今だからこそ、未来を見据え、目の前のひとつひとつの課題に全力で向き合っていきたいです。」
※2025年7月時点