SAFの
供給体制を構築し
脱炭素社会の
実現につなげる。

  • CNX戦略本部 CNX戦略室
    バイオ・合成燃料事業課
    K.TOYOTSU

地球規模で2050年問題に取り組む今、カーボンニュートラルの実現は必達の目標だ。出光興産は、「SAF(持続可能な航空燃料)」※1の国内供給に向けた取り組みを行っている。

従来の石油・石油化学事業の知見・人財・アセットを活かし、2030年までに50万kL/年の国内供給を目指す。SAFという新たな分野で安定的な供給体制の構築に臨む事業開発の担当者に「つなげる」をテーマにインタビューを行った。

  • Sustainable Aviation Fuelの略。

INTERVIEW POINT

2006年入社、昭和四日市石油(株)四日市製油所に配属。2012年製造技術部に異動、グループ製油所の予算管理、中期設備投資計画策定、省エネ推進、他社との協業等の業務を担当。2020年Shell Global Solutions(オランダ)へ出向、プロセスエンジニアとして顧客への技術サービス提供業務に従事。2022年製造技術部に帰任。2023年CNX戦略室へ異動。主に徳山HEFA-SAFプロジェクト、千葉ATJ-SAFプロジェクトに代表されるSAF事業の構築・推進ほか担当。

多様な経験と視点を
掛け合わせ、
プロジェクトの
推進力を加速させる。

部門を超えて連携しながらカーボンニュートラルの実現に取り組む

航空産業における国際機関が「2050年CO₂排出実質ゼロ」を目標に掲げたことを受け、日本は2030年までに国内航空会社のジェット燃料の一部をSAFに置き換えることを目指している。
出光興産は現在、徳山事業所でのHEFA※2-SAF製造、千葉事業所でのATJ※3-SAF製造、2つのプロジェクトを中心としたSAFの国内供給体制の構築に取り組んでいる。CNX※4戦略本部は、SAF、水素、アンモニア、合成燃料など、カーボンニュートラル実現に不可欠な『一歩先のエネルギー』の社会実装に向けて設置された部門横断の組織だ。
「私の担当領域は、SAF製造プロジェクトを推進する上で共通認識となる基本思想や評価軸の設定、大きな投資額に対する政府の支援制度の活用方針の策定、社内での合意形成・決裁プロセスの主導など。複数の事業部門が関わり合うことで、お互いのリソースを活用したり、知見を共有したりして、各プロジェクトの推進力を高めています。他部門からの参画もあり、社内のさまざまな部門の連携を促す戦略本部といえる体制になっています」

1分でわかる「SAFが創る未来の空」

  • HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)は使用済み食用油などの油脂を水素化処理してSAFを製造する技術。
  • ATJ(Alcohol to Jet)はエタノールなどからSAFを製造する技術。
  • Carbon Neutral Transformationの略。

自身の職務経験を活かしてプロジェクト推進に昇華させる

「入社当時は製油所勤務でした。製造現場は、安全と安定供給を第一に装置を動かし、製品の製造にあたります。現在所属しているCNX戦略本部内のCNX戦略室では、社内の各部門が『一歩先のエネルギー』の原料調達から製造・販売まで、それぞれ役割と責任を持ってプロジェクトを進めています。私自身、装置を設計する社内の部門と話すこともあれば、製品を提供する社外の相手先と話す機会もあります。脱炭素社会の実現に向けて、顧客のニーズから設備設計の検討状況までを把握し、顧客および当社にとってベストなプロジェクトの進め方や方向性を示すことが求められます」

製油所、製造技術部での勤務を経て、2020年にはオランダにあるシェルグループの技術センターへ出向。プロセスエンジニアとして務めるなかで、世界に先んじた欧米のSAFプロジェクトが進行する様を目の当たりにした。当時の日本では、まだ調査段階で具体的な動きは見られなかった。
「当社では社内プロジェクトが立ち上がる前段階でしたので、ヨーロッパでは時間軸が先行していると感じました。同時に、そのうち日本でもやらなければならない時が来る、という予感はありました」

脱炭素社会への
ロードマップを描き
2030年と
その先を目指す。

出光興産がSAFプロジェクトに取り組む意義とは

「社会の大きな流れの中で、CO₂の排出量を減らさなければならない。一方で、社会の発展も不可欠です。その両立を果たすことができるSAFや合成燃料などの次世代エネルギーが着目されているわけですが、大量のエネルギーを供給してきた当社だからこそ、社会実装できると確信しています」
SAFプロジェクトは、社会実装に最も近いところにあると期待されている。
「カーボンニュートラル社会の実現を牽引するという覚悟をもって、当社は事業を行っています。生活に必要な燃料や素材を供給する社会インフラとして、当社は環境負荷を下げた製品やサービスを世の中に出していかなくてはならない。社会のニーズを受けて、そのニーズに見合った形に我々も変わっていく必要があると思っています」

カーボンニュートラル達成のために活かせる強み

「当社は2050年に自社操業に伴う排出量のカーボンニュートラル達成を目標としています。加えて、脱炭素化商材やスキームの提供を通して世の中のカーボンニュートラル達成にも貢献します。その通過点として、『2030年までに年間50万kLの国内SAF供給体制を構築する』という目標の達成があり、重要施策としてSAFプロジェクトの推進に取り組んでいるわけです」
日本国内で長きにわたってエネルギーインフラを支えてきた出光興産は、国内のSAF製造・供給事業を牽引する企業の一つだと目されている。
「当社はすでに、ジェット燃料の製造・輸送・販売の供給網を有しています。SAFに関して、原料調達・製造の部分は新たに構築する必要があるものの、輸送・販売の供給網には既存のネットワークを活用できる点が大きな強みです。また、ニートSAF※5は単体では製品にはならず、化石由来のジェット燃料と混合することで製品SAF化する必要があります。製品SAFの品質管理・品質保証においても化石由来のジェット燃料を製造・販売している当社の知見を活かすことが可能だと考えています」

  • バイオマス原料等をもとに製造されたジェット燃料。

新たなエネルギーを導入するための挑戦

SAFと従来の化石燃料では、原料や製造工程に大きな違いがある。そのためにどのような苦労や新しい課題があるのだろうか。
「石油精製の工程は、中東などで産出された原油を調達して精製し、製品化するというのが大きな流れです。しかしSAFの場合、環境負荷を下げる、という点を常に考慮しなくてはなりません。原料は、廃食油や動物性油脂など従来廃棄されていた材料を再活用する。それだけでなく原料が出来上がるまでの工程、製油所・事業所への輸送、製造過程、顧客への配送まで、一連のフロー全体でCO₂排出量がカウントされるのです。コストだけでなく投入エネルギーについても配慮する必要があります」

地球規模の課題に取り組むプロジェクトに携わることを個人的にどのように感じているのか。

「自分の仕事が何に役立つかクリアになっていることで能動的に仕事ができますし、やりがいにもつながると思います。昨今では一般的なニュースでもSAFが取り上げられていますし、社会的なニーズが高まっていることを感じます。先日、小学生の娘が解いていた文章問題に脱炭素への移行や再生可能エネルギーについての記述がありました。自身の仕事が地球規模の課題に関わり、次世代に繋がる取り組みであることを実感しました」

ジェット燃料の
新時代に向けて
SAFの供給を
確かなものにする。

多様な選択肢を持ちながら、SAF供給体制を実現

「千葉と徳山のSAF製造プロジェクトを推進する基盤として、当社の製造拠点を活用し脱炭素・低炭素エネルギーの供給拠点へと転換していく『CNXセンター化構想』があります。この構想のもと、千葉・徳山という別々の拠点で、異なる原料・技術によるSAF製造に向けて並行して取り組んでいます。他の拠点でも水素やアンモニア、合成燃料などの事業化に向けた検討を進めており、各地域における将来のニーズを見据えた多様な選択肢を持っていることが当社らしさの一つだと思います。また、国内だけでなく、海外プロジェクトへの出資やオフテイクなど、様々な形で必要なSAFの供給体制を整えていくことになるでしょう。国内に限定せず、海外のプロジェクトも選択肢に含め、どういう形で供給体制を整えるのが望ましいかを探ります。環境負荷の観点、そしてコストの観点も含めて総合的に考えて、次の施策を判断していかないといけない。ですからまだこの道のりは長いと思っています」

その先の未来を見据えて、一つ一つの結果を「つなげる」

「今の仕事は、出光興産の将来にわたるSAF事業の入り口を作っているところです。その道筋として、まずは2030年の目標として掲げている、国内50万kL/年の供給体制の構築を目指します。そして、2030年をひとつのチェックポイントとし、その先の2040年、カーボンニュートラルを掲げる2050年に向けたSAF供給体制の実現に挑戦します。これらの実現を先行事例として、出光興産のSAF事業を未来に『つなげる』ことが使命だと考えます」

ANOTHER STORY

異国の地に出向して初めて気づいた
他社にはない出光興産の企業文化。

2020年、豊津はオランダのShell Global Solution社に1人出向となった。「出光興産とは違う会社ですから、職場の雰囲気もカルチャーもまるで異なっていました」そこであらためて出光興産の良さに気づくことができたと言う。「海外の企業に多い働き方は、個人の役割分担が明確に決まっていて、仕事をするのは各々の範囲内だけというもの。私にとっては同僚の仕事も他人事にせず、自分の仕事の一部と考えて連携するのが当たり前でした。お互いに協力しあって仕事に取り組むことで、うまくいく場合が多いので、これが我が社の良いところだな、と再認識しました」

※2024年8月時点