「人が中心の経営」
創業の精神を
守りながら、
未来を創り上げる。

  • 人事部DE&I推進課(兼)企画課
    T.SUGIUCHI
  • 人事部採用教育課
    R.IWAO
  • 人事部人事サポート課
    Y.NISHIYAMA

出光興産は、2050年のカーボンニュートラル・循環型社会の実現に向けて、事業ポートフォリオの転換を推進している。2023~2025年度の中期経営計画では、事業構造改革投資と人的資本投資を両輪に据えており、人びとの注目を集めた。
出光興産は創業以来、一貫して「人が中心の経営」を掲げてきた。人的資本経営が注目される今、出光興産は「DE&Iの深化」「個々人の能力・個性の発揮」「企業理念・ビジョンの体現」を柱に人財戦略を推し進めている。
多様な人財が個性を発揮できる環境を守り、拡充するために奮闘する、人事部の担当者3名に「守る」をテーマにインタビューを行った。

INTERVIEW POINT

T.SUGIUCHI
2012年入社、機能化学品部機能材料研究所に配属。研究開発、技術営業、研究企画担当を経て2021年機能化学品部新規事業戦略室へ異動。2022年同部事業企画課。2024年7月から人事部DE&I推進課(兼)企画課にてDE&I推進、人事企画関連業務を担当。

R.IWAO
2013年入社、千葉事業所ポリエチレン課に配属。現場での交替勤務を経て、2年目から生産技術センター、技術課などで既存装置の技術検討に従事。キャリアチャレンジ制度に応募し、2023年4月から人事部採用教育課。新卒採用、採用戦略の策定、学生対象イベントの企画・運営を担当。

Y.NISHIYAMA
2023年入社、人事部人事サポート課配属。前職で法務業務を20年、人事・総務を5年経験してきた経歴を生かして、ハラスメント対応を中心に労務全般を担当。

社会の変化に呼応し、
多様性を認めながら
一人ひとりが
個性を発揮する。

多様な人財が個性を発揮して活躍する集団を目指して

—創業以来最大と言っても過言ではないポートフォリオ転換に直面する今、「変革をカタチ」にするのは「人財」である— さまざまな取り組みから、出光興産が人財戦略を経営の根幹に据えている様子が伺い知れる。とりわけ、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン:多様性、公正性、包摂性)の推進や個々人の能力・個性の発揮の支援を通じて、不透明な状況下でも失敗を恐れずに挑戦し続ける人財集団を目指しているという。

T.SUGIUCHI 「性別や所属、立場に関係なく意見を交わす風土が徐々に育まれてきたと実感しています。例えば、数年前に導入した全社員対象のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)研修では、参加者から『ハッとした』『新たな視点を得ることができた』『自分の無意識の偏見に気づくことができた』などの反響が多数寄せられました。この研修を通じて、また回数を重ねるごとに、知らず知らずのうちに持っていた先入観や偏見に気づき、多様性を受け入れる風土が確実に醸成されていると感じます。また、社長をはじめとする経営層との対話の場であるタウンホールミーティング※1でも自由闊達な意見交換が行われ、立場や性別にとらわれることなく、さまざまな価値観を受け入れられる文化がさらに浸透していると実感しています。」

Y.NISHIYAMA 「出光興産に入社して、多様性を受け入れる風土づくりが進んできていること、自身の価値観・考えを大事にする人が想像以上に多いことに驚きました。また、制度利用の観点でお話しすると、育児休暇明けの社員には、時短勤務を選択する人もいれば、フルタイムで復職する人もいます。自分のワーク、プライベートのキャリアを自律的に選べている、ということですね。復職後の働き方について『自分の意思で選択できる』『周りの人がそれをサポートする風土・体制がある』というのがとても大きいと思います。人事部としては、社内セミナーを開催して育児関連制度の利用方法や先輩社員の事例を紹介したり、必要に応じて相談に乗ったりする形で伴走しています。」

R.IWAO 「販売業務に就いていた40代の社員で、世代別キャリア研修を受けて『やりたい仕事を自分で決めてもいいんだ』と気づいて一念発起し、自費でキャリアコンサルタントの資格を取得した人がいます。このエネルギッシュな行動力に驚きました。その後、その人はキャリアチャレンジ制度※2でキャリアデザイン部へ異動、今は販売の経験で得た対話力を生かして、社員の自律的キャリアを支援する業務で活き活きと活躍しています。」
そのように語る岩尾も、キャリアチャレンジ制度を利用して製造技術部門から人事部に異動した一人だ。

個々人が能力・個性を発揮するためには、多様性を受け入れる風土に加え、社員自身による自律的なキャリア形成も必要となる。社員たちのキャリアプランを会社が後押ししている点も、出光興産における人財育成の大きな特色だ。2024年4月にはキャリアデザイン部を創設し、全世代を対象とした自律的ライフキャリアプランの策定支援、多様なキャリアパスの提案、スキル開発メニューの提供、越境学習の機会提供およびキャリアコンサルティングを行う体制を整えている。

  • 1. 社長をはじめとする経営層と従業員の直接対話の場。経営に対する提言、疑問を投げかけることができる。半期に一度開催
  • 2. 社員がキャリアプランを描き、自発的に異動を希望できる社内公募制度

女性たちの成長と
活躍をきっかけに
ジェンダーレスな
職場環境を目指す。

性別にとらわれずに、個性を発揮して働くことができる職場づくり

出光興産は、DE&I推進の重点施策の一つとして、さまざまな場面での女性活躍を推進。ジェンダーにかかわらず全ての社員が活き活きと働き、さらなる成長・活躍ができる職場づくりに取り組んでいる。

R.IWAO 「出光興産は石油業界ということから、新卒採用時に女性の応募数が少ないのが現状です。そもそも日本国内で理系の女性が少ないこともあり、今は応募者の中で女性の人数を増やすことに注力しています。さらに、理系女性向けの就職セミナーやイベント、説明会などで『当社には女性が活躍する場がある』ということをしっかり伝えています。それでも『女性としてキャリアのイメージが描けない』『女性の先輩の話が聞きたい』という声はまだ耳にしますね。」

T.SUGIUCHI 「女性の活躍を支援する施策の一環として、『メンタリング制度※3』があります。女性の先輩がいないから不安、将来のキャリアをどう描けばいいかわからない、という声を受けて、担当職層の女性社員と部室長クラスの役職者(管理職)による社内メンタリングや、女性役職者と他企業の経営層がペアになる「クロスメンタリング」などを実施しています。「クロスメンタリング」は、メンティである女性役職者だけでなく、メンター自身の成長にも重点を置いたプログラムになっているので、双方から高い評価を得ているのは非常に嬉しく思います。」

Y.NISHIYAMA 「私はメンティ(支援・助言を受ける立場)として2024年のクロスメンタリングに参加しました。出光に入社したばかりで、業務上の明確な悩みはまだ抱いていませんでしたが、考え方や視座を段階的に引き上げていただいて、とてもためになりました。通常は接することができないような他社の上位職の方と密にお話し、アドバイスを受けるという貴重な機会を得ることができました。さらに、他社の女性役職者の方々と横のつながりができたことも大きな収穫です。このネットワークを、自分も含めた女性のキャリアプランづくりに役立てていきたいと考えています。」

クロスメンタリングは、出光興産が他企業と手を結び、女性役職者の自律的キャリア形成やジェンダーギャップの解消を目的として2023年、2024年に開催。企業を横断した取り組みは社外からも注目されている。

  • 3. メンター(支援者・助言者)とメンティ(支援・助言を受ける立場)が対話を重ねることでメンティの成長を支援したり、相手に気づきを与えたりする人財育成の手法

あらゆる立場の人たちがより働きやすい企業へ

出光興産では、女性の活躍推進のみならず、すべての社員に対して仕事と生活を両立できる就業環境の整備を進めている。

R.IWAO 「私は、少数派の女性がまず意見を言うことによって、気づかれにくいことに焦点が当たるのではないかと考えています。例えば、身長が低い人は高いところの物を取るための道具が必要だとか、筋力が弱い人は現場で人一倍負荷が掛かってしまうとか。女性というワードを一つのきっかけにすることによって、多数派、少数派を問わず誰もが働きやすい企業にしていくことができるのではないでしょうか。」

Y.NISHIYAMA 「今後は介護に関わる人が増えてくるでしょう。育児に対する理解は浸透してきていると感じますが、介護で休みを取る社員のバックアップや、組織をどう支えていくかは各部門と一緒に考えていくことなのかなと思っています。制度はもちろん必要ですが、周りの意識も変えていかなくてはなりません。介護でベテラン層が抜けた時に、若手や中堅が主体となって組織を支えることになる。ベテランが組織を離れても大丈夫な体制を整えていくことが課題になると思います。」

出光興産は、コアタイムを設けないフレックス勤務制度を導入している。さらに、週あたりの勤務時間の配分を各自で調整できるため、育児や介護、自己研鑽のために「中抜け」をしたり、曜日によって勤務時間に軽重をつけたりすることもできる。あらゆる立場の人が個性を発揮して働ける環境が整っている。

先が見えない未来に
臆することなく
個性を発揮できる
人財が明日を拓く

出光興産の未来のために、これから果たすべきミッションとは

R.IWAO 「採用の場合、どうしても採用人数といった目標値の達成に目が行きがちですが、学生には、内定を取ることに必死になって、自分を偽らないでほしいと思っているんです。出光興産を宣伝するのではなく、『こういう会社です。他社としっかり比較してくださいね』という気持ちを持っています。だからこそ、学生から『出光興産なら、自分らしく働けると思いました』と言ってもらえたときは、本当にうれしかったですね。応募者の方には、これからも自分に合う会社を選ぶための判断材料を、しっかり提供していきたいです。」

T.SUGIUCHI 「2050年の事業ポートフォリオの転換、そしてカーボンニュートラルと循環型社会の実現に向けては、KPI(重要業績評価指標)などの数値だけでは測れない目標も重要です。今目指しているのは、一人ひとりが持つ本来の才能や個性を最大限発揮できるようにすること。その実現に向けて、個々の力を集結し、新たな価値を創造できる体制を整えることが急務だと考えています。将来的には所属や年齢、性別などに関係なく、マイノリティやマジョリティという概念すら不要になることを願っています。良い悪いではなく、あらゆる個性や価値観、意見があっていい。健全に個性がぶつかり合う職場を作ることが、私たちのミッションです。」

人財戦略を考えるにあたりベースとなる価値観は、多様な人財が個性を発揮し、仕事を通じて成長することだ。出光興産は「どのような未来が来ても、しなやかに、逞しく、未来を切り拓く人財集団」の実現を目指している。

2050年のビジョン実現に向けて、出光興産には「守る」べきものがある

事業構造改革の過渡期にある今、予測できない点も多く、最適解は見えにくい。その状況下で挑戦を続ける出光興産が「守る」ものとは何か。

R.IWAO 「各ビジョンの達成に向けて当社の文化・風土に共感できるだけでなく、多様性に富んだ人財に当社を志望してもらうために、他社や大学、団体と共創していきたいと考えています。志望してもらうためには、社内を魅力あふれる場所にする必要があるので、従業員の成長とやりがいを最大化する取り組みや施策を守り続けていきたいと考えています。」

Y.NISHIYAMA 「出光興産に入社後、会社の歴史や風土など、『出光らしさ』を学ぶ機会が多々ありました。みなさんとても面倒見が良く、それも企業風土の一つだと感じます。さらに社員の間には『育成と成長』を大切にする姿勢が浸透しています。人事部の立場としても、教育や育成を投資と捉える土壌があることは大変ありがたいことだと思います。企業理念や創業者の意思を伝統的に受け継ぐだけでなく、こうした『出光らしさ』を時代に合わせてカスタマイズしながら次の世代に伝え、今後も守り続けたいと思います。」

T.SUGIUCHI 「守るべきものは、100年以上続く経営の原点であり、企業理念の根幹でもある『人が中心の経営』だと考えています。もちろん、形や言葉は時代とともに変化させていく必要がありますが、この不変の価値観は今後も守り抜き、次の100年を全員で創り上げていきたいと思っています。」

ANOTHER STORY

2年連続で「なでしこ銘柄」に選定されるも、
『道半ば、この動きを止めてはいけない』と未来を見つめる

性別や年齢、役職などにとらわれることなく、自由闊達な意見交換ができる風土が醸成されてきたが、まだ、道半ばだと言う。「数字に表れるだけでなく、一人ひとりの感覚にまで入り込まなくてはならない」と口を揃える。出光興産は、2050年のカーボンニュートラル・循環型社会の実現に向けた明確な目標を打ち出している。「カーボンニュートラルは個社で立ち向かえるほど容易な目標ではなく、他社との競争・共創が不可欠です。不透明な中においても個性を発揮して、挑戦し続けられる人財が求められています」

※2025年1月時点