



2025.01.09
食べられない植物「ポンガミア」の実が、航空業界における脱炭素化の鍵に!?
- 一歩先のエネルギー

航空業界の脱炭素手段の一つである、SAF(持続可能な航空燃料)。その実用化に大きな期待が寄せられていますが、実は、原料の確保において大きな課題もあります。
出光興産におけるSAFの原料確保プロジェクト、その一員であるCNX戦略室の花房(はなふさ)はこう話します。
「SAFの原料には天ぷら油など使用済みの食用油、大豆油や菜種油やパーム油などの植物油がありますが、食用など他の用途にも利用されるものもあるため、SAFの原料向けとして確保できるボリュームには限りがあります。さらに、世界的にSAF製造への取り組みが進むなかで、原料の需要が高まっており、将来的に原料調達がより困難になること、また原料の価格が大幅に上昇することも考えられます」
「SAFの原料には天ぷら油など使用済みの食用油、大豆油や菜種油やパーム油などの植物油がありますが、食用など他の用途にも利用されるものもあるため、SAFの原料向けとして確保できるボリュームには限りがあります。さらに、世界的にSAF製造への取り組みが進むなかで、原料の需要が高まっており、将来的に原料調達がより困難になること、また原料の価格が大幅に上昇することも考えられます」
そこで出光興産は、将来にわたってSAFを安定供給するために、「食べられない植物の実」からSAFを製造する取り組みを開始します。

SAFの原料確保プロジェクトに携わる花房
食べられないけれど「1粒で何度もおいしい」植物の実。そのヒミツとは?
「ポンガミア」という名前、聞いたことはありますか?ポンガミアは、東南アジアやオセアニアなどの熱帯・亜熱帯エリアに分布する、マメ科の植物です。マメ科というとつる状の小さな植物を思い浮かべるかもしれませんが、ポンガミアは高さ15-25mほどの樹木で、樹齢は50年超にもなります。発芽から3~5年で花が咲いた後に実がつき、5cmほどの鞘(さや)の中に約3cmの種子が入っています。

成長し実をつけたポンガミアの様子
ポンガミアの実は食べられないため多くが廃棄されてしまいますが、実の中の種子を潰して得られる油の量(油収量)が豊富であり、この油がSAFの原料としてのポテンシャルを秘めているのです。
それだけではありません。種子を取った後の鞘(さや)はバイオマス発電所向けの燃料として、種子の搾りかすは家畜用の飼料として活用できる可能性があります。さらに、大規模な栽培が実現できれば、植林によるカーボンクレジットの創出へつなげることも考えられます。

ポンガミアのポテンシャルイメージ
これらはいずれも、出光興産が社会実装に取り組んでいる、さまざまなメニューと親和性があるものです。
人間は食べられないながらも「1粒で4度おいしい」ポンガミア。出光興産は2025年1月から、ポンガミアの栽培知見と研究成果を持つ米国のTerviva社と共に、ポンガミアの試験植林を豪州クイーンズランド州で開始します。
人間は食べられないながらも「1粒で4度おいしい」ポンガミア。出光興産は2025年1月から、ポンガミアの栽培知見と研究成果を持つ米国のTerviva社と共に、ポンガミアの試験植林を豪州クイーンズランド州で開始します。
「ポンガミアは強い日差しや干ばつ、土壌の中の塩分といった外部環境にも強く育ちやすい植物です。さらに、『根粒菌』の働きにより、植物に必要な栄養素である窒素を空気中から取り込み蓄えることができ、少ない肥料でも成長しやすいこともポイントです。取り込まれた窒素は葉にも蓄積されるので、葉が落ちれば窒素が土壌に蓄積されることとなり、土壌の改良効果も見込まれます。『1粒で4度』どころか、5度も6度もおいしい、ポテンシャルに溢れる植物です」と、花房は話します。

植林前のポンガミア栽培の様子
試験植林への道のりと、脱炭素社会の実現に懸ける想い
出光興産では長年にわたり豪州で石炭ビジネスを行い、エネルギーの安定供給の責務を果たしてきました。その過程で培った現地関係者との縁があり、2022年頃からポンガミアに着目し始めました。
しかしながら、試験植林の開始までの道のりは決して簡単なものではありませんでした。
しかしながら、試験植林の開始までの道のりは決して簡単なものではありませんでした。
「ポンガミアはこれまでに世界中のどの国においても商業生産された実績がありません。植林・SAFの原料化に向けては、まだ研究レベルでのデータしかなく、情報が限定的です。さらに、適切なパートナーの選定とゼロからの関係構築、将来的な拡大ポテンシャルも踏まえた適切な実証栽培地の探索と確保は、ハードルの高いものでした」
出光興産にとってSAF原料の植林ビジネスは新しい挑戦であり、社内外関係者による緻密な協議や、計画のブラッシュアップが求められました。花房はこの取り組みの先にある脱炭素社会の実現を見据え、チームでそれらを乗り越えてきました。

エネルギーの安定供給と脱炭素化の両立の使命のもと、チームで取り組みを推進
これまでのジェット燃料と同じように、将来にわたってSAFを供給し続ける責任を果たすためには、長期にわたり安定的・経済的な原料の確保が欠かせません。出光興産では将来的な自社栽培や商業規模への拡大、SAF原料を含めた多様な用途展開を見据え、ポンガミアについて様々な検証を行っていきます。
「まずは、ポンガミアがSAF原料として、そしてさまざまな用途に対し有望であるという、私たちの仮説が正しいことを証明していきます。そして、栽培の大規模化・商業化にスピーディにつなげ、しっかりと原料調達できるような体制を整えていきたいです。また、今回の試験植林もTerviva社と共同で行いますが、こうした取り組みは個社の力だけでは難しく、協働いただける更なるパートナー探しも必要と考えています。ゆくゆくは産学官での連携や、オールジャパンでの取り組みを実現できたらと思います」