概念を超えた
サービスステーションの
実現によって新しい
時代を切り拓く。

  • 販売部SS開発課
    T.USUI

2022年11月、出光興産は従来にない新しいスタイルのサービスステーション(以下SS)をオープンした。日本初の国産木材を活用した環境配慮型サービスステーション『apollostation Type Green(以下Type Green:タイプグリーン)』だ。「SSは鉄筋建築でなければならない」という既成概念を覆し、環境への配慮、かつ国内の林業への貢献を目指す。次代のSSのあり方を世に提示したType Green開発担当者に「切り拓く」をテーマにインタビューを行った。

INTERVIEW POINT

2013年入社。入社後は関西支店配属により4年間京都赴任、次に中部支店配属により3年間名古屋赴任、特約販売店担当業務を経験後、販売部SS開発課に配属。2022年2月からType Green開発プロジェクトのメンバーとして業務を担当。

給油所における
カーボンニュートラル
に挑戦しながら
林業振興を目指す。

サービスステーションを木材で作るという新しい試み

日本で初めて木造のSS「Type Green」が開所した際、その外観と斬新なコンセプトが耳目を集めた。従来のSSのイメージとは大きく異なる、カフェのような木目調の建屋、茶系を基調にしたデザイン。Type Greenは出光興産が新たに開発した環境配慮型SSだ。「出光興産ではカーボンニュートラル施策の一環で、バイオマス発電に取り組んでいます。発電には燃料となる木材を必要とするわけですが、木材の原料と流通が少ない。調べていくうちに、国内の森林資源が十分に活用されていないという実態がわかってきました。当社ができることを考えるなかで、当社のSSに木材を使うことで林業の活性化に貢献できるのではないか、というところからプロジェクトがスタートしました」

環境に配慮した国産建材CLTで地域の林業振興にも貢献

『深呼吸できるサービスステーション』というコンセプトのもとに、店舗開発が進められた。使用する木材は断熱性、遮炎性、遮熱性などに優れたCLT(直行集成板)に決定した。
CLTは環境負荷が少なく、CO₂排出量削減や森林保全にもつながる材料として、昨今注目されている建材だ。「CLTは加工木材ですので、なるべく地場産の木材を使うようにしています。例えば1号店となった『スマートエコステーション南国バイパス(高知県南国市)』のCLTのうち94%は高知県産の杉を使用しています。林業業者の方々は、弊社が燃料を供給しているお客様でもあります。今回の取り組みでは、地域の林業振興に少しでも貢献できたのではないかと考えています」今でこそそのように振り返るが、Type Greenの建設計画を進めるうちに大きな課題が出現した。

先駆者ゆえに
乗り越えなければ
ならなかった
強大な壁がある。

木造サービスステーション実現を阻む消防法の壁

「木を使ったSSであるとお客様に認識いただくため、木目が見える意匠で検討を進めました。SSは危険物取扱所という性質上、お客様の安全確保のために様々な法令・条例のもとに厳格な規定を守って建設されています。消防法の政令である『危険物の規制に関する政令第17条』はSS建設の上での条件が記載されていて、『壁、柱、床、はり及び屋根を耐火構造とし、又は不燃材料で造る』とされています。素材そのものではこれらに該当しないCLTを前面に押し出したSS建設は、許可を下す側も作る側も初めての事例でした。戸惑いと心配の声が上がった事は、今振り返れば当然であったと思います。結果として、建設候補先の選定という最初の段階から困難に直面しました」あらためて法令や条例に準拠した木造のSSを実現するために様々な方法が検討された結果、たどり着いた解決策とは何だったのか。

日本で初めての試みに、ともに挑む協力者を求めて

「私たちの想いを実現するために検討を重ねるうち、消防法に『不燃又は耐火構造』と記載されている点について、耐火性に特徴のあるCLTの上に不燃木材を貼り付けることで理解を得られないか、という結論に至りました。そして、各省庁に事前確認を行ったり、CLTを推進している地域の拠点を選定したりと、認可に向けて再度チャレンジしました。結果として、全国3か所でType GreenSS建設に向けた許可取得に至ることができました」木造のSS建設には誰も取り組んだことがないため、当然のことながら従来の協力先である設計会社や建設会社にも知見がなかった。「前例がない事案ですから、訪ねる先々で理解していただくまでに時間がかかりました。木材の調達元となった銘建工業(岡山県)にも何度も足を運び、私たちも徐々に知識を蓄え、道筋を整えて進めてきました」

より多くの人々に理解を得て、さらに次の目標へ

2022年11月7日、ついにType Greenの1号店「スマートエコステーション南国バイパス」が高知県南国市に開所、続いて同年11月に兵庫県神戸市「スマートエコステーション鹿の子台」、12月に埼玉県飯能市「スマートエコステーション美杉台」が営業を開始した。「開所後は社内外から大きな反響がありました。林業が盛んな地域の特約販売店様から建設の打診があったほか、全国紙を含め32媒体で報道、『CLTで地方創生を実現する議員連盟』やハウスメーカー、ゼネコンから協力の申し出を受けました。さらにウッドデザイン賞2023の建築・空間分野『ライフスタイルデザイン部門』を受賞、石油元売会社で初めて『環境配慮型 SS(木造建築)への挑戦』が認められました」杉の香りが漂う店内では、訪れたお客様に向けてType Greenの取り組みを伝えるコンセプトムービーも上映された。「国内の森林では樹齢の長い老木が増えているため、実はCO₂の吸収量が下がっています。だから、木材をたくさん使って、どんどん新しい木に変える必要があります。私たちはType Greenを通じて、カーボンニュートラルへの貢献を目指しています。出光興産がSSというお客様に一番近い部分で木材を使い始めた理由を実感していただけたと思います」2024年3月には、兵庫県明石市に4か所目となるType Greenが開所する。

社会の変化に
呼応しながら
SSのイメージ向上を
目指し続ける。

新しい付加価値によって共感を呼ぶ店舗づくりを

「Type Greenは既存のSSに新たな付加価値を与えることができる、一つの答えだと考えています。国内燃料油需要が縮小していく中で、お客様に選ばれ続けるSSとして必要なのは、安定的に燃料供給できればいいだけではありません。SSの設計一つを取っても、企業理念に共感いただけるかどうかが改めて注目される時代になると考えています」Type Greenは既存店舗で抽出された課題を解決しながら、今後も店舗数を増やしていく予定だ。「まずは2025年度までにType Greenの30か所開業を目指しています。この取り組みを通じてSSでの木材利用が一般化し、20年後には安全でカーボンニュートラルなサービスステーションが日本全国に広がっている社会を目指します」

社会的な課題解決とともにSSのイメージ向上を図る

中期経営計画(2023~2025年度)では、全国のSSをこれまでの給油拠点から生活支援基地への変革を目指す「スマートよろずや構想」を掲げている。SS開発においても、今後も多様なエネルギーの安定供給や次世代モビリティサービスの提供とともに、社会課題の解決への貢献が求められる。「将来起こりうる社会の変化(エネルギートランジション)に対して、お客様と接する拠点の確保ができていなければ、SSは淘汰されてしまいます。移動手段やエネルギーの種類が変わっても、お客様の店舗利用需要は一定以上存在するでしょう。それでも、拠点の付加価値を高めることに努め、時代に呼応していくことが、エネルギーの安定供給を掲げてきた私たち出光のミッションだと認識しています。今後も、次世代に受け入れられる拠点作りを通じて社会に還元していければと思っています。拠点拡大によるCO₂削減・国内林業への貢献はまだまだ道半ばですが、この取り組みを通じて、従来からのSSに対するイメージの変革に寄与できるよう新たなSS設計のあり方を切り拓いていきたいと考えています」

ANOTHER STORY

机上のアイデアを実装していくことにやりがいを感じながらSSの開発を続けていく。

臼居は、入社後の赴任先で体験した店頭業務や店舗運営の経験が「店内の動線や実際に働く人をイメージしながら」実現化することに繋がっていると語る。Type Greenに限らず、過去に関わった特約店、SSの動向は常に気になるそうだ。一方でSS開発には建設、設備、不動産といった専門知識が必要であり、さらに消防法令についても習熟しなければならない。業務のなかでそうした知識を身につけながら「机上のコンセプトやアイデアを現実に実装していく過程にやりがいを感じる」と、仕事への熱意が今日も臼居を突き動かす。

※2024年3月現在