個人の力を養い団結の力を強める


出光商会 門司本店 創業30周年記念写真

(出典:『我が六十年間』Ⅰ巻 97~99頁)

私どもの主義方針はすこぶる簡単なことで、また世間では日常言いふるされていることでございます。すなわち国民の一人として、社会の一員として、国家社会のために大いに働き抜こうということであります。そしてこの簡単なる店是を単なる空念仏(からねんぶつ)に終わらしめず、実行に移すことに重点をおいたのであります。
第一に、働きがいがあるように、自分の実力を大いに養成しよう、実力を養う方法としては精神的基盤に立ってゆこう、このためには道徳的に修養するとか、熱心に研究するとか、真面目に執務するとか、精神的修養に立脚して、寸暇もゆるがせにしない。
第二には、かくして一人一人を力強きものにし、さらにこれを団体的に結合して総力を発揮し、烏合の衆たる弱体から免れよう。すなわち店員が自分を励まし、自分を鍛錬すると同時に、同僚を励まし、部下を愛撫指導し、上長に敬事して、結合の分子に一点の隙を与えないことに努力して、一致団結よく団結力を発揮する。これがすなわち日本の固有の精神であり、家族主義であるのである。かくして店にあるも家庭にあるも、同じ心持で一生を暮らしうるところに、心の平和はあり恒心は生まれるのであります。あるいは同僚相排し、あるいは部下に親切なく、あるいは上長を克(こく)しあるいは派閥をつくって争うのは、世間の常態といってもいいと思うのでありますが、これは出光商会で最も忌(い)むべき重大なる一点であります。心すべきであります。
長い間には知らず識(し)らずの間に、道を踏み誤る店員もあるのであります。私自身がそうであるのであります。人の養成には年月を惜しんではなりませんぬ。犠牲を惜しんでもなりませぬ。長き年月を惜しんではなりませぬ。長き年月と多大の犠牲を払っていったならば、必ず改善善導しうるのであります。一時の考え違いや、踏み迷いを責めることは最もつつしむべきであります。店員を物心両面より救うことは、出光商会に課せられた最も重要なる仕事であります。
かくして個人の力を養い団結の力を強めるならば、いかなる難事業も成し遂げうるのであります。これが創業の主義方針であります。

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