私の人材養成法


アポロガソリン店頭用ポスター 1951年

(出典:『我が六十年間』第一巻 453~456頁)

(前略)事業とは、国家社会のために役立つものでなければならない。国家社会のために不必要なものは、それは事業ではない。(中略)
こういう考え方から私は、今まで社員に対して、出光興産の仕事は国家社会のために必要なものだ、君等は国家社会のために努力しているのだという自信をもってやれといってきた。諸君は社会のために一生懸命やりさえすれば良い、資金のことなど心配するな、人に認められぬことなど気にするな、といって来た。
事実、出光興産の仕事は、長い間、世間から理解されなかったが、それでよいではないか、と私は思っていた。
しかし、社会のために働きさえすればよい、金を儲けようなどと考えるなと言っては来たがこれは資本主義を否定するものではない。今日の事業に資本の力の必要なことは申すまでもない。国を売り社会を毒するような悪徳資本主義は絶対に排斥すると共に、われわれは、国家社会と共に歩いて事業を進め、堂々と儲けた金を、贅沢などに使わず、事業発展の資金として蓄積することを忘れてはならないのだ。
(中略)事業を行うには、先ず人材を養成しなければならない。
人材はどうして養成するか。それは尊重すべき人間になれということである。自分から見て尊重すべき人間というのは、良心の強い、真の個人である。これらの人々がお互いに尊重し合うところに、真の団結がある。これが自由主義から生れる協力であり、平和であり、民主主義である。
これと対照的なものが、物質本位利己主義から生まれる反目と闘争である。これが現代の世相であり、僞(にせ)民主主義である。
何事も、人間が根本である。人間を貴ぶ思想は東洋古来のもので、特に日本独特のものである。これを捨てようとしているのが、今日の日本人である。人間の力を強化することを忘れていたずらに数学的理論の力に存在し、その結果、三百代言的議論のみ多くして、何よりも大切な実行がない。政治・経済・教育等々すべて然りである。

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