川崎油槽所に着桟した「日章丸二世」
(出典:「我が六十年間」第一巻 424~425頁)
本年は出光にとりて創業以来最も意義のある年であり、血を通わせ魂を入れんとする年である。
本春イラン問題が起るや国内は沸き返った。乍併(しかしながら)このイラン問題に対する世間の見方と出光の考え方とは全然違っていてピントが合わなかった。それは世間の人は単なる商売であり、金儲けであると解したのであったが、出光人から見れば創業後四十数年の歴史上必然的に起こって来た本質的の結果である。即ち出光の目標とする處(ところ)は石油業そのものに非(あら)ず勿論金儲けそのものでもなく、石油業を通じて国家社会に示唆を与える事である。
今日のことは出光発足の時にすでに種を蒔いたのであって、その種を培養する事に現在まで四十数年間終始一貫努力精進して来たのであり、現在は、漸(ようや)く結実の段階に入ったのである。
人間中心主義即ち人間がすべての事を決するべきであって資本に屈したり、法律に縛られたり、理屈に囚われたりすべきでない、これを活用し善用し得するような人間となれ、即ち尊重すべき人間となれと言う人間尊重主義を実行して来た。
(中略)
社員の一人一人が尊重すべき人となりそして各個人が団結したならば人間の能力は最高に達し、ここに人間が資本・法規・理屈等総(すべ)て中心となり得る。そしてこの力を以て国家社会の為に努力する事が人生である。