真理を真理たらしむるは人なり


昭和26年 日章丸二世進水式

(出典:「我が六十年間 第一巻」335~337頁)

最近タンカー建造の許可があったので各店からも祝詞(のりと)を戴き御同慶に存じます。タンカーは石油業者が所有することが世界定石である。又(また)石油国策遂行の立場から出光がタンカーを持たねばならぬことも当局者の強く認めて居る所である。余りに簡単明瞭であり判り切った事であったために、己惚(うぬぼれ)と油断が起った。思わざる難関にブツかった。各方面に波瀾(はらん)を起して申し訳ないと思って居る。但し私は終始正道を歩き正直に行動したと堅く信じ且(か)つ強く言明する。之(これ)が難関を作った根本の原因でもある。
(中略)此(こ)の船が世界石油産地から油を積んで、日本の輸入タンクに移し、更に中継タンクに転送され、出光自身の小売網によりて消費者の庭先に届けられる。即ち出光の手一つによりて、世界の産地と日本の消費者とが繋がれることとなり、内池博士の生産者より消費者への学理、出光の大地域小売業の実体はここに完全に実現せられ、総(あら)ゆる利便を以(もっ)て、消費者の味方たり、又生産を利益する。理想的商人が出来上ることとなるのである。かく見来る時に、此のタンカー建造を単なるタンカー建造と見過してはならない。

真理は人の力によりて初めて真理たり得る

と云う大哲学である。そして、樗牛(ちょぎゅう)先生の「吾人(ごじん)は須(すべか)らく現代を超越すべし」と言う名句を再び高唱し度(た)くなる。稍々(やや)もすれば学者の寝言等と小馬鹿にされ勝(がち)である学究の真理が、吾々(われわれ)四十年来の努力の結果によりて、真理として実地に証明されたことである。出光としては画期的の一大事件である。と同時に次の意味合いから私個人としての画期的のものである。出光の総(すべ)ては人であり、人が資本を作り、法規を活(いか)し、機構を制御すると云(い)うのが常識となって居る。終戦直後諸君は私の口を借りて、千余人の帰還者を馘首(かくしゅ)せず、と云わしめた。当時無一物の出光は帰還の全員の実力によりて、資本を作り、機構を活し、今日の事業を完成した。今回のタンカー建造によりて、私は、要塞も武器も完備した思いである。総ては軌道に乗った。これからは私が居なくとも若い人達の努力のみによりて順調に運び得ると信ずるようになった。此の意味に於(おい)て終戦後否創業以来初めて諸君に対する私としての責任を果し得た心持ちになった。初めて肩の荷の下りたユッタリとした気持ちになり得た。此の気持ちを以て私は此の後諸君の双肩に全責任を移す事を言明する。諸君は悅(よろこ)んで之を引受けて貰(もら)いたい。

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