(出典:1966年刊『マルクスが日本に生まれていたら』108~110頁)
質問
人間が社会から影響をうけて、人間の考えやあり方が変わってくることもあると思いますが…
出光
影響のうけ方が問題だ。
人間の矛盾性から起こる社会の矛盾に人間が引きずられてはいけない。
ぼくは学生時代に、大阪の商人が人間としての矛盾性を発揮している姿をみて、黄金の奴隷たるなかれ、と言って出発したんだが、その場合のぼくは、人間の尊厳というものを自覚して、人間社会はああいう姿であってはいけないと思って、引きずられずに反発したんだ。
なにか最近では、自分が悪いことをしたり、堕落したりすることを社会の責任であるかのように言う風潮があるが、人間が、自分でつくって自分で矛盾性を発揮している社会に影響をうけ、引きずられるなどということは、主客転倒しておりはしないか。
そんな本末を誤るようなことをしてはいけないということなんだ。
社会は人間がつくったものだから、矛盾性があるのはあたりまえだけれども、自らの矛盾性を戒めつつ、それを克服し、間違いを改善していくところに、人間の人間たる所以、すなわち人間の心のあり方があるということだ。
それ(矛盾)は変化というものであって、人間から独立した矛盾なんてものではないよ。
変化はいつの時代でも、どういう社会でもあるよ。そういう変化に対して、平和に仲良く暮らすという人間の心で正しく対処していけば、そこに進歩繁栄が生まれる。
反対に、人間が我欲・エゴイズムの矛盾性を発揮して対処すれば、そこに矛盾が起こって、対立闘争したり混乱したりして退歩となる。
変化も、人間次第で進歩ともなれば退歩ともなる。
要は人間が心を正しくもって対処していくことだ。