(1975年8月『文藝春秋』掲載「九十歳でもゴルフはできる」より)
最近、財界人の中にも、やれ不景気だ、やれ日本の前途は暗いだなんてこぼしてるのが多いね。
日本人ならもう少し自信持たにゃいかんですよ。
ぼくは今度『永遠の日本』という本を出したんですが、このタイトルはアンドレ・マルローさんの言葉からとった。
外国人のマルローさえ認めてるのに日本人がそう悲観することはないんですよ。
不景気大いに結構、天下大乱いいじゃないですか。ぼくは楽観主義ですよ。
人間ちゅうものは苦労しなけりゃだめ、苦労すればするほど、人間、立派になるんです。ぼくなんか努めて苦労してきましたからね。
何が起こったってビクともしやせん(笑)。
世の中の中心は人間ですよ、金や物じゃない。
その人間というものはね、苦労して、鍛錬されて、はじめて人間になるんです。
苦労しなきゃ、人間の呼吸はわからんということですよ。
だから、人間尊重のぼくに言わせりゃ、もっと混乱せよちゅうことになる(笑)。大きく行き詰れば、大きく道が開けるということです。
金や物や組織に引きずられてちゃいかん。
そういう奴を、ぼくは金の奴隷、物の奴隷、組織の奴隷と言うて攻撃しているんだ。
石油業界だって石油危機以来、たいへん苦労している。今のままでいくとつぶれるところも出てくるかもしれん。
政府が手を打ってつぶさんようにしているけれど、本当は一つ、二つつぶれたらいんだ(笑)。
そうすりゃ、皆、考える。石油業界も他力本願じゃなく、まず自力で改善していくことが先ですよ。
「逆境にいて楽観せよ」という言葉がぼくは好きなんだ。悪い時にヘトヘトになるな、これを突き抜ければ、あとがいいぞということですわね。小さい水溜たまりにでも風が吹けば波が立つんですよ。波のない世の中なんてありますか。