宇宙用CIGS太陽電池

CIGS太陽電池とは

CIGS太陽電池は、Cu(銅)、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Se(セレン)から主に構成される化合物半導体材料を用いた太陽電池です。CIGSは材料自体が極めて高い放射線耐性を有しているという特長があります。またCIGS太陽電池は基板上に非常に薄い膜で形成されるため、優れた軽量性を実現することができます。

宇宙開発を支えるCIGS太陽電池

出光興産のCIGS太陽電池は、その高い放射線耐性により、過酷な宇宙環境でも優れた性能を発揮します。また、軽量性を有することで打ち上げコストの削減も期待できます。当社のCIGS太陽電池は、これからの宇宙開発をエネルギーの面から支えます。

極めて高い放射線耐性

放射能によって変換効率がほとんど劣化しないのは、光で「自己修復」するため

当社のCIGS太陽電池は、宇宙空間の放射線によって受けたダメージを光の照射で自己修復する仕組みを持っているため、放射線による変換効率の劣化がほとんどありません。この高い耐久性・自己修復能力により、カバーガラス無しの状態で低軌道(高度約700km)において9年もの間、出力特性を維持できていたことが実証されています。※1

出典:
※1 S.Kawakita et al., Trans. JSASS Space Tech. Japan Vol. 7, No ists26, pp. Ph_49-53 (2009), S. Kawakita et al., MRS Online Proceedings Library 1792, 479 (2015).

極めて高い放射線耐性

CIGS結晶構造の模式図。各色の球がCIGS結晶を構成する各原子を示す。(1) 宇宙空間の放射線により局所的な欠陥が生じる(原子の位置がずれる)。(2)~(3) 太陽光により元の構造へと修復される(原子が元の位置に戻る)。

極めて高い放射線耐性

CIGS結晶構造の模式図。各色の球がCIGS結晶を構成する各原子を示す。(1) 宇宙空間の放射線により局所的な欠陥が生じる(原子の位置がずれる)。(2)~(3) 太陽光により元の構造へと修復される(原子が元の位置に戻る)。

極めて高い放射線耐性

CIGS結晶構造の模式図。各色の球がCIGS結晶を構成する各原子を示す。(1) 宇宙空間の放射線により局所的な欠陥が生じる(原子の位置がずれる)。(2)~(3) 太陽光により元の構造へと修復される(原子が元の位置に戻る)。

放射線耐性の比較

宇宙用途で一般的に使用されているシリコン(Si)や3接合ガリウムヒ素(3J-GaAs)は、放射線の照射によって出力が運用初期に比べて低下していきます。一方、当社のCIGS太陽電池は前述の自己修復能力により出力を長期間維持します。

放射線(1MeV電子線)の照射による出力維持率の変化

放射線(1MeV電子線)の照射による出力維持率の変化

放射線(1MeV電子線)の照射による出力維持率の変化

放射線(1MeV電子線)の照射による出力維持率の変化

放射線(1MeV電子線)の照射による出力維持率の変化

放射線(1MeV電子線)の照射による出力維持率の変化

出典:
・3J-GaAs太陽電池:SolAero社ZTJ SPACE SOLAR CELLデータシート
・Si太陽電池:Yamaguchi M, Lee KH, Araki K, et al., the 46th Photovoltaic Specialists Conference (PVSC). IEEE; 2019, pp. 2377-2380.

薄膜軽量化による宇宙用途での利点

高い放射線耐性によって製造・打ち上げコストを削減する軽量薄型セル

当社のCIGS太陽電池は高い放射線耐性により、放射線から保護するためのカバーガラスを持たない構造が可能になります。従来技術では必須だったカバーガラスが不要となることで、より薄くて軽い太陽電池を実現できます。また、当社独自の「薄膜プロセス」製法でさらなる薄型化を実現しつつ、形状や電流・電圧もカスタム可能です。

薄膜プロセスで大型化を可能に

大型ガラス基板上に薄膜プロセスを用いて製造することで、従来の技術では難しかった太陽電池セルの大型化を実現しました(最大25cm角サイズ※2)。大型のセルによって、ソーラーパネルにおけるセルの充填率を向上させることができます。高いセル充填率はパネル全体の発電量を増加させ、宇宙空間での効率的なエネルギー供給を可能にします。
さらに、より少ない枚数のセルでソーラーパネルを敷き詰めることで、ソーラーパネルにおけるインターコネクタ※3の数も減らすことができます。これにより、パネル製造時の作業効率向上や信頼性の向上(インターコネクタが原因となる故障の回避)なども期待できます。

※2 2025年10月時点
※3 インターコネクタ:太陽電池のセル間を電気的に接続する部分

多様な宇宙用途への応用

衛星への電力供給から、月面探査の動力源や宇宙太陽光発電まで

低軌道コンステレーション※4衛星では、通信量の拡大や画像解析AI処理により必要とされる電力が増加傾向にあるため、今後ますます安定した電力の供給が求められます。さらに放射線の強い中軌道(高度2,000km~36,000km)においては、当社のCIGS太陽電池が持つ高い耐放射線性が衛星の運用長期化に貢献できます。また、大型の宇宙用構造物を建設する際には、いくつかの部品に分けてロケットで輸送し、宇宙で組み立てることになります。当社の軽くて薄いCIGS太陽電池であれば、その輸送コストの低減が可能になります。
軽量かつ高出力、さらに極めて高い放射線耐性を有するというという当社CIGS太陽電池の特性は、こうした様々な宇宙用途に適しており、将来的な月面探査の動力源や宇宙太陽光発電など、今後の宇宙開発を支えるエネルギー源として期待されています。

※4 高度数百km~2,000kmにおいて多数の小型衛星がネットワークのように飛び回り、地球全体に通信や観測サービスを提供する仕組み

低軌道・中軌道衛星に安定した電力を供給(イメージ)

低軌道・中軌道衛星に安定した電力を供給(イメージ)

低軌道・中軌道衛星に安定した電力を供給(イメージ)

地上での実績と信頼を活かした宇宙への展開

30年以上にわたるCIGS太陽電池の研究開発と、6GWを超える量産実績

当社は、100%子会社のソーラーフロンティアでの事業開始前からCIGS太陽電池の研究開発を行っており、その歴史は30年以上にわたります。
地上用のCIGS太陽光発電事業としては、世界最高である23.35%(AM1.5※5)の変換効率と累計6GW相当のCIGS太陽電池モジュールの出荷をそれぞれ2019年、2020年に達成しています。
また、1,000m2以上の広さのR&D設備を保有しています。集積型セルまでの製造装置の他、宇宙用の試験・解析装置も備えています。

※5 Air Mass 1.5という地上用太陽電池の性能評価に用いられる標準的な太陽光の条件

次世代技術研究所

次世代技術研究所

太陽電池セルR&D設備(左:スパッタ成膜装置、右:太陽電池特性評価装置)

太陽電池セルR&D設備(左:スパッタ成膜装置、右:太陽電池特性評価装置)

次世代技術研究所

次世代技術研究所

太陽電池セルR&D設備(左:スパッタ成膜装置、右:太陽電池特性評価装置)

太陽電池セルR&D設備(左:スパッタ成膜装置、右:太陽電池特性評価装置)

次世代技術研究所

次世代技術研究所

太陽電池セルR&D設備(左:スパッタ成膜装置、右:太陽電池特性評価装置)

太陽電池セルR&D設備(左:スパッタ成膜装置、右:太陽電池特性評価装置)

idemitsu CIGS太陽電池の製造プロセス

裏面電極層の成膜

1:裏面電極層の成膜

ガラス基板を洗浄します。
ガラス基板上に1マイクロメートル以下の薄い金属膜を成膜します。

パターニング1の形成

2:パターニング1の形成

金属裏面電極層をレーザーで切り分けます。
パターニング数により電圧などのカスタムも可能です。

電子材料

3:プリカーサーの成膜

パターニング1を形成した金属裏面電極上に、プリカーサーという前駆体を成膜します。

光吸収層の形成

4:光吸収層の形成

プリカーサー付基板を特殊な材料ガスの中で焼成し、CIGS光吸収層を形成します。

バッファ層の成膜

5:バッファ層の成膜

特殊な溶液に浸漬することで、バッファ層を形成します。

パターニング2

6:パターニング2

メカニカルスクライブにより、光吸収層およびバッファ層を切り分けます。

表面電極層の成膜

7:表面電極層の成膜

表面電極層を成膜します。

パターニング3

8:パターニング3

メカニカルスクライブにより、光吸収層、バッファ層および表面電極層を切り分けます。

グリッド電極の形成

9:グリッド電極の形成

表面電極層の上にグリッド電極を形成します。

反射防止層の成膜

10:反射防止層の成膜

表面電極層およびグリッド電極の上に、反射防止層を成膜します。

idemitsu CIGS太陽電池の完成

11:idemitsu CIGS太陽電池の完成

当社グループにおける
CIGS太陽電池の歴史と宇宙への取り組み

年代
CIGS太陽電池の歴史
宇宙への取り組み
1978年
太陽電池の研究開発を開始
1993年
CIGS太陽電池の研究開発に着手
2002年
NASDA(現JAXA)の民生部品・コンポーネント実証衛星「MDS-1」にCIGS太陽電池を搭載、宇宙実証を実施
2005年
東京大学の超小型衛星「XI-V」にCIGS太陽電池を搭載、宇宙実証を実施
2007年
CIGS太陽電池の商業生産を開始(年産20MW)
2011年
第1~第3工場で合計1GWの年産能力を確立
2019年
CIGS太陽電池セルで世界最高変換効率23.35%(AM1.5)を達成
2020年
CIGS太陽電池の累計出荷量6GWを達成
宇宙用CIGS太陽電池の研究開発・事業化検討プロジェクトを開始
2022年
事業構造改革に伴い、地上向けCIGS太陽電池の商業生産を終了
研究開発機能を次世代技術研究所(千葉県袖ケ浦市)へ集約
2023年
宇宙業界の展示会へ初出展、マーケティング活動を本格化
2025年

当社のCIGS太陽電池セル(25cm角サイズ)

当社のCIGS太陽電池セル(25cm角サイズ)

当社のCIGS太陽電池セル(25cm角サイズ)

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