タフロン™(ポリカーボネート樹脂)、TARFLON NEO™(シロキサン共重合ポリカーボネート)

ポリカーボネート(PC)樹脂とは?

出光興産では、1957年からポリカーボネートの研究を重ねてきました。その結果、1969年に世界初の連続式溶液法による独自製造技術を確立し、「タフロン™」の商業生産を開始しました。
一層の競争力強化を図るため、この独自製造技術を台湾の Formosa Chemicals & Fibre Corporation にライセンスし、2015年に生産を同社に集約しました。
当社は、独自の製造技術を生かした共重合技術※1や、これまで培ってきたコンパウンド技術※2を応用し、PC樹脂の低温衝撃強度や屋外使用における耐候性をさらに高めたシロキサン共重合PC樹脂(「TARFLON NEO™」)や、LCDバックライトユニットの導光板、LED照明の拡散カバー、光学レンズ、自動車照明(DRL;Daytime Running Light)などの光学系グレードの開発・販売に力を入れています。

  • 1. 共重合技術
    二種以上の分子を結合させ、分子の大きい化合物を生成する技術

  • 2. コンパウンド技術
    原料となる樹脂に、顔料や添加剤など他の材料を混合し、機能性を向上させる技術

タフロン™の特長

PC樹脂タフロン™は、高い透明性・自己消火性とプラスチックの中で最高の耐衝撃性をもつエンジニアリングプラスチックです。
光ディスク、バイクの風防、ヘルメットやヘルメットのシールド、カーポートやアーケードの屋根材、高速道路の防音板、自動車のヘッドランプなど、様々な分野で使われています。

耐衝撃性

  • プラスチックの中で抜群の耐衝撃性

  • 防弾材料に使えるほどの高い衝撃強度

透明性

  • 透明性に優れ、光学的な用途に広く対応

  • 汎用透明グレードでの可視光線透過率は85~90%

寸法精度

  • 精密な成形が可能

  • 成形収縮率が小さく、成形品の寸法安定性に優れる

耐熱性

  • 幅広い温度条件下で使用可能(-40℃~+120℃)

  • 冷蔵庫から電子レンジまで使用可能

自己消火性

  • 難燃剤無添加の一般グレードで、UL94 V-2規格と同じ試験条件の難燃性を発揮

  • 建築分野、電気・電子分野など難燃性を必要とされる分野に幅広く対応

電気特性

  • 絶縁破壊電圧などの特性に優れる

タフロン™主要グレード一覧

グレード分類 グレード名
ナチュラル 超高流動 IR1700
高流動 A1900、IR1900、IV1900R
標準 A2200、IR2200、IV2200R
中粘度 IR2500
シロキサン共重合 透明 RC1760、RC2260、RC2031
透明・耐候 VC1760、VC2260
半透明・基本 AG1950、AG2240、AG2530、AG2030
半透明・耐侯 VG1950
難燃 ZG1950
難燃・耐侯 ZG1951V
GF強化 GG1920
光学系(LCD、LED照明用途) 導光 LC1500 PURE、LC1508 PURE、LC1501 PURE、LC1402 PURE、LC1202 PURE、LC1700 PURE
光拡散 R1700(W3204ENU)、V1700R(W3026E)、V1700R(W3032E)、LZ2500V(S0086E)、LZ2510V(W1070ED)
反射・遮光 URC2500、URC2501、URZ2500、URZ2501
耐候・高透明 LEV1700KL、LEV2200KL
光学系(車載照明用途) 導光 LC1500、LC1700
光拡散 R1700(W3204ENU)、V1700R(W3026E)、V1700R(W3032E)
PC系難燃 透明1.5V-0 AZ1900T
透明3.0V-0 RY1900、RY2200、IRY2200、VRY2200、IVY2200R
透明V-2 RE1900
不透明 AZ1900、AZ2201
難燃剤フリー AC1030、AC1080
リン系難燃 AK3020、DK3722
ガラス繊維強化PC 基本 G1910、G1920、G1930
非臭素非リン難燃V-0 GZ2510、GZ2520、GZ2530、GZ2540
リン系難燃V-0 GGK1740
アロイ系難燃 高流動 SK2706、SK2708
高剛性 SK3730
アロイ系 メッキ性 SC-253
耐薬品・高強度 SC-300、SC-420
特殊 摺動 AL-0002、AL-0010、AFL-1505

TARFLON NEO™(Si-PC)の特長

PC樹脂の重合過程で改質成分を重合させる共重合技術に注目し、技術開発を重ねた結果、完成したのがシロキサン共重合ポリカーボネート(Si-PC)「TARFLON NEO™」です。

樹脂製品は、表面を塗装処理されたり、屋外環境で使用されたり、消毒液などが接触したり、性能を高めるためガラス繊維などを混ぜて使用したりと、さまざまな環境で使用されています。樹脂製品が壊れてしまうのは、このような環境下で、目に見える負荷から目に見えない負荷までさまざまな負荷を受け、クラック※3が発生・進展することが原因です。
TARFLON NEO™は、共重合させたシロキサンブロックがクラック進展の妨げとなるため、従来のPC樹脂では適用できなかった様々な用途への展開が期待されます。

TARFLON NEO™(Si-PC)の仕組み

TARFLON NEO™は、低温でも運動性が高く柔軟なシロキサン成分をポリカーボネート分子鎖に化学結合により組み込んでいます。

シロキサン(Siloxane)-運動性が高く柔軟な骨格-
従来のポリカーボネートとの違い

当社は、この低温でも運動性が高く柔軟なシロキサンを共重合することにより、従来のPC樹脂に比べて「ノッチ※4感度を低く」し、「クラックに強い」材料に仕上げました。

  • 3. クラック
    裂け目、ひび割れ

  • 4. ノッチ
    V字あるいはU字の切欠き形状。ポリカーボネートは高強度といわれるが、Vノッチがある場合は強度低下を起こすことが知られている。

衝撃に強いSi-PC

TARFLON NEO™(Si-PC)による課題解決例

TARFLON NEO™は、以下のような課題解決に寄与します。

低温環境でも壊れにくい

用途例:冬季スポーツ用品、電池パック、スマートフォン、ヘルメット
軽量化によるコストダウンを目的に、製品を薄肉化するケースがあります。薄肉化による成形性の低下を避けるため、分子量の低い高流動タイプのPC樹脂が選定される場合があります。
PC樹脂はある程度の分子量以上であれば、低温環境でも衝撃強度に優れた材料ですが、-40℃といった極低温の環境になると衝撃強度が低下します。
TARFLON NEO™は、低温環境でも運動性の高いシロキサンを共重合させることにより、同等分子量の一般ポリカーボネートに比べ、極低温環境での衝撃強度を向上させた材料です。低温環境下(寒冷地、低温倉庫など)で使用される製品の軽量化、小型化に適した材料として期待されます。

剛性と衝撃強度の向上

用途例:モバイル端末、パソコンのハウジング、バッテリー
PC樹脂は耐熱性、寸法精度、強度に優れており、これにガラス繊維などを充填し、剛性を高めた材料が、シャーシ(車の骨組み)などの構造部材や機構部品などの用途で使用されています。
一般に、ガラス繊維などを充填した材料は、衝撃強度が低下します。ガラス繊維などを充填した材料の衝撃特性を向上させる対策として、エラストマーなどの衝撃吸収成分を配合する手法がとられますが、衝撃強度の向上につながらない場合もあります。
シロキサンブロックを共重合させたTARFLON NEO™は、PC樹脂の特性を維持しながら、衝撃吸収力が向上しているため、ガラス繊維などを充填した材料の衝撃特性向上に適しています。

屋外使用における耐久性の向上

用途例:基地局、充電ステーション、スマートメーター、カバー類
ポリカーボネート樹脂は、透明性や強度などの特性を生かし、屋外照明カバー、アーケードやカーポートの屋根材などの屋外用途にも採用されています。しかし、樹脂製品は紫外線を浴びることで徐々に劣化していきます。一般的には紫外線吸収剤を添加することで、紫外線による樹脂の劣化進行を遅らせる手法がとられます。しかしながら、添加した紫外線吸収剤が消費されてしまうと樹脂部の劣化が進行し、強度低下を起こします。
TARFLON NEO™は、紫外線に強いシロキサンを共重合していることと、シロキサンを共重合することで樹脂劣化によるクラックが進展しにくくなっていることから、屋外での耐久性向上が期待できます。

屋外使用における耐久性の向上

耐薬品性の向上

用途例:家電製品、産業資材
強度や外観などの観点からPC樹脂を使用したいにもかかわらず、アルカリ性の薬品に接触する可能性があるため使用できないといったケースがあります。これは、「ポリカーボネート」の名前の由来となっている「カーボネート結合」がアルカリと接触すると分解が加速し、強度低下や外観低下を起こすためです。
シロキサンを共重合させたTARFLON NEO™では、シロキサンの効果により、耐アルカリ性の向上を確認しています。

塗装品の強度低下を抑制

用途例:自動車内装、スマートフォン
樹脂製品は意匠性の向上を図るため、塗装が施される場合があります。塗装は、一般的に塗料を溶剤に溶かしたものを塗ったり、吹き付けたりする方法で行われます。PC樹脂は耐溶剤性が低い材料であり、塗装の際に樹脂表面が損傷を受ける場合があります。さらに、塗装膜と樹脂の熱膨張の差や硬さの違いから、製品使用時の負荷によりクラックが進展し破壊に至る可能性もあります。
シロキサンを共重合したTARFLON NEO™は、シロキサンがクラックの進展を抑制する効果があること、衝撃特性が一般PC樹脂と比べて向上していることから、塗装品の強度向上が期待できます。