2022年6月21日

その他

多様なディスプレイに適用可能な多結晶酸化物半導体「Poly-OS」を開発

出光興産株式会社
株式会社ジャパンディスプレイ

出光興産株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:木藤 俊一、以下「出光興産」)と株式会社ジャパンディスプレイ(本社:東京都港区、代表執行役会長CEOスコット キャロン、以下「JDI」)は、ウェアラブルデバイス、スマートフォン、VR、ノートPC、大型テレビ向けなど多様なディスプレイに適用できる革新的な多結晶酸化物半導体「Poly-OS(Poly-crystalline Oxide Semiconductor)」の開発に成功しました。
Poly-OSは、出光興産が開発した多結晶酸化物1半導体材料とJDI独自のバックプレーン2技術を融合させることで、第6世代量産ラインで高移動度と低オフリーク電流3を両立、ディスプレイの性能向上に大きく貢献するだけでなく、第8世代以上の大型ラインへの適用も可能で、ディスプレイ製造の低コスト化にも大きく寄与します。両社は今後、この革新的技術を広く世界に普及させることを目指します。

出光興産は2006年より多結晶酸化物半導体材料IGO(Indium Gallium Oxide)の開発をはじめました。IGOは、従来の酸化物半導体では実現できなかった低温ポリシリコン(LTPS)4と同水準の高い移動度を有することが特長です。さらに第8世代以上の大型ラインにおいてもプロセス適性があり薄膜トランジスタ(TFT)5を作製することが可能です。

JDIは、独自のバックプレーン技術により、茂原工場(千葉県茂原市)の第6世代量産ラインにて、世界で初めて多結晶酸化物半導体「Poly-OS」の実用化に成功しました。
JDIで作成したPoly-OSは従来比4倍の電界効果移動度を達成し、2022年3月30日にJDI独自技術「HMO(High Mobility Oxide)」として発表しています。(ニュースリリース:「世界初 第6世代量産ラインにて従来比4倍の電界効果移動度を持つ酸化物半導体TFTを実現」)。

両社は今後、多結晶酸化物半導体「Poly-OS」技術を幅広い業界関係者が適用できるよう普及に取り組むとともに、ディスプレイ性能の進化と同産業の発展、ディスプレイの低消費電力化による低炭素社会の実現に取り組みます。

1 多結晶酸化物:金属元素と酸素から構成される多結晶状態の薄膜。
2 バックプレーン:薄型ディスプレイの基礎となる微細な半導体素子が実装された回路基板。
3 オフリーク電流:トランジスタがオフ状態の時に漏れ出てしまう意図しない電流。
4 低温ポリシリコン(LTPS):ガラス基板上に低温で形成された多結晶シリコン。電子移動度が高い。
5 薄膜トランジスタ(TFT):ガラス基板上にシリコンなどで構成された薄型のトランジスタ。

【多結晶酸化物半導体「Poly-OS」技術について】

<技術概要>

既存の酸化物半導体(Oxide)を用いたトランジスタは、アモルファスシリコン(a-Si)6と同じく大面積での製造が容易で、かつ低いオフリーク電流による低消費電力化が可能です。一方で、現在の中小型ディスプレイで主に用いられているLTPSと比較すると移動度が低いことが課題となっていました。両社が開発した革新的な多結晶酸化物半導体「Poly-OS」技術は、移動度を大幅に向上させ、LTPS同様の高性能化に成功しました。これにより、既存のバックプレーン技術(a-Si、Oxide、LTPS)の性能を併せ持った製品を作り上げることが可能となります(Fig.1)。

Fig.1 技術コンセプト

<酸化物半導体の分類>

酸化物半導体はこれまでアモルファスやC-axis Aligned Crystal/nano crystal7等の結晶構造がトランジスタの活性層に使用されており、製品化されています。出光興産が開発した多結晶酸化物半導体材料IGOは、既存のアモルファス酸化物半導体と同様のプロセス(450°C以下)で、多結晶(Poly-crystalline)状態(Fig.2)を実現できることが特徴です。この多結晶酸化物半導体を活性層に用いることにより、本来の酸化物半導体が持つ移動度を最大限に引き出すことができます。

Fig.2 酸化物半導体の結晶性

<プロセス技術>

高い移動度を有する酸化物半導体材料はキャリア濃度の制御が難しく、安定的なTFT特性を得ることが困難です。ここにJDIが長年培ってきたCVD8/スパッタ9/アニール10/エッチングといったプロセスノウハウを融合することで、高移動度かつ低いオフリーク電流を有する安定的なTFT動作が可能になりました(Fig.3,4)。オン電流11をより高めるために最適なTop Gate Self Align構造12(Fig.5)を採用し、チャネル長2µmにおいてもチャネル幅に依存しない安定したTFT特性が得られ、LTPS同等の電流駆動力を有しています(Fig.6)。

Fig.3 第6世代量産ラインで作製した同一構造でのTFT特性比較

Fig.4 第6世代マザーガラス13における面内均一性の向上(N = 28pt)

Fig.5 薄膜トランジスタの断面構造

Fig.6 TFTのサイズをL長2μmでW幅を2~25μmまで変化させたときの電流上昇(Vd=0.1V、Vd=10V)

6 アモルファスシリコン(a-Si):薄膜トランジスタに使用される非晶質のシリコン。
7 C-axis Aligned Crystal/nano crystal:c軸配向もしくは微結晶を有する半導体膜の結晶構造。
8 CVD:化学反応で基板表面に薄膜を形成する工程。
9 スパッタ:ターゲット(薄膜原料)にイオンを衝突させて薄膜を形成する工程。
10 アニール: ガラス基板上の薄膜等に熱を加え、膜質を改善させる処理工程。
11 オン電流:トランジスタがオン状態の時に流れる電流。
12 Top Gate Self Align構造:寄生容量を小さくし高速動作を可能とするTFT構造。
13 マザーガラス:薄型ディスプレイのガラス基板に使われる大判ガラス。

【参考資料】各社会社概要 ※資本金、売上高は2022年3月期時点

名称 出光興産株式会社
所在地 東京都千代田区大手町一丁目2番1号
代表者 代表取締役社長 木藤 俊一
設立 1940年(1911年創業)
資本金 1,683億円
売上高 6.7兆円
名称 株式会社ジャパンディスプレイ
所在地 東京都港区西新橋三丁目7番1号
代表者 代表執行役会長 CEO スコット キャロン
事業開始 2012年
資本金 1億円
売上高 2,959億円

~お問い合わせ先~

出光興産株式会社 広報部広報課 https://www.idemitsu.com/jp/contact/newsrelease_flow/index.html

株式会社ジャパンディスプレイ 広報部 https://www.j-display.com/contact.html

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