企画展「Idemitsu Art Award アーティスト・セレクション 2025」
「Idemitsu Art Award アーティスト・セレクション2025」は、Idemitsu Art Awardの受賞・入選後も作家を継続的に支援することを目的とした企画展です。
「Idemitsu Art Award 2024」の審査員が選出した若手作家3名の新作・近作を、12月に開催する「Idemitsu Art Award 展 2025」の展示会場内に展示します。14回目となる今回は、芦川 瑞季氏、齋藤 春佳氏、田中 良太氏の3名を選出しました。
正路 佐知子審査員推薦作家・芦川 瑞季(Mizuki Ashikawa)

経歴
1994年 | 静岡県生まれ |
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2025年 | 武蔵野美術大学大学院造形研究科博士後期課程造形芸術専攻作品制作研究領域 修了 |
展覧会
2019年 | TOKAS-Emerging 2019 個展「圏外からの景色」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京都) |
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2022年 | 第3回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ 2022(京都市京セラ美術館、京都府) |
2023年 | TOKAS レジデンシー成果発表展「誰かのシステムがめぐる時」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京都) |
2024年 | 落石計画第14期「霧界/Unbound」(旧落石無線送信局(現 池田良二スタジオ)、北海道) |
2025年 | 「源氏物語の世界展—明け暮れ書き読みいとなみおはす—」(たましん美術館、東京都) |
2025年 | 第4回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ 2025 サテライト企画 個展 「芦川瑞季展」 (アートゾーン神楽岡、京都府) |
受賞等
2018年 | シェル美術賞2018 入選 |
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2019年 | アートアワードトーキョー丸ノ内 a.a.t.m. 2019 三菱地所賞 |
2021年 | 第8回山本鼎版画大賞展 大賞 |
2022年 | 第3回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ 2022 NISSHA財団賞 |
展示予定作品「壁の向こう」

技法:リトグラフ、洋紙
70×94.5cm
(撮影:足立 涼)
作品・制作について
さまざまな経緯を経て、不意に私の前に立ち上がってくる風景がある。 あるときは他者の存在を仄めかし、またあるときは、社会や心の奥にあるものを反映しているかのように見える。
私は、リトグラフによって生成されたイメージに、そのような風景が持つ「質」に通じるものをおぼえる。
一度描いたものが容易には消せないという、版特有の不可逆的さが、そう思わせるのかもしれない。
「もうこの世界には、新しい画像など現れないのではないか。」 そんな予感を抱きながらも、何かを見つけては、引き寄せられるように、今日も制作を続けている。
「操作可能」な性質を持つ画像であふれた現代において、むしろ私は「操作不可能性」に導かれている。
正路審査員 推薦コメント
芦川 瑞季は、遭遇した風景に対峙した時の感覚、その場に漂う気配を、あるいは気分と言うべきものを表してきた。実在する場所で撮られた写真はデジタルデバイス上で再構成され、落書き的な二次元モチーフを気配や気分の代弁者として召喚し、ひとつのイメージが形作られる。可塑的なデジタルデータは、後戻りのきかない版の上で手の痕跡と画材の質感を湛えた描画となり、最終的に統合されたイメージと痕跡が紙の上に載る。目の前の現実に向き合い、リトグラフの特性を受けとめ紡がれた作品をぜひ、見てもらいたい。
竹崎 瑞季審査員推薦作家・齋藤 春佳(Haruka Saito)

(撮影:赤木 遥)
経歴
1988年 | 長野県生まれ |
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2011年 | 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業 |
展覧会
2014年 | 「記憶の地層」(小海町高原美術館、長野県) |
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2017年 | 個展 AP#2.01 「飲めないジュースが現実ではないのだとしたら私たちはこの形でこの世界にいないだろう」(埼玉県立近代美術館、埼玉県) |
2020年 | 都美セレクション グループ展 2020 「描かれたプール、日焼けあとがついた」日焼け派(東京都美術館、東京都) |
2022年 | レター/アート/プロジェクト「とどく」展(渋谷公園通りギャラリー、東京都) |
2024年 | 「息切れのピース、息継ぎのピース」日焼け派(Art Center Ongoing、東京都) |
2024年 | 「合図」(Up & Coming、東京都) |
2025年 | 個展「裏からノック」(Black Cube 、神奈川県) |
受賞等
2011年 | トーキョーワンダーウォール トーキョーワンダーウォール賞 受賞 |
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2015年 | アートオリンピア 実行委員会特別賞 受賞 |
2016年 | シェル美術賞2016 入選 |
参考作品「雪はひとつの方向に溶ける/あらゆる方向に舞う」

技法:油彩、キャンバス
130.3×130.3cm
(撮影:阪中 隆文)
作品・制作について
「時間は本当は流れていなくて重力や物体の運動エネルギーの総体が便宜的に時間と呼ばれているだけ」という立ち位置から、出来事を時空間の構造と結び付けた絵画、立体、インスタレーション、映像などを制作しています。
時間が経つから雪が溶けるのではなくて、雪が溶けるから時間の経過を知ることになる。
見たけれどもう目の前になくて思い出すということでしか関係を結べないものを思い出しながら描く行為の周辺をよくうろついています。ただ、この絵については、友達の日記(降雪の日)に書かれた『その友達が乗った電車の外観』や『電話で話す私自身の横顔』など、誰も見ていないけれど読むことで経験したものも描きました。自分の横顔はこの日常生活を送る三次元の時空上では直接見ることができない。けれど描くことはできる。その描いた出来事を日記に書いて、さらにその日記のページを陶器の表面に描きこみ焼成する、その陶器を絵画に描きこむといった時空の往来によって作られた絵の中のページをめくる風はあらゆる方向に吹いています。
竹崎審査員 推薦コメント
齋藤 春佳は、絵画や立体、インスタレーション、映像などの多様なアプローチを通して、自らの体験や記憶に基づく時間と空間の再構築に取り組んでいる。
画面に表されたモチーフや気配は、すべて日常の生活の中で見たことや耳にしたこと、直接的あるいは間接的に経験したものごとに由来しており、それらは絵画という画面の中で、多種多様なまま、渾然一体となって配置される。また、日々の思考や感情を書き留めた日記や覚書などの言葉もまた、作品を構成する要素の一つとして画面の随所に散りばめられる。近年は、両面に絵付けを施した陶芸作品の制作や、それをさらに絵画の画面の中に描きこんだ作品も発表している。今後も齋藤が、自らのリアリティに基づきながら、現実世界の次元を超えてどのような世界を生み出していくか楽しみである。
大浦 周審査員推薦作家・田中 良太(Ryota Tanaka)

経歴
1983年 | 埼玉県生まれ |
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2008年 | 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業 |
展覧会
2022年 | 「コカドフォーマット」企画:ゲルオルタナ(スペースくらげ、神奈川県) |
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2022年 | 「PALALLEL e.g.2」(HANSOTO、静岡県) |
2023年 | 「第34回美浜美術展」(美浜町生涯学習センターなびあす、福井県) |
2024年 | 「ピイプル01 波をみる」 企画:ピイプル(長亭GALLERY、東京都) |
2025年 | 「ミットライト_そして」(TURNER GALLERY、東京都) |
2025年 | 「OUT OF THE BLUE」(STUDIO BACKPACK、埼玉県) |
2025年 | 「マジカル・ミステリー・府中」(LOOP HOLE、東京都) |
受賞等
2018年 | シェル美術賞2018 島 敦彦審査員賞 受賞 |
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2021年 | FACE2021 入選 |
2023年 | 第34回美浜美術展 入選 |
参考作品「交わる交わらない、交わる交わらない、交わる交わらない、交わる交わらない、交わる交わらない、交わる交わらない」

技法:アクリル絵具、キャンバス
112.0×178.0cm
作品・制作について
地続きの空間で人は生きています。齟齬を恐れても仕方がなくて、不一致があることを理解していける世界を望みます。私はあらゆる観測を怠りたくはありません。経験の集合体が任意の空間に広がると、不定称の風景画が図像として現れます。その風景画は私を含む全てが紐づいた一元論の状態です。パースペクティブや遠近の対比に破綻を与えても風景(のよう)に見えるならば、線(のような面)や穴(のような)正円のみのそれも不定称の風景画のひとつです。提案の仕方が異なっているだけです。このように私は風景画のような抽象画と抽象画のような風景画を表します。様態がどんなふうでも、客体がどうなっても、画面に絵具を塗布し質量を与えながら、イリュージョンを信じながら、楽しみながら、苦しみながら、目の前に表すのみです。また、キャンバスにはいつも余白を残します。絵(図像)の終わりを明確にして、ここ(余白)からが現実ですよといった感じです。つまり「ここ」を示したまま、その中と外とでは無限と有限がともに重なり合っています。どこかにいつも私は在ります。
大浦審査員 推薦コメント
画面中央に巨大な建造物を思わせるモチーフを描いた田中 良太の絵画を、ひとまず「風景画」と呼んでみる。ところが、背後の木々の描写や各所に描き込まれた事物は具体的で、自身の経験や関心に紐づいていながら、それらがひとつのナラティブに束ねられることはついぞない。これとは別に、田中は線を規則的に縦横に重ねることで成立する「抽象画」のシリーズにも取り組んでいる。《Q.E.D.》と名付けられた一連の作品は、画家自身が納得できると感じた時点で裏面にタイトルが記入されて完成=「証明終わり」となる。
暫定的に「風景画」「抽象画」とした2系統の制作は、異なる理路にもとづくかに見えて密かに交差しているようだ。建物のようなものを描きながら画家が意を用いているのは、ふたつの矩形が画面上の全ての要素と関係を持つようにする、というような抽象度の高い絵づくりであり、他方、規則的な線の集積に見出すのは風景のような奥行きと空間である。2種類の絵画のいずれにももう一方の状態が重なっている、そうした動的なあり様を把捉することが、今の田中にとっての「Q.E.D.」=「これが示されるべきことだ」という実感であり、今回の展示はそれを共有する機会となるだろう。