シェル美術賞では、作家の未来に期待し応援する企画「シェル美術賞 アーティスト・セレクション(略称SAS)」を2012年よりスタートし、本年は第8回目となります。
本企画は、「シェル美術賞」の過去受賞・入選作家から、今後の活躍が期待される作家を、前年度の審査員により4名選出しました。また、今年度は昨年の「レジデンス支援プログラム2018」に参加した大城夏紀氏の展示を併せて行います。新作・近作の作品展示機会を提供することで、若手作家の活動を継続的に支援していきます。シェル美術賞展2019の展覧会場内に、併せて展示しますので、ぜひお楽しみください。
「シェル美術賞 アーティスト・セレクション(SAS)2019」「レジデンス支援プログラム2018」展のお知らせ
藪前知子審査員推薦・江川 純太 Junta Egawa
- 1978年
- 神奈川県生まれ
- 2003年
- 多摩美術大学美術学部絵画学科日本画専攻卒業
- 2008年
- シェル美術賞2008 入選
- 2013年
- VOCA展 上野の森美術館
- Liketch TheRainbow JAUS ロサンゼルス
- 2014年
- アーティスト・ラボ「つくられるの実験」
- 川口市アートギャラリー・アトリア
- 2015年
- アーツ・チャレンジ 愛知芸術文化センター
- FromNowOn!! 藤沢市アートスペースFAS
- 「正解の裏の裏の横」個展eitoeiko
- 2017年
- 「Overdose」個展eitoeiko
■参考作品「49932」
技法:油彩、キャンバス、シルクスクリーン
116.7cm×91.0cm
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作品・制作について
「醒めた目で得たことはつまり、表面に見えているものと内側にあるものは違うということであった。な~んだ、昔から賢い人達がずっと言い続けてきたことではないか。私に出来ることは、イメージを止めないことぐらいか。我々はイメージすることからまだまだ多くを学ぶことが出来る。曖昧なイメージは可能性を広げ、イメージを固定することで思考は停止する。また、我々が世界から学んだことは「更新し続ける」というルール。生きていくためには、問い続けながら更新していくことが望ましい。だから、正解はない。いい時もあるし悪い時もある。習慣と処理に背を向け、新しくやり直すことを心掛けている。」
藪前審査員 推薦コメント
抽象絵画とは何か、といえばその議論は、具象絵画との対比において、つまり意味作用としての「抽象」という側面から始まるのが、美術史上の展開から常なる流れである。しかし江川純太の作品は、その「抽象」というコミュニケーションの解像度を格段に引き上げるものだ。バナナを鉄板に貼り付ける作品など、摩擦によって物質的特性が引き出される瞬間を捉えようとしていた彼の初期からの興味は、絵の具と支持体との関係が相互作用しあう、物質的実験のフィールドとして絵画を捉えて行く思考へと展開して行く。近年の作品は、カンヴァスに絵画という「薬物」を過剰摂取させるというメタファーを介して、二つの物質の相互作用、さらには未分化の領域を可視化させるものだ。江川の作品を通して、私たちは絵画を、物質に思考を代入する手段として捉え直すことになる。
中井康之審査員推薦・川上雅史 Masafumi Kawakami
- 1984年
- 大阪府生まれ
- 2010年
- 京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻修了
- 2008年
- グループ展「是が非の絵画」
- 大和プレスビューイングルーム、広島
- 2009年
- 個展「川上雅史展」 ギャラリー16、京都
- グループ展「Art Court Frontier 2009 #7」
- アートコートギャラリー、大阪
- 2010年
- 個展「川上雅史展」 TARO NASU、東京
- アートアワードトーキョー丸の内2010 名和晃平賞 受賞
- 2012年
- 個展「川上雅史展」 taïmatz、東京
- 2015年
- シェル美術賞2015 入選
- TERRADA ART AWARD 2015 入選
■参考作品「カップル」
技法:アクリル、キャンバス
162.0×162.0cm
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作品・制作について
人を静物のように描いている。伸ばして均した顔や体を暗闇に置き、ピカッとした光で浮かび上がらせる。性別は決めず、ヌードと設定していることが多い。イメージは事前にPCで作り、キャンバス上の絵具に置き換える。一定の塗りで支持体を埋めながら、奥行きのある綺麗な柄を作るような意識で描いている。人、ヌード、エロスを美しく表現したい。
中井審査員 推薦コメント
川上雅史の具象とも非具象とも断ずることのできない強烈な絵画表現を見た多くの者は、記憶の底から沸き出るような不思議な感覚を抱くことになるだろう。それは一見して分かるように、川上が羨望するフランシス・ベーコン張りの変形した肉体の塊が、日本の湿潤な気候風土によって醸成された暗闇の空間の中に忽然と現れているからなのである。とは言え、此の国に住まう多くの者たちは既にそのような環境には生活していない。であるが故に、例えば谷崎の小説の情景を意識下に、川上の作品を見ることになるのである。近年、川上はそのような自作が生み出す作用を客観的に捉えながら制作を重ねている。今回の展覧では、そのような新たな境地に立ちながら、よりインパクトのある表現を生み出すものと期待している。
新藤淳審査員推薦・Colliu
- 1986年
- 神奈川県生まれ
- 2009年
- 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
- 2012年
- 個展「たぶんバッハチー」(island MEDIUM・東京)
- 2013年
- 個展「億千万のミニサラダ」(渋谷パルコ ロゴスギャラリー・東京)
- 2015年
- シェル美術賞2015 入選
- 2016年
- 個展「むこうがわ」 (BLOCK HOUSE・東京)
- 2017年
- NEWoMan ART WALL(NEWoMan・東京)
- 個展「ROOM」(CALM & PUNK GALLERY・東京)
- 2019年
- 個展「Prospect-Refuge(隠れ家眺望)」(TOILET GALLERY Laforet原宿・東京)
- グループ展「RIMOWA Heritage Ginza」(RIMOWA Store 銀座7丁目・東京)
■参考作品 個展「ROOM」展示風景
作品・制作について
私の作品にはいつも登場するキャラクターがいます。私の分身のようなそのキャラクターは、抽象的な時もあれば具象的なこともあり、平面であったり立体であったりします。私が普段仕事やプライベートなどのあらゆる場面で見せ方を変えて生きているように、キャラクターのあり方も作品によっていつも変わります。ただ、私自身が人生のどの場面でも私であることから逃れられないように、必ず作品もそのキャラクターを軸に展開されます。様々な形で出現するその様子は、社会とのバランスを取ろうとする私自身の態度の変化とリンクしています。これからもどんな発展を迎えるのか、自分自身の人生の様に変化の楽しみな存在です。
新藤審査員 推薦コメント
ファッションモデルとして注目を浴びるColliuがアーティストとして活躍してもいることは、それとなく知っていた。だが、そんな女性がつい数年まえ、ひと知れずこの公募展に応募し、こっそり入選していたことには、少し驚かされた。Colliuはたいてい、自己像をデフォルメしつつ複数化したようなキャラクターを、それら自体がイメージであり、かつオブジェクトでもあるものとして自作にもちいる。それはファッションアイコンとしての自分の身体(像)が生きられない世界を、そのつど変形しうるキャラクターたちに生きさせたがる欲望のせいではないのか。もっとも、モダンアートからキース・へリングらまでの造形語彙をローファイ感覚に脱力化させて採取し、日本のサブカル女子テイストに染め直すようなColliuの制作の手つきは、モデルである彼女自身の身体像が流通する「趣味」の共同体にたいし、いまだそう異質な生態系を切り拓いていないとも映る。だから今回、ともすれば不似あいな舞台で、異他なる世界への欲望をかえって大胆に高めてもらえたなら。
島敦彦審査員推薦・村上早 Saki Murakami
撮影 齋梧伸一郎
- 1992年
- 群馬県生まれ
- 2016年
- 武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻版画コース修了
- 2015年
- シェル美術賞2015 入選
- 2016年
- 個展「トーキョーワンダーウォール都庁2015」(東京都庁第一本庁舎/東京)
- 「絵画のゆくえ2016」(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館/東京)
- 「VOCA展2016」(上野の森美術館/東京)
- 個展「村上早展」(コバヤシ画廊/東京)(2016`17`18`19)
- 個展「project N 66 村上早」(東京オペラシティ/東京)
- 2017年
- 「群馬の美術2017」(群馬県立近代美術館/群馬)
- 個展「ours ours」(アンスティチュ・フランセ東京ギャラリー/東京)
- 2018年
- 「第二届国际动漫展」(銀川現代美術館/銀川・中国)
- 2019年
- 個展 「gone girl 村上早展」(上田市立美術館/長野)
■参考作品「すべての火」
撮影 齋梧伸一郎
技法:銅版画
200×250cm
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作品・制作について
人は「傷をつける」という行為を、自分や他者に向けて生きている。生まれた瞬間から持っている動物的本能である。 私が制作に用いる銅版画という技法は、銅の版に「傷」をつけ、そこにインクを詰めて、紙に刷り取る版画だ。 硬い金属を腐食させ、または直にひっかいて傷をつけてゆく。その過程で迷いあやまったものは削り落とし、均し、その上にまた傷をつける。それを繰り返していった先に版ができあがる。私にとって銅版画は、傷つけられる「自分」であり、傷つけてやりたい「誰か」だ。版に痛み分けをし、半分依存するような形で成り立つ制作をしている。ずっとこのままでいたいと願いながら、全てを捨てたいとも願っている。
島審査員 推薦コメント
村上早の銅版画に初めて出会ったのは、「シェル美術賞2015」だが、以来さまざまな展覧会で見るたびにその大胆な仕事ぶりに注目してきた。サイズの大きさもさることながら、大ぶりな筆致が魅力で、緻密で比較的小品が多い銅版画の一般的なイメージとは異なる。主題もユニークだ。描かれる少年や少女、動物などが、いつもどこか不穏な状況下に置かれている。また登場人物の顔が描かれないので、表情が読み取れず、さらに不安を助長する。幼い頃に心臓の手術を経験し、それが肉体的かつ精神的な傷になったという。大学では木版やシルクスクリーンなども試してみたが、最終的に選んだのは銅版、とりわけ銅板に直接描いてから版を作るリフトグランド・エッチングであった。いずれにしても銅板を傷つけるという行為が、村上には最も合っていたようだ。誰もが大人になるにしたがって失ってしまう「子供の線」を描き続けたいと思ってきたという。今後の展開を期待したい。
「レジデンス支援プログラム2018」作家・大城夏紀 Natsuki Oshiro
- 1985年
- 東京都生まれ
- 2012年
- 東京造形大学大学院 造形研究科美術研究領域修了
- 2011年
- 第26回ホルベイン・スカラシップ奨学生認定
- 2015年
- ワンダーシード2015
- (トーキョー・ワンダーサイト渋谷・東京)
- 第26回三菱商事アート・ゲート・プログラム入選作品展(EYE OF GYRE・東京)
- 2016年
- 個展「pianissimo」(ART TRACE Gallery・東京)
- 2017年
- シェル美術賞2017入選(国立新美術館・東京)
- 2018年
- 個展「山と荒磯 dal segno」 (ART TRACE Gallery・東京)
- アートフェア「3331 Art Fair 2018 (アーツ千代田3331・東京)
- シェル美術賞 第1回 レジデンス支援プログラム/オープンスタジオ「Rhapsody in French garden」
- (Cité internationale des arts・パリ)
「波打つヴェルサイユ Wavy Versailles」
撮影 西山功一
技法:アクリル、顔料インクジェットプリント、綿布、パネル
22.5×27.5cm
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今回の展示にむけて
昨年末、出光昭和シェルのサポート(シェル美術賞レジデンス支援プログラム)を戴き、パリのシテ・デザールにてフランス式整形庭園のリサーチと滞在制作を行いました。滞在中、日本とヨーロッパの文化の圧倒的な違いに多くの刺激を受け、また、様々な国のアーティストとの出会いを経て、自身の作品の立ち位置や、「どうしてこの方法でこの作品を作るのか」について、帰国後も深く向き合うようになりました。現地での経験は、今後も作家としての姿勢や作品に影響していくことを確信しております。今回、パリでの滞在を経て、このように大きな発表の機会を与えて戴き大変光栄です。帰国後より展開している、フランス庭園の作品を展示予定です。