シェル美術賞では、作家の未来を応援する企画「シェル美術賞 アーティスト・セレクション(略称SAS)」を2012年よりスタートし、本年は第6回目となります。
本企画は、「シェル美術賞」の過去受賞・入選作家から、今後の活躍が期待される作家を、前年度の審査員と昭和シェル石油により4名選出し、新作・近作の作品展示機会を提供することで、若手作家の活動を継続的に支援することを目的としています。
シェル美術賞展2017の展覧会場内に、併せて展示しますので、ぜひお楽しみください。
本江邦夫審査員長推薦作家・柴田七美 Nami Shibata

- 1985年 熊本県生まれ
- 2008年
- 尾道大学芸術文化学部美術学科卒業
- 2009年
- トーキョーワンダーウォール公募2009入選作品展(東京都現代美術館・東京)
- 2010年
- トーキョーワンダーウォール公募2010入選作品展(東京都現代美術館・東京)
- TWS-Emerging137柴田七美「ROOFS」(トーキョーワンダーサイト本郷・東京)
- 2013年
- シェル美術賞2013入選
- 2013年
- 個展「黄色い舞台」(Takashi Somemiya Gallery・東京)
- 2014年
- 個展「アクター」(Takashi Somemiya Gallery・東京)
- 2016年
- 個展「モンタージュ」(みぞえ画廊・福岡)
■作品・製作について
私はいつも「何を描くか」よりも「どう描くか」を考えながら絵を描いていますが、舞台や役者は、そうするのに適したモチーフのひとつだと思っています。
なぜなら、舞台上に組み立てられた空間や役者が纏う衣装、振る舞いは虚構だからです。
そのため、演劇空間に作り出された場面や人々の姿が示す、時代や場所、登場人物の性別、人種などの情報によって絵画が意味付けされることはなく、私はキャンバス上に描かれる形や色、対象を追うことで形成されていく絵肌の物質感や、作品そのものの存在感について、考えを巡らせながら筆を動かすことが出来ます。鑑賞者である私は彼らの物語に介入することがないので、舞台と客席の距離感が、モチーフと私自身のそれとして、常に一定に保たれる所も気に入っています。
■本江邦夫審査員長 推薦コメント
柴田七美の人と芸術について私が知るところはまことに少ない。とはいえ、描写性を残しつつも、画面そのものをねっとりした絵具(肉体の隠喩)の堆積とみなそうとする姿勢はまるでモダニズム絵画の権化―奇妙に原理的であり、過激ですらあるとは思う。彼女はこういう描法をどこで獲得したのだろう。天性のものを感じるしかない。画家の描く意志がそのまま伸縮自在の物体つまり油絵具に乗り移り、屈託なく広がっていく。その一方で、舞台上の人物といえば、生身の俳優に決まっているのだが、柴田の場合はただの人形のようにも見える。ドールハウス(一定の縮尺による家屋の模型)の一部と考えた方が自然かもしれない。奇怪に非人間的な現代社会の縮図とも。ふと思うのは人の心を読み取って自由に変容する、謎の惑星ソラリスの、あのコロイド状の海の不穏な気配だ。「どうしたら画面が完成するか、結果的に厚塗りになった」―新進画家の意外に本質的な一言である。
能勢陽子審査員推薦作家・西村有 Yu Nishimura

- 1982年 神奈川県生まれ
- 2004年
- 多摩美術大学美術学部絵画学科卒業
- 2010年
- 個展「西村有展」(清須市はるひ美術館・愛知)
- 2013年
- 個展「TWS-Emerging 2013」(トーキョーワンダーサイト本郷・東京)
- シェル美術賞2013 保坂健二朗審査員奨励賞
- 2015年
- 個展「project N 61」(東京オペラシティ アートギャラリー・東京)
- 2016年
- 「絵画のゆくえ2016」(損保ジャパン日本興亜美術館・東京)
- 個展「投射」(KAYOKOYUKI・東京)、現代地方譚4(すさきまちかどギャラリー・高知)
- 2017年
- 「夏の扉」(シェーンキャンベルギャラリー・シカゴ)
- 個展「portrait」(KAYOKOYUKI・東京)
■作品・製作について
いろんな物事がそれぞれの速度で世の中にあって、それを目で追うことも見過ごしていく こともできる。自分もまた、毎日同じ景色の中を移動する。フラットな感情の中から不意に立ち上がってくる意識は、いつもこの映像の中にある。 一瞬の連続の先にある今に追いつこうとする、その経験の中を描きたい。 まずは知っている形から入らないといけない、そこから少しずつ移動していく、物事の周辺にある形が視界に入る。ちょうど景色の中を歩きながら何かが自分の中に入ってくるように。日常におけるそうした機微を、画面に反映できればと思う。
■能勢陽子審査員 推薦コメント
西村有の絵画は、古くて新しい。これといって斬新な手法や主題が用いられているわけではないのに、一度観ると忘れられない独自の空気感を纏っている。少女や車、犬や猫など、描いている対象はなんということのない身の回りの光景なのに、それが特別な透明感を孕み始める。淡く澄んだ色彩で何層にも描かれた画面は、光が乱反射しているようである。走行する車も、歩く少女も、木々の葉も、止まっているようで動いているように見える。それはまるで、同じ場所で連続する時間が重なったような、ちょっとした不可思議さを与える。しかしその絵画は、空想によるのではなく、あくまで日々の観察から生まれている。どうということのないふとした瞬間にも、光は満ち、大気は流れる。人物の表情や身体の動きは生硬なのに、それとは反対に、髪の毛や木々の葉は生き生きと流動的である。西村有の絵画は、退屈なのに新鮮な、まさにこの世界の一瞬そのものである。
島敦彦審査員推薦作家・竹中美幸 Miyuki Takenaka

- 1976年 岐阜県生まれ
- 2003年
- 多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻修了
- 2011年
- 個展「鮮やかな残像」(新宿眼科画廊・東京)
- 2012年
- VOCA展2012 -新しい平面の作家たち- (上野の森美術館・東京)
- 個展「transparency」(アートフロントギャラリー・東京)
- シェル美術賞2012 島敦彦審査員奨励賞(国立新美術館・東京)
- 2013年
- みづゑの魅力 明治から現代まで (平塚市美術館・神奈川)
- 個展「闇で捕えた光」(アートフロントギャラリー・東京)
- 2015年
- 「超少女まぶさび宇宙 竹中美幸:寺田就子 企画:篠原資明」(ギャラリーキャプション・岐阜)
- 2016年
- 「High-Light Scene大洲 大作:竹中 美幸:中島 麦 企画:平田 剛志」(Gallery Parc・京都)
■作品・製作について
不確かなかたちをもって存在しているものに興味があります。
様々な素材を用いて制作しているのですが、主に透明な素材を用いて制作しています。透明な物質はそれ自体存在感の弱いものですが、自分が作品としてみせるときに弱いからこそそこに眼を向けた際の気づきも与えられればと思っています。
この作品はかつて映画館で上映されるのに使われていた(現在はほぼデジタル上映)映像用のポジフィルムに、目を閉じても開いても真っ暗な暗室のなかで感光させました。物語を排除し記録された色は純粋な光のようで、またそこから新たな物語が立ち上がるような気もします。
■島敦彦審査員 推薦コメント
シェル美術賞展2012の出品作《夏の器》が、竹中美幸との初めての出会いであった。紙に水彩、パステル、墨を用いてわずかなタッチで描かれた絵で、私は図録に「抽象性と具体的なイメージの余韻とが軽やかな融合を見せている」と書いた。その後、竹中は、アクリル板に樹脂、さらに近年は露光させた35㎜フィルムを積層させる作品へと展開しているが、その柔らかい光の色彩や表情は瑞々しく、文字通り透明感が増した。色の配置や濃淡にとりたてて計算が感じられなかった絵の魅力が、フィルムでは制御できない光の力を積極的に受け入れ、活かそうとしているように見える。今回の出品作には、映画の未使用フィルムを暗室で感光させたものが含まれるという。フィルムに物語を語らせるのではなく、純粋な光それ自体をまとわせ、提示するのである。送り穴(パーフォレーション)のリズムと感光した色彩とが、どう呼応するのか、楽しみである。
昭和シェル石油推薦作家・熊野海 Umi Kumano

- 1983年 福井県鯖江市生まれ
- 2007年
- 東京芸術大学美術学部工芸科陶芸専攻 卒業
- 2010年
- トーキョーワンダーウォール公募2010入選作品展 トーキョーワンダーウォール賞受賞
- シェル美術賞展2010 家村珠代審査員賞受賞
- 2011年
- VOCA展 2011-新しい平面の作家たち (上野の森美術館、東京)
- 個展「HAPPINESS∞REVOLUTION」(トーキョーワンダーサイト本郷、東京)
- 2013年
- 第16回岡本太郎現代芸術賞展 入選 (川崎市岡本太郎美術館、神奈川)
- グループ展「東京画II-心の風景のあやもよう」(東京都美術館)
- 2014年
- 個展「-bifrost-」(NPO法人E&Cギャラリー、福井)
- 福井県の助成金にてベルリンに滞在 ベルリン芸術大学 Guest Student
- 2015年
- 吉野石膏美術財団在外研修員としてベルリンに滞在
- 2016年
- 個展「Unexpected Stories」(ロンドン大和ファウンデーション、ロンドン)
- 2017年
- グループ展「Echo of the Echoes」(西武渋谷店B館美術画廊、東京)
■作品・製作について
ありふれた日常のモチーフや風景は、それらの関係性の意味を組み替えたり接続することで、非日常の景色へと変わる。それはミステリアスで謎にみちたランドスケープであり、スケールの矛盾を超えて映画のような世界へ連れ出してくれる。具象でありながら絵画の不完全性や偶然性を身体的行為を通して作品に落し込み、つかみどころのない現代社会の不穏な闇とともに、日常のささやかな幸福や希望を表出したい。そして現代において、絵画というクラシックな視覚世界だからこそ、現実では知覚できない広大な次元の空間を可視化させていきたいと考える。
熊野さんの過去受賞者インタビューはこちら
■昭和シェル石油 推薦コメント
熊野海の2010年の受賞作品は、鮮やかなストライプ模様を背景に、煙のような巨大なモチーフが印象的な、色彩豊かで勢い溢れた作品であった。地元・福井県のサポートを受け、ドイツ・ベルリンに約2年半滞在し、作風は変化と進化を遂げた。現地では「実験」という制作活動を繰り返し、新たな表現方法、色の使い方を見出した。現地で暮らす人や風景などが、深みのある幻想的な色で描かれており、作品を目の前にすると、その色合いに目を奪われ、次第にその世界に引き込まれてゆく。海外での成果を活かし、彼にしかできない今後の制作にも期待したい。