【グランプリ】小川直樹さん 作品名「メモリアル」
-グランプリを受賞されて、どのようなお気持ちですか
自分の故郷で得たイメージから作品が現れ、その作品が私の日常から遠く離れたところで評価を受け、そして多くの方に鑑賞して頂ける機会を得た事に不思議な心持ちでおります。
-シェル美術賞に応募しようと思ったきっかけを教えてください
シェル美術賞展での展示は、私個人の展示ではとても出来ない集客力があります。自分の制作したものと他者を繋げる大規模な場として、とても魅力的な発表の場だと思いました。
-絵を描くことにどのように興味を持ち、今に至ったのかを教えてください
小中高と運動部に所属していたので、本格的な美術活動には縁遠かったです。しかし、幼い頃に透明のビニール袋にマジックペンで絵を描いていたところ、それを幼稚園の先生に「自分の子どもにあげたいから、もっと描いて欲しい」と言われ、子ども心に嬉しかったのを記憶しています。当時、自由帳に絵を描くのも本当に好きで、ただ漠然と絵を描くなかで、自分の世界を作る感覚を幼いながらも感じていたのかもしれません。
高校の時、絵を描く道に進みたいという思いは子供の頃から続いていて、美術部の先生に頼み込んで基本的な技術を教えてもらいました。それから、なんとか大学に入り作品制作を続け、卒業した年に初個展を行いました。そこで初めて自分だけの作品で空間が出来上がり、それまでの漠然とした希望や見えない感覚を、ある種の形に現わせることを実感しました。
-作品製作において、どんな手法を用いていますか
個人が持つ時間、その中で出会う光景や出来事の中で、その人だけが見つけることのできる部分があると思います。近年の制作では、私の経験したものや、その時間の中で出会うモチーフ(水面・森・人間・記憶・夢など)が要素となっています。変な言い方ですが、きわめて個人的な歴史を紡いでいくような行為ともいえます。共通認識としての世界の形ではなく、細かく枝別れしていく通路を歩き続けるように、外ではなく内へ向かって意識を広げてゆく。そして、そこから現れる孤独な想像性を繋ぐことで、魅力的な世界が立ち現れるような期待感を持って制作しています。
-画家として、大事にしていることはなんですか
作品の世界が持つバランスを大切にしています。これが崩れるとただの仮想となる恐れがあります。だから、感覚的な嘘をつかないように気をつけています。
-今作品のコンセプトについてお教えください
今回の作品に描かれている灯台は、私の故郷にあるものです。一冊の本、遠縁の男性の随筆集を読み、そこに現れる灯台に訪れました。実はその灯台は、私が幼い頃に訪れていた場所でもあります。ともに描かれている文机と本棚類は、実際の私の作業部屋。個人的な現実を認識させてくれるポイントのような記憶や光景が、多くはないですが私にもいくつか見つけることができました。それらはどこか響き合うような部分があって、イメージを喚起させてくれたり光や空間の質感として今回の作品のモチーフに干渉している様に思えます。反復する日常とは異なる、そうした現実の認識方法。その中で描かれた作品は、私が私の時間の中から繋ぎ合わせた世界の形の断片なのです。
-制作に掛かった時間、 またどんな想いで描かれましたか
描き出すに至るまでの時間もあるので、単純に何日というのは断定しにくいのですが、描き出してからはおおよそ20日ほどだったと思います。いざ描き出すと、バラバラな要素が自分という受け皿の中でひとつずつ繋がってゆく感覚がありました。初めは暗い色調だったものが段々と明るくなっていったのは、やはり灯台の性質がそうさせたのかも知れません。そうした、どこか不思議な高揚感を感じる制作となりました。
-今後の活動(展示など)の予定、目標、夢などがあれば教えてください
予定としては、2017年の4月17日から4月29日まで、大阪の『Oギャラリーeyes』にて個展を開催します。あと希望としては生まれ故郷の美術館で個展ができたらうれしいです。