シェル美術賞では、作家の未来を応援する企画「シェル美術賞 アーティスト セレクション(略称SAS)」を今年からスタートします。
この企画は、以前にシェル美術賞を受賞・入選された方を対象に、今後の活躍が期待される作家を紹介するもので、前年度の審査員と昭和シェル石油により選ばれ、作家の今と未来を映す、新作・近作を展示します。シェル美術賞展2012の会場内にコーナーを設けて展示いたしますので、是非、お楽しみください。
本江邦夫審査員長推薦作家 - 青木 恵美子

- 1976年生まれ
- 2008年
- 多摩美術大学造形表現学部造形学科油画専攻卒業
- 2010年
- 多摩美術大学大学院博士前期課程油画研究領域修了
- 2010年
- 個展 ANOTHER FUNCTION「青木恵美子展」(六本木)
- 2010年
- 個展「青木恵美子展 -静かな始まり-」(ガレリア・グラフィカbis)
- 2010年
- シェル美術賞2010 本江邦夫審査員賞(代官山ヒルサイドフォーラム)
- 2010年
- 第29回損保ジャパン美術財団 選抜奨励展(損保ジャパン東郷青児美術館)
- 2012年
- 個展「沈黙の終わりに」(藍画廊)
- 2012年
- アーツチャレンジ2012(愛知芸術文化センター)
■作品・製作について
どこか不純な現実に対して、純粋無垢な世界が見てみたい。それが私の制作の動機です。頭の中にきらきらする<純粋無垢>は、肉体と感情の限界を超えたある種のカオスとして現れてきます。
そうしたカオスを根底ないし背景として、私の作品は他者や外部を取り込みつつ、常に変化しつづけるものであって欲しい。豊饒かつ澄明な色の広がりに<生命>を感じることで、日常の奥にあるイデアルな世界と向き合うきっかけが生まれたら、それはどんなに素敵なことかと思うのです。
ここ最近は生命を象徴する赤という色を追求し、空間を意識した制作をしています。
■本江邦夫審査員長 推薦コメント
いたずらに風俗的な具象の圧倒的に支配する状況下、青木恵美子さんは実に精神的で純度の高い抽象を実現している稀有な画家である。その最大の持ち味は、未来への希望と人の温もりに浸された透明でいて、奥深く晴朗な独得の青、緑、とりわけ赤を基調とする一面の、あたかもそれ自体が静かに呼吸するかのような、ほとんど界面的な広がりにある。ふつうは不穏な現代の非人間的な状況と関連づけて危機的に理解されがちな抽象が、下辺に沸き立つどこか有機的なフォルムの効果もあって、ここではむしろ現代人のすさんだ心を慰め癒す方向に転じている。「絵画」に託された未来の豊かさをしみじみと思う。
島敦彦審査員推薦作家 - 大坂 秩加

- 1984年生まれ
- 2009年
- サロン・ド・プランタン賞
- 2009年
- 第77回版画協会展 立山賞
- 2010年
- 個展「シリアスとまぬけ」シロタ画廊
- 2010年
- シェル美術賞2010 島敦彦審査委員賞
- 2011年
- 東京藝術大学美術研究科修士課程修了
- 2011年
- 個展「良くいえば健気」GALLERY MoMo Ryogoku
■作品・製作について
制作にあたって、言葉をモチーフにし言葉から想像される場所や人物から一つの物語を紡ぎ、そのワンシーンを切り取って描いています。最近では作品に、そのモチーフとなった物語も添えてみせることを始めました。作品に言葉や物語を添えることは、見る側の解釈を限定させる危険性を持っていますが、私の場合これらの言葉や物語は創造のためにあるものなので、あえて作品と合わせて発表しています。
作品の中には皮肉と取れるものもありますが、私は愛おしいもの、味方になりたいものを描いているので、それは非難ではなく、愛情の裏返しとして受け取っていただけると嬉しいです。作品を通した私からのラブレターが、少しでも多くの人に届いて欲しいと思います。
■島敦彦審査員 推薦コメント
大坂秩加さんは、横への広がりを強調した構図と緻密な描写によって、非日常的な光景を現出してきた。洗濯物やテルテル坊主と一緒に少女を吊り下げた《6月6日、明日は遠足》(2010年、シェル美術賞審査員賞)もユニークだったが、やたら横長の銭湯に女性の足がにょきにょきとシンクロせずに突き出た《兎に生まれても亀の皮を被る》(2011年)も一度見たら忘れられない光景だ。陳腐で貧相な場の設定が、巧みな描写によって緊迫感のあるユーモアに昇華している。花を擬人化した新作は、日常に闖入する方法がさらに巧妙になっている。
家村珠代審査員推薦作家 - 笠井 麻衣子

- 1983年生まれ
- 金沢美術工芸大学大学院修士課程 絵画専攻油絵コース修了
- 2008年
- シェル美術賞2008 準グランプリ
- 2009年
- 第24回ホルベインスカラシップ奨学生
- 2010年
- アーツ・チャレンジ2010 新進アーティストの発見inあいち(愛知芸術文化センター)
- 2010年
- 個展 Fundamental Training (YUKA CONTEMPORARY)
- 2011年
- 個展 Place no one knows (YUKA CONTEMPORARY)
■作品・製作について
私は、誰もいない空間、またはさっきまで居たような気配がある場所を見たときに得た現実のイメージと、私自身が練り上げた絵本の世界のような物語の仮構性の両方を、自分が描く絵画に込めたいと考えています。
双方のイメージそのものの変換を試みることで、それらが本質的に秘めているドラマティックさと、その物語上での生活するための訓練の必要度や社会的に制御された側面の両極面を表現できるのではないかと思うのです。
それらの絶えず繰り返される、生き物に義務付けられる基本的な訓練と物語の流動性を、一瞬のストロークと筆致を活かした最小限の仕事量や絵具と筆のかけひきによってどこまで描けるのかを追求しています。
■家村珠代審査員 推薦コメント
正義のため?それとも破壊のため?長髪を振り乱しながら、人知れずトレーニングを繰り返す少女。ツルツルの白い下地に早描きで描かれた、スピードを生きるその劇的姿は、アニメーションなら一瞬にして目の前から消え去るイメージである。しかしそれはその実、ひとつひとつ描かれた日常のスケッチを、試行錯誤を繰り返しながら重ね合わせ、ずらし、ひたすら下絵としてつくり込むことで、ゆっくりと時間をかけて生まれてきたイメージなのだと言う。こうして生まれた絵画は、だから、残像のように見えると同時に、眼前に留まり続けてしまうようにも見えてくる。このなんとも「納まりの悪い絵画」に私は魅力を感じる。
昭和シェル石油推薦作家 - 塚本 智也

- 1982年
- 石川県 金沢市生まれ
- 2004年
- シェル美術賞2004 入選
- 2005年
- シェル美術賞2005 入選
- 2005年
- 愛知県立芸術大学油画専攻卒業、卒業制作桑原賞受賞
- 2007年
- 東京芸術大学大学院修士課程絵画専攻 修了
- 2007年
- 緞帳デザイン制作、シアタークリエ、東宝株式会社
- 2009年
- 九州新幹線新鳥栖駅パブリックアート制作、佐賀
- 2012年
- 個展 「シルエット」、西武渋谷店 美術画廊、東京
- 2012年
- 群馬青年ビエンナーレ2012、ガトーフェスタ ハラダ賞受賞
■作品・製作について
私の作品は抽象画に見えますが、実は人物や動物などのモチーフのシルエットが浮かび上がるように描いています。
色の3原色を薄く塗り重ねて描いており、それらがキャンバス上で幾層ものレイヤーになることで、さまざまな色彩と奥行きが生まれます。
印象派の画家、スーラの作品に見られる点描をエアブラシによるドットの集合体によって引用し、さらに色の3原色を用いることで、絵画のなり立ちを表現しています。
色の交わりによって見えてくる色彩とフォルムは、実際には存在していない(=描いていない)けれど、網膜上では視覚的に存在しているのです。
私は高松次郎の作品にインスパイアされていて、高松が試みていた「不在の存在論」を継承しています。
その手段として「描いていない色彩と、描いていない形が在る」という 2つの「描かない」という表現を組み合わせています。
そうすることで、絵画史における“描く”ことの可能性を提示していきたいです。
■昭和シェル石油 推薦コメント
塚本さんの作品の吸い込まれるような透明感にまず魅力を感じました。三原色という明るく華やかな色遣いの中でいつの間にか浮かび上がる立体的なモチーフは、優しい、リアルな、純粋な、なつかしい、そんな形容詞が当てはまるように感じます。塚本さんの作品は九州新幹線新鳥栖駅構内のパブリックアートとして使用されていますが、人々の旅を演出し、さらにその場を明るくキラキラした光あふれる空間に変える、そんなパワーを持っているように感じます。今までになかった新しい可能性のある作品を、今後も引き続き生み出していただくことを期待しています。