摩擦と潤滑油

面と面との直接接触を防ぐ

実際、摩擦は人間の生活に欠かすことのできないものですが、いろいろな機械にとってはあまり歓迎できるものではありません。なぜなら、摩擦が大きいと、エネルギーをロスしたり、機械が摩耗したりするからです。そこで、こすれ合う面と面との間に潤滑油を入れて面同士の直接接触を防ぎ、摩擦を減らすことになります。

このように潤滑油を使ったときの潤滑の形態を大きく分けると、「流体潤滑」と「境界潤滑」に分類することができます。流体潤滑では、二つの面が厚い油膜で分けられています。一方、境界潤滑では油膜が薄くなり、二つの面が接触しそうになっています。

これらの形態について、もうすこし詳しく説明しましょう。

レオナルド・ダ・ヴィンチの実験メモ

まず、流体潤滑ですが、水上スキーを思い出してください。あら不思議、液体であるはずの水の上に、ちゃんと人が浮かんでいます。

これは液体の抵抗力が人を浮かせているためなのですが、潤滑油の場合も同様です。潤滑油の抵抗力、つまり粘度によって、物体を浮かせることができます。この潤滑形態が工業的に上手に利用されているのが「すべり軸受」でしょう。すべり軸受は、回転する軸を支える軸受の一種で、自動車のクランクシャフトなどに用いられています。
図1 すべり軸受
満員電車に人が乗り込んでくるとますます中の圧力が高くなってしまいますが、すべり軸受でも同じことがいえます。図-1のように、軸が回転すると、それにつられて潤滑油が狭い隙間へと引きずり込まれ、圧力が発生します。この圧力で軸を浮かせて、摩擦力を減らすのです。潤滑油の進入場所がくさびのような形状をしているので、この現象を“くさび効果”と呼んでいます。

境界潤滑-分子膜で潤滑する

図2 添加剤分子が吸着した例
次に、境界潤滑の場合です。流体潤滑のような潤沢な油膜が残念ながらできない状態では、分子オーダーの膜で二面間を潤滑します。そこは表面の化学的性質がものをいう境界潤滑の世界で、表面に吸着したわずかな分子膜(図-2)や、添加剤による表面の改質層が摩擦力を減らします。
図3 摩擦係数に及ぼす脂肪酸(オレイン酸)分子膜の枚数の影響
例えば図-3を見ると分かるように、わずか分子十数枚の添加剤の吸着膜によっても、摩擦係数を大きく下げることができます。
一般に潤滑油は、原油を精製して作ったベースオイルに、このような添加剤を混ぜて作ります。多いときには20種類以上もの添加剤を組み合わせることがあります。

混合潤滑と弾性流体潤滑

以上が潤滑の代表的な二形態ですが、この両者が入り混じっていることがあります。これを「混合潤滑」と呼んでいます。

また、境界潤滑のはずなのに、流体潤滑のような顔をしている場合があります。これを「弾性流体潤滑」と呼びます。

たとえば転がり軸受や歯車の潤滑面には、1万気圧を超える(1平方mmあたり100kg以上)ような大きな力が掛かっていますが、そのような状況では、金属といえどもゴムボールのように弾性変形をします。その中に閉じ込められたオイルの粘度はとても高くなり、潤滑油膜を形成して潤滑面を直接接触から防いでいます。すなわち金属が弾性変形するほどの圧力の中で油膜という流体が潤滑している状況、これが弾性流体潤滑なのです。近年、自動車用変速機として注目を集めているトロイダルCVTもこの領域を利用しています。
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